449回目 世界樹の表面
俺達の用が片付いたなら、次はモメットの番だ。本当ならモメットの方を優先したい所だったのだが、アルジャーノンが関わる事を後回しにする事は出来ないと言われ、モメットはジッと待っていたのだ。
「待たせてすまなかったな、モメット」
「いえ。私は今回、割り込ませて貰った身ですので、ガモン殿の要件が優先されるのは当然です」
「そうか。では問題ないのであれば、要件を聞こう。そもそも何故、何時もとは違うルートで来たのだ」
「はい、それが…………」
モメットはレプラコーンの姫の妊娠や、エルフの住む島に来る為の『海流のダンジョン』が使えなくなっていた事情を語り、最後にレプラコーンの姫が新たな王を産むために必要な『エルフの秘薬』を求めた。
「…………なるほど、事情は解った。…………しかし、あの『海流のダンジョン』が使えなくなるとはな」
「ここに来る為の海流は、今レプラコーンの有志が集まって探索をしております。私はあまりに時間が無いので、ガモン殿のお力に頼らせて頂きました」
「そうか。…………しかし『エルフの秘薬』が早急に欲しいとは、少し困ったな」
「え!? こ、困るとは…………?」
「ウム。お主が前に来た時からそう日が経っておらんだろう? あの時は、里にあった薬の類いを出してしまったからな。材料の備蓄が無いのだ。我らも、レプラコーンはしばらく訪ねて来ないだろうと、材料を取りに行ってもおらんのだ」
「そ、そんな!? なんとかなりませんか!?」
「こればかりはな。今から取りに行こうにも、準備には相当時間が掛かる」
「そ、そんな…………」
絶望的な顔をするモメットを見て、俺はおずおずと手を挙げた。
「あの、ちょっと割り込んですいませんが、その材料と言うのは、そんなに手に入りづらい場所にあるのですか?』
「いや、材料自体は世界樹に登りさえすれば手に入る。問題なのは、世界樹に登る為の体が出来ていない点だ。いつもは必要になる少し前から体を鍛え、しっかり出来上がってから世界樹に登るのだ。世界樹は特殊なダンジョンだからな。準備を怠った今では、ろくに採取が出来るかも不安だ」
エルフの時間感覚では少しの開きも、実際の時間では何年も経過する。だから世界樹に登ろうにも体が衰えているので、鍛え直してから登るって訳だ。…………なんて面倒な種族だろう。
「そうですか…………。それなら、俺達が材料を取りに行くのではどうでしょうか?」
「むぅ。しかし世界樹は…………。いや、論より証拠か。ついて来るが良い」
◇
イマメルバーンの後に続いて、俺達は世界樹のもとへと足を運んだ。
相変わらず世界樹はぶっとい幹の部分しか見えない。そしてそれは、世界樹を見上げるような場所に行っても変わらなかった。
「世界樹の素材を集めると言ったな? ならばそれが出来るかどうか、試してみよ。まずは、あの異空間への入口まで登る。あぁ、人数は案内役の私を含めて六名までなので、五人に絞ってくれ」
「なら、まずは『G・マイスター』のメンバーだけでいくか」
何故か飛ぶのを止めて地面に降り、ロッククライミングの要領で世界樹を登り始めるイマメルバーン。
それを見た俺は、仲間達と一度顔を見合わせてから、バルタやモメットに「行って来る」と後を頼み、イマメルバーンの後に続いて世界樹を登り始めた。
世界樹の表面はゴツゴツしており、手を掛けるにも足を掛けるにも楽だったので、木登り自体は大してキツくもなかった。それは俺のステータスが大分高くなってきた証明でもあった。
そして高い世界樹を登り続け、世界樹を異空間へと誘っている白いモヤの中に体が入った時だった。
「…………うおっ!? な、何だこれ!?」
俺の体は世界樹へと急激に押し付けられ、登るのが難しくなってしまった。
「落ち着くがいい。異空間へとやって来た事で、世界樹に重力が発生したのだ」
「重力!?」
「ああ、つまりはこう言う事だ」
そう言うと、イマメルバーンは何と世界樹の幹に垂直に立ち上がった。
…………え? 重力って、そう言う…………?
「…………何をしている。重力が発生していると言っただろう。早く立ち上がると良い」
そうイマメルバーンに言われた俺は、多少戸惑いながらも、ゆっくりと立ち上がった。
いや、本当に立てちゃったよ。なんだよこの場所、ヤバい雰囲気をバリバリ感じるぞ。
「さあ、行くぞ。この霧の中はモンスターが出ないが、ここを抜けるとそこは本格的なダンジョンだ」
世界樹の幹に垂直に立って歩き霧の中を抜けると、そこはやけに明るい宇宙空間で、先端が見えない程に枝葉を伸ばして強烈な存在感を示す世界樹が存在していた。
そのあまりにも雄々しくて雄大な姿に、俺達は少しの間だけ立ち尽くして、それを眺めていた。
「これが、世界樹の本当の姿なのか…………」
「すごいわね。『世界樹とは、世界そのものに根を張る世界の観察者である』って言葉があるけど、まさしくそれ程に存在感のある姿だわ」
「ああ、確かにな…………」
ティアナの言う通りだ。…………世界樹。それは正に、世界に根を張る存在だった。そして俺達は、今からこの『世界樹ダンジョン』へと、挑むのである。
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