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474回目 最後の魔王、『ヒト』

 影が剥がれ落ちて、そこに現れたのは確かに見た事のある顔だった。具体的にはレクターの戴冠式で見た顔であり、名前はマッカシー枢機卿だったな。何故か俺に強い敵意を向けて来ていたのを覚えている。


 …………だが、あの時は確かに人間だったマッカシー枢機卿は、今や人外の威圧感を纏っている。しかもこの威圧感には、覚えがある。



「気づいてやすかい、旦那」


「ああ。これは…………魔王の威圧感だ」



 そう、マッカシー枢機卿が纏う威圧感、それは魔王が纏っている物と同一だった。


 何故、人間である筈のマッカシーから、そんな威圧感が放たれているのか? という疑問もあるが、もうひとつ、マッカシーの狙いが俺の命ってのも腑に落ちない。


 いや、それが『魔王になったから勇者が邪魔』だと言うのなら解るのだが、マッカシーは戴冠式のあの時から俺に敵意を抱いていた。


 だが俺には、マッカシーに恨まれる覚えが無い。



「…………マッカシー。これは大問題だぞ。貴様のせいで、『聖エタルシス教会』が終わる程の大問題だ!」


『平和ボケが過ぎるなレクターよ。とてもこの世界の人間の言い様とは思えない。事ここに至って教会など何の意味がある? 少なくとも教会など、私はもういらぬ。この姿も『マッカシー』とて、もう終わりだ』



 そう言うと、マッカシー枢機卿の姿に変化が訪れる。


 その体の表面に無数の光の筋が走り、明滅を繰り返しながらマッカシーの体を変化させていく。それを見て一番驚愕の表情を浮かべたのは、ドゥルクとカーネリアだ。



「バカな、ありえん!! 何だそれは…………!?」


「『魔力回路』? そんな、魔力回路が重複して走るなんて…………!?」



 二人の驚愕をよそに、マッカシーの外見の変化が終わる。その姿を見て一番驚いたのは俺だろう。何故ならその姿は、黒髪に黒目の上に顔立ちもあって『日本人』そのものだったからだ。



「お前! 日本人か!?」


『ああ、やはり解るか。そりゃそうだよな。こっちに日本人的な顔立ちは少ないからな』



 マッカシーは、その姿だけでなく声まで変わっていた。いや、そもそも若い。外見的には高校生、いやもしかしたら中学生くらいかも知れない。



「お前も『勇者』なのか? …………マッカシー枢機卿はどうした?」


『うん? …………ああそうか。そりゃ勘違いもするな。マッカシー枢機卿なんて男は最初からいないよ。あれは俺だ。俺が姿や声を変えながら演じていただけだよ。最初から』


「…………俺より前に『召喚』されていて、こっちの人間のフリをして教会に潜り込んでいたのか…………」


『…………まあ似たようなものか。俺が召喚されたのは何千年か前で、教会には姿を変えながら何度も潜り込んでいるけどな』


「…………なんじゃと? …………貴様、いったい誰じゃ?」


『俺の名は奈落だ。『黒部 奈落』。知らないかも知れないけどな』


「…………ナラク? ……………………ナラク=クロベ!! 闇の勇者か!?」


『へぇ、知ってるとは流石『ドゥルク=マインド』。いや、俺の悪名が有名なのかな?』



 闇の勇者『クロベ=ナラク』。それはほんの僅かな人間だけが知る大昔の勇者の名前だ。


 俺もドゥルクと話をしている時に、少しだけ聞いた覚えがある。他言無用と口止めまでされた、自分の妻子ごと一つの街を滅ぼして姿を消したと言う、『闇の日』と言う厄災をもたらした勇者の名前だ。でもそれは…………。



「何千年も前の話だろ。そんな昔から生きてたってのか!?」


『長く生きているのが不思議か? 簡単な話だ、俺に押し付けられた『スキル(呪い)』が、そう言う能力だったのさ。人やモンスターから魂の一部を奪い、魔法やスキルを手に入れる能力。その副作用で、奪った分だけ寿命も増えたのさ。そのせいで奪われた奴は早死にするけどな』


「魔法とスキルを奪う!?」



 それはヤバイ!! 俺のスキル『ガチャ・マイスター』まで奪われたら、俺は何も出来なくなってしまう!!



『…………安心しろ、お前のは()()()()()()。何故かは知らないけどな…………』



 …………奪えなかったって事は、奪おうとはした訳だ。なんて事だ、危なく何もせずに詰む所だったのか。


 だが、それが出来ないと解ったのは朗報だな。何でだかは解らないが、神々が何か対策でもしていたのか?



「なるほどのぅ。それは恐らくガモンのスキルが、ガモンの魂を全て利用して作られているからじゃろうな」


「ドゥルク、何か解るのか」


「あの手の奪う系のスキルは、その回路を自分の魂に投影する事が前提じゃからな。あまりにも複雑に絡みあった回路は、その全容を理解できない為に奪えないのだ。…………どうだ? 複雑な条件の魔法や、ダンジョンボスなんかのスキルは奪えなかったのではないか?」


『…………ああ。心当たりがあるな。…………つくづく欠陥品だなこのスキルは。まあ、今となってはどうでもいい。どうせすぐに、全てが滅ぶ』


「…………奈落って言ったな? お前の目的はいったい何だ?」


『簡単に言えば、俺は滅びたいのさ。もう生きるにも飽きたし、この世界が存在するのも忌々しい。あの『方舟』って言ったか? あれで世界が滅びてもいいし、今の俺が手に入れたこの力で滅ぼすのもいい。とにかく最終的には、全部無くしたいんだよ、俺は』



 そう言った奈落の全身が黒く変色し、その眼が真っ赤に光った! その全身から発せられる威圧感は、正しく『魔王』そのもので、何もされていないのに、俺達の体は後ろに押し下げられた!



『俺は魔王になった!! 『郷愁の禍津像・ヒト』を取り込んで、魔王の影と同化したのさ!! こればかりは俺のスキル『深淵の闇』のおかげだな!! 俺のスキルと魔王は、最高に相性が良かったのさ!!』

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