437回目 大商人の大人買い
コンビニのイートインコーナーで、俺達はオヤツタイムと興じていた。
俺の方はゲンゴウとその部下達とで何とも色気が無いが、ティアナの方は女性ばかりで華やかだ。
だが、その様子はいかにも女子会なので、まざりたいとは思わないな。女子会の空気に男一人は異物が過ぎるからな。
「いやはや、それにしても驚かされますな。私も自分の店を綺麗に保つように苦心していますが、これほど理路整然と、ピカピカに磨かれた床やガラスが普通の店とは、恐れ入りますわい」
ゲンゴウの言葉には部下達も何度も頷いた。この世界において接客のプロである彼らが見ても、このコンビニは驚く程に綺麗なのだろう。
ガチャアイテムだが、ここはAIが接客をしている実際の店だ。俺は一度、デカイお掃除ロボットが床を拭きながら移動しているのを見た事があるので、掃除については、従業員ロボットの頑張りである。
「地球でも他の国はそうでもなかったりするらしいけどな、日本だとこれは普通だな。俺も学生の頃はコンビニでバイトした事があるけど、掃除は毎日やっていた。俺は夕方のシフトしか入らなかったけど、それ以外の時間にも掃除は店員の当たり前の仕事の一つだった」
しかも、俺なんかがやっていたのは簡易版の掃除で、本格的なのは深夜のシフトに入っている人達がやっていた筈だ。月に一度は、プロを頼んで掃除する日があったらしいが、こうして改めて考えてみると凄いよな日本。スポーツのスタジアムでのゴミ拾いとかも、ニュースで何度も見た気がする。
「これは見習わねばなりませんな」
「日本はそういう国だから掃除用具も楽に出来るヤツがいっぱいある。業務用のやつもホームセンターに行けば売ってるだろうし、後で見に行ってみるといい。俺のガチャからは、確かまだ出てなかったからな」
「それは行ってみなければいけませんな。ところで、そのホームセンターなる場所では、あれも売っていますか?」
ゲンゴウがそう言いながら指差したのは、コンビニのカウンター前にある中華まんの蒸し器だ。
「あれか? あの中華まんの蒸し器。…………いやぁどうだろう。あんなの探した事がないしな。でも、日本なら「無いだろ」と言えるけど、ここだとあってもおかしくないな。探してみれば意外と売ってるかも」
「おおっ! ならば是非ひとつ買いたいですな! いやぁ中華まん自体は、かつての勇者様が考案して作られておりますが、あのような物はありませんからな。あれは売り方としてはとても良いです。アツアツを売れるのはもちろんですが、外からああして見えるのが素晴らしい! ぜひ買っておきたいです」
「そ、そうか。…………あるといいな」
うーん、やっぱりゲンゴウは商売人なんだな。初めてのコンビニだろうに、目をつける所が商人のそれだものな。
オヤツタイムが終わってからは、買い物に出掛けた。
本当はティアナと一緒に行きたかった気持ちもあるが、女子会と化している女性陣は服や化粧品を見に行くらしいので男女で別れる事になってしまった。
そしてゲンゴウ達とは色々と回ってみたのだが、リカーショップだけは驚かされた。ガチャ店舗なのに、酒やツマミのほとんどが棚から消えていたのだ。
店員を勤めるAIに理由を聞いた所、俺とフレンドになったドワーフ達がやって来て片っ端から買い占めていったらしい。どんだけだよ。
ちなみに今は品切れになっているが、明日の開店時には全て揃っているそうだ。…………ガチャ店舗ハンパねぇ。
「いやいや買いましたな。かなりの量が入る自慢のマジックバッグがもう満杯です。しかし、よい買い物ができました」
とても良い笑顔でそんな事を言うゲンゴウだが、俺はちょっと引いていた。
いやそりゃ引くよ。だってゲンゴウが今回の買い物で使ったのって、ざっと白金板で十枚、つまり10億円だぞ? お店での買い物で使うか、10億。
どういう買い方をしたかと言うと、例えばシンプルなデザインで色だけ違う服を大量に揃えている店に行った時には。
『いらっしゃいませ』
「ちょっといいですかな? ひとつお願いがあるのですが」
『はい。なんでしょうか?』
「全ての服を三着ずつ買いますので、集めて貰えますかな?」
『全てを三着ずつとなりますと、金額にして白金板で数枚もの支払いとなりますが、よろしいですか?』
「ええ、お願いします」
『…………かしこまりました』
と、こんな感じだった。ザ・大人買い。俺が知る中で一番の大人買いが目の前で繰り広げられた。
しかもそれは服屋だけに留まらず、本屋とかドラッグストアでも行われた。
なぜそんなに思い切りが良いのかと俺が尋ねると、ゲンゴウはさも当然のように、「欲しい物が手に入る上に、ほとんどの物が金貨を越えません。ならば、ガチャよりも安いではありませんか」と答えて来た。
金貨を越えないからガチャより安い。…………確かに!
と言う訳で、ゲンゴウの大人買いは白金板で十枚支払うまで続いたのだ。ちなみにこれらの品はゲンゴウの店で売ったり、あとは商品開発をしている部門に回されるそうだ。
凄いよね、ゲンゴウ。
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