426回目 ドワーフとの交渉
「見苦しい所を見せた。ドワーフの里で里長なんてもんをやらされている『ドアルガン』だ。『ワガマサル家』の長兄をやっている」
「ガモン=センバです。…………えっと、大丈夫ですか? 口の端から泡吹いてますけど」
「いつもの事だ、問題ねぇ」
「…………いつもの事なのかよ(小声)」
ドワーフの里で一番の権力者であるドアルガンは、先ほど酔い醒ましに盛られた何かの薬の影響か、目覚めた今でも口の端から泡を吹いている。
本人もいつもの事だから大丈夫だと言っているし、心配は無いのだろうが、見ていて不安になる絵面ではある。
まあそれは置いといて、気になる事を言っていたな。『ワガマサル家』? 『和賀 勝』か? 日本人の名前だな。それが丸々家名になっているのか。名前と繋げなかったのも、ドワーフならではの文化とかがあるのだろう。
「お前さんらは『アルジャーノン』様の縁者だと聞いたから家名も名乗ったが、あまり外で言いふらしてくれるなよ? ワシらは家名を隠すのが習わしなもんでな」
「家名を隠す?」
「ああ、ワシらドワーフは元々は家名など持っておらん。だが、一族に強い影響を与えた先祖がいれば、その名前を家名にするのだ。尊敬する先祖の名を、どこの誰とも解らん者に口にされたくはないだろう?」
…………例えば、初めてあった奴に「あんたの先祖って〇〇でしょ? 立派な先祖で羨ましいですね!」みたいに言われる感じだろうか。
そりゃ、その先祖の名を誇りに思っている人にとっては面白くないわな。人によっては侮辱されたと取るかも知れない。
「なるほど、解りました。それと、こちらがアルジャーノンからの紹介状です」
「ウム、拝見しよう」
俺が手渡したアルジャーノンからの紹介状を読んだドアルガンは、手紙に目を落としたまま、アゴヒゲを撫で付けた。更には頭をガシガシとかいて、「うぅむ…………」と唸り声まで上げた。
「兄者、何か問題がありましたか?」
「うぅん? …………いや、問題って事の程じゃねぇ。むしろ俺達としちゃあ助かる提案が書いてある。ただなぁ、それが本当に可能なのかって所で引っ掛かってる」
「私も読んでよろしいですか?」
「…………まあそうだな、読んでみろ」
…………なんか不穏な空気なんだけど? アルジャーノンはいったい手紙になにを書いたんだ? 俺は、ドワーフの技術者を引き抜けるように口添えしておく、としか聞いてないんだけど?
「…………なっ!? こ、これは本当でしょうか? ケガレ者達を職人として雇うとは…………!?」
「本人に聞いてみんのが一番早いだろな。おう、ガモンって言ったか、お前さんに聞きてぇ事が出来たぜ」
「…………なんでしょう?」
「お前さん、ケガレ者…………瘴気に侵されて使えなくなった手足を元に戻せるってのは本当かい? ここにそう書いてあんだが…………」
…………いったい、何の話でしょうか?
「何の事かは解りませんが、瘴気なら☆5『桃源の酒泉』から取れる『仙酒』で浄化出来ると思いますよ?」
「『仙酒』? それは酒か!?」
「ええまあ。…………そうだ、手土産に持って来た酒があるんですよ、その『仙酒』も樽でいくつか持ってきています」
ドワーフの所に人材を引き抜きに来たので、俺は大量の酒とツマミを手土産として持って来た。
それを預かっていたドール騎士がマジックバッグから大量の酒を並べていくと、その場にいるドワーフ全員がゴクリと喉を鳴らした。やはりドワーフには酒のようだ。
次々に並べられる酒は、様々な銘柄を大量に用意したのだ。フハハハハッ! 地球のあらゆる国の酒が並んでいるぞ? いくら酒好きで有名なドワーフでも、これだけの種類の酒は見た事がないだろう!
これらは全部ガチャ産…………と言う訳ではない。いや、広い意味ではガチャ産ではあるのだが、『レナスティア』の街に設置した『店舗シリーズ』に、リカーショップの大型店もあったのだ。しかも品揃えがメッチャ良い奴が。
何せ日本酒の地酒も都道府県の全てが揃っていたからな。ワインの銘柄も、日本にまでは中々来ないヤツまで並んでいた。調子乗って買いすぎたもの。
正直に言って、あの『店舗シリーズ』には助かっている。運ゲーでしかないガチャで全て出そうとすると大変だからな。☆3ばかりとは言え、店で買えるのは普通にありがたかった。狙ってると意外と手に入らないんだよ、☆3のアイテムも。
「うおお…………、こりゃ凄ぇ。すぐにでも片っ端から飲んでいきてぇが…………まずは確認だ。その、『仙酒』ってのはどれだ?」
「『仙酒』は、この樽ですね、三つあります」
「また随分と持って来たな、貴重な酒じゃねぇのかい?」
「いや、これは☆5『桃源の酒泉』から無限に湧いているので、いくらでも汲んで来られます。この『仙酒』に、瘴気を撥ね付けて浄化する効果があるんですよ」
「ドッキーノ! 見てみろ!!」
「はい!!」
樽からコップに注いだ『仙酒』を、ドッキーノがじっくりと見ている。おそらく『鑑定』のスキルを持っているのだろう。
そしてしばらく見てから顔を上げると、ドアルガンに向かってしっかりと頷いた。
「確かにこの酒には、瘴気を撥ね付ける力があるようです。これを飲めば、彼らは助かるかも知れない」
「本当か!!」
何だかよく解らないが、ドワーフはどうやら瘴気関連での問題を抱えていたらしかった。
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