425回目 ドワーフの里長
ドワーフの街を歩いてみて気づいた事がある。それはこの街の特徴と言うか建物の造りが、完全にドワーフに合わせた物になっている。と、言う事だ。
つまりどういう事かと言うと、例えば建物の高さは低い。三階建ての家に見える物も、俺達の感覚だと二階建てくらいだ。
しかし横幅は広い。例えば玄関口にしても窓にしても、横に長い。玄関の扉は折り畳み式の引き戸なのだが、俺達みたいな普通の人間にとっては使いづらい位置に取っ手がある。
つまりこれらは全て、ドワーフの体型に合わせた造りになっている訳だ。ドワーフは基本的にずんぐりとしており、背は低くガニ股で腕が太い為に、横長の住居になっている訳だ。
「…………なんか、注目されてるな」
「ええ、見られていますね」
街に入ってから、ずっと視線を感じる。それは正に好奇の視線だ。
ドワーフの里は閉鎖的とは聞いていたが、普通の人間が来るのは本当に珍しいようだな。
…………しかし何だな。普段、こんな風にジロジロ見られる事が無いから居心地悪いな。ドール騎士は興味も引かれないのか平然と歩いているが、アレスは少し気になるようでタメ息をついていた。
『クアァァッ』
『ギャオン』
…………まあ注目される原因の一端は、俺とアレスの肩にとまって何か会話らしき物をしているジュエルドラゴン達にもあるかも知れないけど。会話になってんのかね、これ。
「…………あの、ドッキーノ殿。あそこは鍛冶場ですか?」
「ええ、そうです。この街の半分は鍛冶場や、金属や革などの加工場になっています。やはり武具を作る事が、ドワーフの一大産業ですからね。興味があるのでしたら、後で見学ができるように紹介状を書きましょう」
「ありがとうございます」
…………武具か。俺や仲間達にはガチャ装備があるから必要ないが、職人の腕ってのは純粋に見てみたいよな。どうもアレスも興味を引かれたみたいだし、後で覗いてみよう。ドワーフの里の設備とかってのも興味あるしな。だって多分、あの溶岩の水路も使っているんだろ? 意味わかんないけど。
ドワーフの街を歩いて抜けると、岩の壁にトンネルが掘られている場所に出た。
「この先です」
ドッキーノの案内に従ってトンネルを抜けると、そこにあったのは鳥居だった。
しかし、日本で見る赤い鳥居ではなくて、真っ黒の金属製の鳥居だ。
そしてその先にあったのは家。それも、神社のような造りの、和風の大きな家だ。ここだけ見ると完全に日本だ。ドッキーノの血筋には勇者もいたらしいが、これを建てたのは間違いなくソイツだろう。
「ここが里長のいるお屋敷になります。では、こちらへどうぞ」
案内された玄関から中に入る。この屋敷は日本と同じく土足禁止だったので、用意されたスリッパに履き替えた。
何かの草を編んだ、草履のようなスリッパに少し驚いたが、履き心地は悪くなかった。それにここは、ドワーフの建物にしては天井も高い。ここだけ普通の人間に合わせて造ってあるようだ。
そして板の間を進み奥の和室へと通されると、その部屋の奥では、山水画の屏風の前で甚兵衛を着たドワーフが胡座をかいて座り、コップで酒を飲んでいた。
それを見た瞬間、ドッキーノがビクリと震えて硬直し、直後にはドカドカと音をたてて奥へと歩き、里長を怒鳴りつけた。
「いやオイッ! 兄者! 客が来るって先触れを出しただろ! なんで飲んでるんだ!!」
「うるっせぇな、騒ぐな! ちょいと喉を潤してただけだろうが! こんなの飲んだ内に入らねぇよ!」
しっかりと赤ら顔で多少左右に揺れながら、そんな説得力の無い事を言っているオッサンが、どうやらドワーフの里長であるらしい。
「酔ってるだろうが! ガモン殿、申し訳ないが少しお待ちを。…………お前達、兄者を捕まえろ」
「「ウスッ!!」」
青筋を浮かべたドッキーノが部下のドワーフに命令をすると、里長の両腕をそれぞれ捕まえたドワーフ達が里長をドッキーノの前に座らせた。
「ん? お、おい何だお前ら!? ま、まさか! や、やめろ! 酔ってねぇ! 酔ってねぇから!!」
「酔っぱらいの常套句ですね。兄者、お覚悟を」
ドッキーノがマジックバッグから出したのは、小さな小瓶だった。茶色いその小瓶は、ともすれば毒薬に見える。
ドッキーノは腕を伸ばして顔を背けながら小瓶の蓋を開け、次に里長の顎を掴んで無理やり口を開かせた。
「やへ! やへろぉーー!」
里長は抵抗するが、両腕を二人のドワーフに押さえ付けられているため、大した抵抗が出来ない。そしてとうとうその喉の奥に、ドッキーノが持つ小瓶の中身が注がれた。
「……………………あべしっ!?」
形容しがたい言葉を叫んで、里長が白目を剥いた。そして解放されると床に倒れ込み、ビクンッビクンッと痙攣をはじめた。
「…………これでよし。ああガモン殿。もうじき酔いが完全に覚めた状態で目覚めますので、話はその後に」
「…………え、あ、はい」
何だか解らんが、酔い醒ましにえらいもんを飲まされて痙攣をする里長が、俺は他人とは思えなかった。
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