448回目 エルフとの交渉
俺達に「ちょっと行ってくる」程度の事を言って出掛け、全然帰ってこないイマメルバーンだったが、俺達もただ時間を無駄にはしていない。
留守番役を交代で残しながらエルフの里を回り、話が出来そうなエルフとは積極的に話をした。まぁ、話す際には口を滑らかにするために手土産が必要だったけどな。
いや、要求された訳ではないのだが、渡すと喜んでくれて一気に距離が縮まるのだ。この辺は人間と一緒である。
そうなると手土産の中身が気になると思うが、思い出して欲しい。レプラコーン達が、何とエルフの薬を交換していたのかを。それは『服』である。もう一つ言うと、『本』も大変喜ばれた。この辺はモメットの情報通りだな。
三大欲求が皆無と言う程に無いエルフだが、完全に欲が無い訳ではなく、本を読んだりする知識欲や、自分を着飾る物欲は持っていた。
ただし、宝石やらネックレスやらのジャラジャラした物は感性に合わないらしく、シンプルで少しオシャレな服、などに興味を持っていた。
ちなみに毛皮もダメだそうな。理由はこの世界の毛皮だとモンスター素材になるからか、魔法を使う際に極僅かだが影響があるからだと言う。
その理由ならば、モンスター以外の毛皮なら良いのかも知れないが、無理して着る物でもないので、その辺は置いておこう。
「えーーっと、じゃあこれとこれを貰おう。お代はこの島の森にある果物の話でいいんだね。ならまずは…………」
森に自生する果物の中に、パパイヤとマンゴーに似た果物がある事を聞いた対価は、ロングコートと帽子だった。
一年中温暖だと言うこの島で、果たしてコートが必要なのか? という疑問はあるが、客が欲しがったのだから仕方がない。対価も貰ったし、俺は粛々と商品を渡すだけである。
「ありがとう。…………うん、やはりこれは良いな」
「…………まいど」
受け取ったロングコートと帽子をさっそく着込むエルフ。…………いや、他のエルフと同様にこのエルフもイケメンなので似合う事は似合う。ただ、あのコートの下はヨレヨレのシャツと半ズボンなんだよな。足もサンダルだし。
うーーん。これは流石に着こなしに難がありすぎるか。でも、俺だって人に言えるほどに服の着こなしに自信がある訳ではない。
「ええと。いいんですかね、あれで」
あのエルフの着こなしにはモメットも疑問に思ったようだ。モメットはガチャから出て来た服のデザインに凄く惹かれていたし、服を作る事が得意な種族だけあって、センスは抜群に良いのだろう。
「…………あとでファッション系の本をあげるから、何か合わせられるヤツとか作ってやってくれませんか?」
「おおっ! そんな本があるのですね! 解りました! やってみます!!」
モメットがやる気になってくれたので、エルフのファッションセンス問題は無事にモメットに丸投げ出来た。
だが、俺は少しモメットの情熱を低く見積り過ぎていた。モメットは俺から受け取った何冊ものファッション誌と、見本とした大量の服にそれを着せるマネキンを有効活用してドンドンと実力を上げていったのだ。
そしてこれより数ヶ月後には、一時的にとは言え、エルフの里にスーツにネクタイを締めた姿のエルフが溢れる事になるのは余談である。
◇
「長老を何人か叩き起こし、アルジャーノン様の紹介状を読ませた。そこで一つ確認なのだが、『天空城』の中に我々の知らぬ『世界樹』があると言うのは本当なのかね?」
三日ぶりに帰って来たイマメルバーンにそんな事を問われた。アルジャーノンの紹介状は、前に貰っていたヤツをここに来る直前に書き直してもらった物なのだが、アルジャーノンはかなり詳しく俺達が求める事情を書いたらしい。
「はい。正確には☆5『◇天空城『レナスティア』』にある『森と遺跡の浮島』に『世界樹の苗木』があるのです。そしてそれを育てるのに、エルフの皆さんの力を借りたいのですが、どうでしょうか」
「ウム。我らとしても『世界樹』は放っては置けない。しかし事は我らの、そしてこの里の未来に関わる事だ。それを軽々に答えを出す訳にはいかない。これは長老会での会議を開かねば決められぬ事だ」
「会議ですか…………」
これまた、いったい何時まで掛かるのか検討もつかない単語が出て来た。
そんな風に考えてゲンナリとしたのが顔にハッキリと出ていたのか、イマメルバーンが苦笑しつつそれを否定してくれた。
「安心するがいい。今回はアルジャーノン様と世界樹が関わっているからな。会議とは言え、結果は既に決まったような物だ。君達の所へ、里の一部のエルフを送り出す事は間違いないだろう」
「そうなんですか? それなら、なんで会議を?」
「そこに『世界樹の苗木』があり、アルジャーノン様までいるのだぞ? 誰もがそちらに行きたがるのは目に見えている。実際、私も手を挙げたい位だからな。しかし、ここの世界樹を蔑ろにも出来ぬのだ」
「つまり、人選に有無を言わせない為ですか」
「そういう事だ。長老会の決定は世界樹への誓いにもなるので絶対だ。世界樹に逆らってまで我を通したい者などエルフにはいない」
「なるほど」
こうして、話を聞ける長老方を全員集めた長老会が開かれる事になった。…………まぁ結果として、里の中からエルフ全体の半数にあたる若者と、里の老人たちの半数が『レナスティア』の浮島へと来てくれると言うのは内定しているので、その受け入れ準備だけはしておかないといけないな。
ちょっと拠点だけ作らせて貰おう。
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