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419回目 テルゲン王国の戴冠式

 改装中のテルゲン城の中に急遽造られた儀式用の部屋、その部屋に各国の重鎮が集まっている。


 集まる全員がその儀式の重要性を知っているからか、空気がピリピリとしている。こんな場に立つ事など考えた事もない一般的な日本人である俺は、どうも馴染めない空気だが、緊張が高まると隣に座るティアナがソッと手を取ってくれるので、何とか平静を装おっていられた。


 いやでも、ティアナとの婚約が内定しているとは言え、親族席に俺を座らせるのはどうなのか。☆5『◇天空城『レナスティア』』を持つ俺がここに座って居る事に、顔を青くしている他国の重鎮もいるんだぞ? まぁ、そういう他国への牽制が目的だとは聞いているけども。


 何せ内乱の末に王家が変わったばかりの国だからな。この冬の中をテルゲン王国まで無理を押してやって来た各国の中には、テルゲン王国がどれほど弱っているのかを確かめに来た好戦的な国もあるらしいからな。


 ちなみに、飛空艇で他国へと飛んでいたドゥルクとカーネリアも、飛空艇に付けられた『拠点ポータル』を使って戻って来ている。ドゥルクなどは各国からの面会依頼が絶えずに辟易とし、昨日の夜には幽霊姿に戻ってヤケ食いをしていた。よほどストレスが溜まったのだろう。…………適当な理由をつけて食いまくっているだけにも見えたが、気のせいだろう。


 会場の様子を見ていると、厳かな演奏が始まって枢機卿の二人が壇上へと上がった。俺と話したドートニー=エスプラント枢機卿は補佐みたいな立場でいくらしく、その手には台座に乗った王冠とマントに杖を持っている。


 その全てが遠目から見ても豪奢な作りをしていた。あとでレクターに頼んで、近くで見せて貰おう。



「…………始まるな。あの人がエスプラント枢機卿と一緒に来たって言う、もう一人の枢機卿か?」


「うん。マッカシー枢機卿って言って、聖エタルシス教会ではかなり力を持った枢機卿の一人ね。あまり良い噂は聞かない人だけど…………」


「そんな人に戴冠式をさせるのか?」


「力はあるし、あくまでも噂だからね。それに、亡くなったばかりの人なら生き返らせる事すら出来る『奇跡の人』なの」


「…………悪人かも知れない『奇跡の人』か」



 と、その時。ふとマッカシー枢機卿と目が合った気がした。いや、正確には目は合っていない。だが、見られているのが解る、そんな感覚だ。


 しかも、何だかうっすらと敵意すら感じた。『奇跡の人』か。まあ、そんな二つ名が付くのだから、実力者には違いないから、目も合わせずに見られているのはいいとして、何で敵意を向けられるのかが解らない。


 …………マッカシー枢機卿ね、覚えておこう。



「テルゲン王国の歴史の転換点となるこの日、この場にいられる事を嬉しく思います。私は…………」



 マッカシー枢機卿のありがたい挨拶を聞き流し、それが終わると再び演奏が始まり、テルゲン王国の新王となるレクターが登場した。


 後ろに二名の側近を連れて来たレクターは、まずはテルゲン王国の騎士団や大臣の前をゆっくりと通る。するとそこに並んでいた者達が、その歩みに合わせるように頭を下げていく。


 その次には、各国から来た重鎮達の前をゆっくりと歩くが、各国の重鎮達は目線を下げる黙礼だけで見送った。


 そして最後に残った俺達は、テルゲン王国式の敬礼で見送り、マッカシー枢機卿の立つ壇上の前に立ったレクターは、そこに二人の側近を残し、一人で壇上へと上がった。


 だが、レクターはマッカシー枢機卿の前に立つのではなく、その横を通り過ぎてもう一段上の壇上へと上がり、僅かだがマッカシー枢機卿を見下ろす形となった。


 マッカシー枢機卿は一段上の壇上にいるレクターの前に立ち、深々と頭を下げた。



「レクター=カラーズカ殿。『聖エタルシス教会』を代表して、テルゲン王国の新たなる王にお祝いを申し上げる。貴方が築く統治により、多くの民の平穏が護られる事を切に願います」


「テルゲン王国の王位につく者として、正しき統治をする事を、創造神様にお約束申し上げる。余の統治により泣く民がいない事を、傷つく民がいない事を、余とて望んでいる」


「その言葉、我らが神にしかとお伝えいたします。我ら『聖エタルシス教会』は、テルゲン王国が新王レクター=カラーズカ様に、祝福を願います! この地に永遠の祝福があらんことを!!」



 マッカシー枢機卿が両手を広げてレクターを祝福し、マッカシー枢機卿から放たれた魔力がレクターの頭上で光の粒となって弾けキラキラと降り注いだ。


 そしてエスプラント枢機卿が持つ王冠、杖、マントの三つがフワリと持ち上がってレクターの所に飛んでいき、レクターがそれを受け取って身に付けたことで、テルゲン王国の王位は、正式にレクターの物となったのだ。


 勝手に浮かび上がった王冠やらは、これを見ていた神がレクターを新たに人を導く者として認めた証として起こした『奇跡』だと。


 ここで起こった全ては人が魔力で起こしたものであり、神の奇跡なんかではない事は全員が解っているが、あくまでこれは『儀式』だ。


 この『奇跡』に文句をつける奴などいる訳もなく、レクター=カラーズカの戴冠式は、滞りなく終わったのである。

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