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472回目 新たなる『闇の日』

 奈落が最初にそれを見つけたのは、勇者として魔王封印の旅をしていた時の、最初のダンジョンの中であった。


 動物がうずくまり、苦悶の表情で頭を抱えている像で、その名も『郷愁の禍津像・ハイエナ』。それが宝箱から出て来たのを見た時の感想は、「なんだこれ気持ち悪っ!!」と言うものだった。


 仲間の反応も概ね同じだったのだが、せっかく宝箱から出て来たアイテムを捨てていくという選択肢は無かった。だが持ち帰った後に、売るのに反対したのは奈落である。


 奈落には、部屋に引きこもってゲームだけをしていた時期があり、その時にやっていたロールプレイングゲームの経験から、これは動物が基本になっている『魔王』に何らかの関係があると主張したのだ。


 とは言え、あまりにも不吉で『郷愁の禍津像』などと言う名前のアイテムだ。呪われている可能性もあるので、禍津像は見つけた端から、奈落の『深淵の闇』へと収納された。


 そして、奈落のスキルに収納された禍津像の数が十を越えた頃、奈落のパーティーは魔王『ヒグルマネズミ』の封印に挑んだ。


 火を纏い、体を回転させて転がる『ヒグルマネズミ』の眷族を蹴散らして、『ヒグルマネズミ』の本体と相対した時、奈落は自身のスキルに収納されていた『郷愁の禍津像・ヒグルマネズミ』を取り出した。


 ゲームに慣れてしまっていた奈落は、これで何かが起こると確信していた。禍津像の効果で弱体化するか、禍津像を前にして動けなくなるか、はたまた禍津像と合体でもして『神獣』となるか、恐らくはこれらのどれかが起きると、いずれにしてもマイナスにはならないと、そう盲目的に信じ込んでいた。


 だが実際に起きた事は、魔王に触れられた禍津像が消え失せ、その代わりに強力な力を持つ特別な眷族が現れると言う、最悪の事態だった。


 魔王だけでも手こずっているのに、強力な眷族が現れた事で奈落のパーティーは崩壊し、何とか軍の力も借りて魔王を封印はしたものの、数名の犠牲者を出す結果になった。


 この経験から、奈落は持っている全ての『郷愁の禍津像』を破壊しようかとも考えたのだが、禍津像を使った結果、強力な眷族が現れた事実から、破壊する事でも何か起こるかも知れないと思い、仲間との話し合いの結果もあって禍津像をスキルに封印する事にした。


 勇者をやっていた頃には『郷愁の禍津像』はスキルに封印し、世界に絶望した時にはどうでもいいと放置して、世界を滅ぼすと決めた後は、使い道を模索した。


 もちろん、我聞のもたらした情報で『郷愁の禍津像』の真実も既に知ってはいるが、今となっては破壊して魔王を減らす事は、奈落の目的には反するのだ。


 そして今、世界を滅ぼす側へと回った奈落は、多くの『郷愁の禍津像』と自身のスキルを使って、世界の滅びへと動き出した。


 暗く歪み、濃く深く沈んだ『闇』が、最悪の形で世界を飲み込もうとしている。



 ◇



 我聞達がいる大陸から西。海を隔てた先にある大陸には、幾つかの国があった。


 この大陸の人々も、我聞達がいる大陸と変わらずに、封印された多くの魔王がありながらも、それとは知らずに、平和な暮らしを謳歌していた。



「…………ん? 何だ?」



 最初にその異変に気づいたのは、とある大きな街の若き衛兵だった。


 街をぐるりと囲う塀の上から見る景色、その一部が歪んでいたのだ。


 歪んだ景色の中心にあるのは、とある社。衛兵の若い男は知らなかったが、それは魔王を封印している地である。その社のある周囲が歪んで見え、やがてその社から、真っ黒なモヤが吹き出して、若い衛兵のいる街の方まで広がって来た。


 それが何かは解らない。しかし唐突に全身に鳥肌が立った衛兵は、とっさに自分の家族だけでも逃がそうと走り出した。


 しかしそのモヤのスピードは速く、衛兵が壁を降りて走り始めた時には、真っ黒なモヤはすでに大きな街を飲み込み始めていた。



「…………あ、足が!?」


「な、何が…………!?」


「体が…………! 体が動かない…………!?」



 街を飲み込む黒いモヤに触れた者が、その場に倒れて動かなくなる。それはモヤと共に放射状に広がり、全ての生命の活動を止めていった。


 その恐ろしい光景は、西の大陸の様々な場所で起きていく。


 黒いモヤは、必ず『魔王封印の地』から吹き出して、近くにいる人々を飲み込んでは、その意識を刈り取っては広がっていく。


 やがてそれらは一つとなって西の大陸の半分程を飲み込むと、その黒いモヤの中心部に集約し、『闇の球体』となった。


 だが、それを目撃する者は居ない。


 何故ならその周囲数千キロに渡って、全ての生き物が魂を引き抜かれてしまっていたからだ。


 その『闇の球体』は、世界に再び『闇の日』をもたらした。

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