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469回目 『勇者ナラク』

 日本人『黒部 奈落』が勇者として召喚された時代、勇者の数はとても多かった。


 魔王が溢れるまで、モンスターはダンジョンに現れるものであって自然界には居なかった。その為、この世界の者でモンスターと戦える者は少なく、人間は同族で争ってばかりいたので国同士での協力も上手くはいかず、国力も低下していた。


 そんな中で、『方舟』から落ちて来た魔王が活動を始めれば、何も出来ずに滅びを待つに等しい。


 だから神々は、自分達が出来る最大の干渉として、他世界から死んだばかりの人間の魂を引っ張り、その魂に神界を通過させる事でスキルを付与して送り出す、『召喚の儀』を人々に与えた。


 それは自ら低次元の世界に降りたのでは、力が強すぎる為にその世界を壊しかねない神々が考えた、問題の少ない干渉方法だったのだ。


 まあ、普通に考えれば死んでいるとは言え日本人は誘拐されたような物だ。いかにチートを貰ったとは言え、何故こんな世界に? と疑問を持つのは避けられない。


 だから神々はその死に方にも一つのルールを設けていた。それは、その世界から逃げる為に『自殺』を選んだ者、と言うルールである。意外に、この考え方で死を選ぶ人間が多かったのは、神々としても誤算ではあった。


 だが神々の思惑は当たり、これで召喚されて来た勇者は『異世界召喚』を喜びこそすれ、恨む者はすくなかったのだ。


 つまり『黒部 奈落』もまた、日本での生活に嫌気がさして死を選んだ少年である。



「勇者ナラク様。貴方には『深淵の闇』と言うスキルがあります! お喜び下さい。どうやら非常に強力なスキルですよ!」


「…………『深淵の闇』?」



 召喚された『聖エタルシス教会』で最初にそれを聞いた時、奈落は喜べなかった。何せ『深淵』で『闇』だ。奈落がゲームなどから得た常識から言えば、それは悪役が使う力である。


 そもそも奈落は、『深淵』も『闇』が嫌いだった。それは自分の名前が『黒部 奈落』だったので、『黒』や『奈落』と言う言葉から、ゲームやアニメの敵みたいだと、子供の頃にからかわれた為だ。


 だが、それとは別として『深淵の闇』はとても強力なスキルだった。


 まず、『闇』を操る事ができる。剣の形にする事も出来るし、ロープの様にして使う事も出来る。言わば闇の物質化、もしくは高質化だ。これはその場にある闇に応じて使える面積が変わるのだが、全ての物には『影』があるため、奈落はあまり困らなかった。


 次に闇の倉庫。闇を入口として様々な物を収納できる。ネックとしては場所が固定される事と、奈落しか出し入れが出来ない事だったが、奈落の影であれば移動可能だったので、移動式のアイテムボックスとして活躍した。


 そして最後に、これが一番重要な力だったのだが、『深淵』。これは対象の体から『魔力回路』や『スキル』を取り出し、自らに取り込むと言うチートスキルだった。


 取られた相手も一瞬は取られた魔法やスキルを使えなくなるが、空いた場所に魔力が流れ込み、すぐに回復して使える様になっていたので、奈落はこの力をデメリットの無い力だと捉え、出会う者やモンスターからすら、魔法もスキルも取りまくった。


 魔法もスキルも、同じ物を別の誰かから取れば組み合わされて成長した。強力な魔法やスキルを使える奈落は、『勇者』の中でも最強の存在となった。


 …………異変を最初に感じたのは、召喚されてから四年ほど経過した頃だった。


 奈落が召喚された時の年齢は十四才だった。つまり中学二年生。それから大体四年が経過して、日本なら高校を卒業する頃かと鏡を見ながら考えて、自分の外見があまり変わっていない事に少し不満を覚えた。


 この世界の常識では既に成人しているが、高校を卒業すれば日本でも大人だろう。なのに外見が妙に子供っぽかったのだ。


 同じ様に日本から召喚された他の勇者達は、それなりに大人っぽい外見なのにと考えたが、現在付き合っているパーティーメンバーでもある彼女が「そんな所も好き」だと言ってくれたので、どうでもよくなった。


 だが、奈落の成長は確かに止まっていたのだ。彼はとある事情から、寿命が、生命力が常人の数百倍、あるいは数千倍にまで膨れ上がっていたのだ。


 そして、最悪の事件が起こる。


 それは奈落に、初めての子供が生まれてから二年が経過した頃だ。


 奈落の初めての子供は男の子で、妻とその祖父母と話し合って『マッカシー』と名付けられた。妻の故郷にある古い言葉で『人との繋がり』を意味する言葉だった。


 その子は、勇者の子供らしく『劣化スキル』を持っていた。勇者の子供には良くある事で、勇者が持つ強力なスキルを分割して、その一部を受け継ぐような、不思議な遺伝があったのだ。


 奈落の息子が持っていたのは『簒奪』。奈落の持つ『深淵』の劣化スキルであるらしく、その効果は対象の魔法やスキルを自身の魂に簒奪する。と言うスキルだった。


 この時の奈落は、自分のスキルを完全に把握したつもりでいた。もう長く使っている力であり、その全てを知り尽くしていると思い込んでいた。


 自分のスキル『深淵』で奪った『魔力回路』や『スキル』は、その後、対象の持つ魔力が穴を埋める様に動いて穴を塞ぎ、復活する。その時に使われる魔力は大して多くはない。精々が弱い回復魔法で一回分だと検証してある。


 そして『マッカシー』は、奈落とパーティーメンバーだった妻の間に生まれた子で、内在魔力量はとても多かった。


 それでも多少の危険も考慮して、妻とも話し合い二才になるまでは待った。


 だからもう大丈夫だろうと、奈落は息子の『簒奪』スキルを『深淵』で奪った。


 …………結果を言えば、奈落の息子『マッカシー』は、スキルを奪われた事で死んだ。


 体に刻まれる『魔力回路』も『スキル』も、それが刻まれていたのは『魂』であり、奈落のスキル『深淵』は、その魂の一部を切り取って自分の魂に張り付けると言う、相手の魂を直に切り取るスキルだったのだ。


 これまでは、相手が大人だったりモンスターだったりした為に、少しくらい魂を切り取られても、寿命と生命力を多少失うだけで済んでいたのだ。


 だがその対象が、まだ赤子と言える子供だったのならどうなるか。


 奈落は自分の持つスキル『深淵の闇』の真実を、最悪の形で知る事になったのだ。

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