465回目 『軍事の浮島』と邪眼族
『アルジャーノン! 次はあの店に入るぞ!!』
「ヴァティー、もう五件目ですよ? ご飯屋さんって、そんなに連続で入る場所じゃないでしょう?」
『大丈夫じゃ! パスタ・ラーメン・寿司・ステーキと順番通りよの! コース料理と同じじゃろ? 最後はデザートじゃ!!』
「それはコース料理とは言わないと思いますよ? まぁいいですけど」
ダンジョンの外に出られる様になって『レナスティア』へとやって来たヴァティーは、それはもう大はしゃぎだった。
天空城の城下町にあるお店を次々に渡り歩いている。ずっと食ってばかりなのだが大丈夫なのだろうか? まぁ本当にダメだったらアルジャーノンが止めているだろうし、何千年とあのダンジョンに閉じ籠っていたヴァティーがはしゃぐ気持ちも解らないでもないので、好きにさせておこう。
ちなみにヴァティーの本体は現在、サークレット・胸当て・ブレスレット・スカート・アンクレット、と言う具合にコンパクトに纏められて装着されている。
これが戦闘時になると全身鎧の姿になり、今は子供のようなヴァティーのサイズ感も、大人の女性みたいな形態に変化するのだ。一度見たが、結構カッコ良かった。
「これはしばらくは治まりそうに無いな」
とても幸せそうにケーキを食べ始めたヴァティーを見て溜め息をついた俺は、ヴァティーの事はしばらく放っておく事にして、その場を離れた。
◇
さて、女神ヴァティーが自由になった事により、ダンジョン『邪眼族の螺旋迷宮』もその役目を終えた。
役目を終えたダンジョンは、ヴァティーがそこを離れた事もあって崩壊し、すでに消滅している。
なら、そこに居た邪眼族はどうしたのかと言うと、『レナスティア』にある『軍事の浮島』へと、その居住を移している。
邪眼族はかなり人数が多く、見た目がアレ(蛇人間)なので、普通の人間と暮らすには少しばかり無理がある。まぁ、力を持った邪眼族ならば人間のような見た目にも成れるのだが、それほどに力を持つ邪眼族は極少数なのだ。
別に邪眼族は邪悪な部族と言う訳では無い。ただ、蛇の女神であるヴァティーの眷族で、戦闘に特化した部族として生み出されたから、あんな見た目をしているだけなのだ。
確かに俺の仲間達も、初めて邪眼族と対面した時は若干引いていたが、少し話したところで慣れていた。だから、少し会話さえできれば大丈夫だと思うのだが、…………やはり見た目がネックだよな。
「ム? おおっ! ガモンではないか、久し振りだな! 今日はバルタの奴は一緒では無いのか?」
俺にそう声を掛けて来たのは、褐色の肌を持つ偉丈夫だ。って言うか、俺の事も知っているみたいだ。確かにこの声も、どこかで聞き覚えのある声だ。
…………うん? この場で声を掛けて来るって事は、コイツも邪眼族だな。……………………あっ! この感じは…………!
「もしかして、『ケト』か?」
「おお、正解だ。よく解ったな勇者ガモン!」
それは、『大蛇八首』の筆頭騎士たる邪眼族である『ケト』だった。いや、まさか人の姿で来るとは意表をつかれた。
「お久し振り。…………って言うか、今日は人の姿なんですね」
「ウム、ここはお主の所有する空飛ぶ島なのだろう? お主の仲間にもちょっとだけ対面したが、やはり我らの姿は、外の者に対して刺激が強すぎる様子だったからな。これならば平気だろう?」
「ええ、正直助かりますよ。ところで、どうですかここは? 軍事に特化した浮島なのであまり住み心地は良くないかも知れませんが…………」
「いや、十分だ。我ら邪眼族も戦闘に特化した種族だからな。むしろ住み心地は良いぞ? 何と言うか、この空気感が肌に合う。ここは技量やスキルを育てるにも有用な施設である様だしな」
俺もこの浮島については良く知らなかったのだが、ケトは他の『大蛇八首』や、邪眼族の中から有志を募って、さっそくこの『軍事の浮島』を軽く調べてみたらしい。
すると、この『軍事の浮島』の有用性が次々と明らかになった。
この『軍事の浮島』にあるダンジョン。そこはただ難しいだけのダンジョンではなく、テーマに沿った鍛え方が出来る特異なダンジョンであったらしい。
もちろんそこは、戦闘力を鍛える事も出来るのだが、目玉となる修業は『スキル習得』に関する修行だ。
これはまず、そのスキルを習得目標に掲げる事で、ダンジョンがそのスキルを習得するのに必要な修行を組み立ててくれる物らしい。ただ、そのスキルを習得出来る者は、そのスキルに対しての才能がある者に限るらしいが。
「今の一番人気は『人化の秘奥』だな。それを覚えて『レナスティア』の街に繰り出すのを目標に掲げている者が多いのだよ」
その目的は遊ぶためだとしても、邪眼族も人の姿を取れた方が色々と便利だろう。俺達としても付き合い易くなるしな。是非とも頑張って欲しいものだ。
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