47回目 初めての冒険者ギルド
「冒険者ギルドに着きやしたぜ。若様、あっしは馬車の移動をしておきまさぁ」
「わかった。じゃあ行こうか、ガモン」
「お、おう」
ティムの説明によると、タミナルの街は大きく三つに分割される。まず北側に行政区、西側には住居区、そして東側に商業区だ。
領主の住む城…………と言うか宮殿があるのが北側で、西側にはこの街のほとんどの住人が住む家が建ち並んでいる。そこもまた貴族と一般人によって住み分けがあるのだがそれは置いておく。
そして東側にある商業区には、様々な店や娯楽施設と冒険者ギルドや商業ギルド、外部から来た人達のための宿屋や酒場等々が集中している。俺が世話になるというタカーゲ商会は、この商業区の一番奥、行政区や住居区に最も近い所にあるそうだ。街の中心部とも言う。
まあそれは追々として、今は冒険者ギルドである。
冒険者ギルド。なんて素晴らしい響きだろう。その言葉ひとつで冒険が始まりそうな、その場所に一歩踏み出すだけで歴戦の強者になれそうな、そんな気がする響きである。
端的に言うと、俺はワクワクしていた。
きっと、冒険者ギルドに入るとすぐにイベントが起きるのだ。新人をいたぶって憂さ晴らしをするような荒くれに難癖をつけられて、俺がそれを軽く捻って「ア、アイツただ者じゃねぇ!」とか「とんでもない新入りが入って来やがった」とか「な、なんだあの規格外の強さは!?」とか言われるのだ。くふふ…………。
「ガモン、ギルドに入らずに外で立ち止まってると思ったら、なにブツブツ言ってるんだ。ちょっと怖いぞ? あと、夢見るのはいいけど、ガモンってそんな事が出来るくらい強かったっけ?」
「聞かれてた!? …………い、いやでも、これはテンプレってヤツで、冒険者ギルドと言えばそんな荒くれの一人や二人は…………」
「いないよそんなの。確かに口も素行も悪いのもいるけど、基本的にみんな大人だからな? こんな所で暴れたりしないよ。分別はわきまえてる」
「…………そ、そうか」
…………あれ? 冒険者って荒くれが多いんじゃないのか。分別かぁ。分別をわきまえた冒険者って、なんかヤダなぁ…………。イメージが違う。
「ホラ、とにかく早く入るぞ」
「お、おう」
────冒険者ギルドとは、凶悪なモンスターに挑む強者が集う場所。その中には伝説級の冒険者が仕留めたドラゴンの頭蓋骨が飾ってあり、床には仕留めた獲物や傷ついた冒険者から流れた血の跡が、赤黒くシミをつくっている。
そして中に併設された酒場では、昼間から酒を飲み武勇伝を語るむさ苦しい男や、男顔負けの鍛えられた肉体を持った女冒険者がコチラを品定めしていた。
…………なんて事はひとつも無かった。
タミナルの街にある冒険者ギルドがこうなだけなのか、俺が冒険者ギルドに夢を見すぎていただけなのか。中はもう綺麗なもので、荒くれもおらず、併設されているカフェでは若い冒険者たちが果実水を飲みながら語り合っていた。
ちなみにこの後に説明を受けるのだが、冒険者が持ち込んだモンスターは、冒険者ギルドの横に建てられた、モンスターの解体や素材の査定に買取りを専門とした部署へ回されるのだそうな。
つまりここは、冒険者にとっては依頼を受ける場所であり、俺が言う荒くれ達が見られるのは解体や買取りをしている上に酒場もある隣の建屋という事になる。まあ今いっても、みんな依頼を受けて出ているので誰もいないそうだが。
…………ちょっとガッカリ。
「ガモン、こっちだ」
ギルドの中を見回している俺をティムが呼び、俺はティムに連れられてギルドのカウンターへとやって来た。
そこにはギルドの制服に身を包んだ若い女性がおり、ニッコリと笑いかけてくれた。
「冒険者ギルド・タミナル支部にようこそ。本日はどんなご用件ですか?」
「ここにいる彼の冒険者登録をしてもらいたい」
「かしこまりました。…………えぇっと、貴族様の登録という事でよろしいですか?」
「いや、彼は平民だ。普通に登録してくれればいいよ」
「ではこちらに名前と出身地、得意分野の記入をお願いします」
出された紙に、サラサラと名前を書く。この世界の文字は日本とはまるで違う物なのだが、なぜか書けるし読める。その理由は分からないが、深く考えてもきっと答えは出ないので、俺は考えない事にしている。
そして名前を書き終えて次に進んだ所で、俺のペンは止まってしまった。
「…………出身地に…………得意分野?」
「はい。前衛や後衛、斥候や回復・補助要員などですね。依頼の斡旋や、他のパーティーに紹介する時に必要なんです。明かせるスキルか魔法があれば、なお良いです」
「えぇ…………」
と、得意な事? ガチャは駄目だよな、しばらくは隠さないといけないだろうし。となると、ぜ、前衛? 前衛かぁ? モンスターに斬り込むなんて、出来るのか俺?
なんとか答えを出そうと悩む俺だったが、俺が答えを出す前にティムが助け船を出してくれた。
「ガモンは補助要員という事にしておいてくれ。しばらくは依頼やパーティーの斡旋もいらない。それと出身地は『アルダタ』と記録しておいてくれ」
「アルダタ?」
「カラーズカ侯爵領にある村だよ。ガモンはそこの出身って事さ」
「……………………かしこまりました。そう記録しておきます」
目の前で明らかな出身地擬装を相談しているのに、受付に座る若い女性はそれを事実として普通に記録した。貴族の力が働いたって事だろうか? やだ怖い。
「じゃあ僕は素材の売却と、ギルドマスターへの報告をして来るから、ガモンはギルドの説明を聞いておくといいよ」
そう言って、ティムは別のギルド職員に声をかけてギルドの奥へ行き、俺は受付の若い女性から、ギルドの決まりについて詳しく教えて貰う事にしたのだった。
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