471回目 暗い歓喜
時が流れ、奈落は『マッカシー』と言う名で『聖エタルシス教会』に入り直した。
奈落は偽名を名乗る時に、かつてのパーティーメンバーや家族の名前を使っていたので、『マッカシー』を名乗るのも数回目になる。
それらの名前は仲間や家族であると共に、あの『闇の日』に奈落が命を奪ってしまった大切な人達の名前でもある。奈落は無意識ではあったが、その名前を忘れない様にしているのかも知れない。
何度も入り直している教会だが、今の教会には奈落の息の掛かった者も多い。それも、奈落が『不老不死』であり、名前も姿も変えてずっと教会の中に入り込んでいる事も理解した上で協力しているのだ。
それらの者達には、奈落と血の繋がった者も多い。奈落は長い時間の中で、自分の手駒となる血族を増やして来た。
血縁の情などと言う物は、すでに奈落には無い。あの『闇の日』に奈落を狂わせた闇は、とっくの昔に奈落の心を漆黒よりも深い闇で塗り潰しているのだ。
そんな奈落の元に、様々な場所に潜り込ませている配下の一人から、予期せぬ報告が舞い込んだ。
「…………新たな勇者だと? それも召喚したのはテルゲン王国? …………あの国に召喚される勇者はいないと放置したのが裏目に出たか…………」
我聞が勇者として召喚されるまで数百年もの間、勇者は召喚されなかった。…………と、言う事になっている。
だが、そんな訳が無いのだ。宇宙に『方舟』がある事もそうだが、封印されているとは言え、地上には数多くの『魔王』がいる。
魔王になりかけているのを、自らの意思で抑え込んでいる女神ヴァティーのような存在がいる。
これ程までに不安定な世界に、『平和だから』と言う嘘みたいな理由で勇者が召喚されていないなど、そんな事がある筈がない。
勇者は、『召喚されなかった』のではなく、『召喚出来なくされていた』のだ。他ならぬ奈落の手によって。
「…………勇者…………勇者か。忌々しい。何が勇者だ。ただの負け犬だろうが。また自殺した者を引っ張ったのか? …………いや、報告を聞いた限りではそんな感じでもなかったな。なら、飛び降りようとした者か? …………フン、それはどうでもいい事か」
大事なのは、その勇者がどんな『スキル』を持っているかだと、奈落は考えた。報告を見れば、役に立たないアイテムを色々と出したらしい。
クジ引きの様なスキルだろうか? と、ギリギリだがソシャゲのガチャを知らない時代にいた奈落は考える。
「…………しばらくは様子見だな」
そう結論付けて、奈落は新たに召喚された勇者に見張りを付けるように指示を飛ばした。
◇
新たな勇者、我聞が現れてからしばらくして、奈落は初めて『方舟』の存在を知った。
この世界において、宇宙に浮かぶ『方舟』の存在を知った者の反応は『絶望』である。 それは確実に訪れる滅びの未来なのだから、絶望するのは当然の事だ。
だが、奈落は違う。奈落が求めるのは『終わり』であり、世界が滅びる事は奈落にとって『喜び』だった。
あの『方舟』が落ちたなら、間違いなく被害は甚大だ。それも、あの『方舟』には魔王どころか幻獣まで多数乗っていると言う。
この状況を打開する術など無い。何処に『方舟』が落ちるのだとしても、どうにもならない。
魔王や幻獣をどうにかしたとしても、その大量の『瘴気』にまでは対処が追い付かないからだ。
「アハハハハハハハハッ!! 神が仕掛けた事が結局はこの世界を滅ぼすのかっ!! 滑稽に過ぎるな神々よ!! アハハハハハハッ!!」
巡り巡って神々がもたらした滅びに奈落は歓喜し、心の底から神々を侮蔑した。
現代の勇者である我聞のスキルを持ってしても、この滅びを止めるには及ばない。そう考えたからだ。
それは我聞のスキルから出て来た☆5『◇天空城『レナスティア』』を見ても変わらなかったが、その後に出て来た我聞の飛空艇『アベルカイン』を見て、覆った。
実は一つだけ、奈落にはこの世界を存続させるに足る策があった。
それはあまりにも突拍子も無い策で、とても実現出来るとも思えない策だった。そもそも普通の人間では、そこには辿り着かない。そう思っていた。
奈落も、日本でやっていたとあるゲームの世界観を知っていたから、思いついたような策だ。
とてもじゃないが、そこに辿り着くとは思えないし、思い付いた所で、実現するとも思えない。
だが、我聞の飛空艇『アベルカイン』のデザインを見て、奈落は我聞がそこに辿り着く可能性がある事に気が付いた。なぜならその飛空艇『アベルカイン』こそが、奈落の言うゲームの主人公が乗る飛空艇、そのもののデザインだったからだ。
我聞は、奈落がやっていたのと同じゲームをプレイした事がある。神々が勇者を引っ張って来る時代が、地球上では僅か数十年に集約している事は、奈落も気づいていたので、あり得ない偶然では無い。
問題は、奈落が知る物と同じ世界観を見ている我聞は、奈落と同じ結論に達する可能性が高い事である。
…………殺さねばならない。アイツは、もしかしたら辿り着くかも知れない。そしてアイツのスキルなら、その突拍子も無い策を、実現しうるかも知れない。
この時初めて、奈落は我聞を『敵』として認識し、強い殺意を抱いた。この世界が滅びる邪魔をする者は、排除しなければいけないと…………。
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