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418回目 戴冠式に向けて

「勇者様、少しお話をしませんか?」



 王城代わりに使われている屋敷の中を歩いていると、見知らぬオッサンに声をかけられた。


 薄緑色の髪と髭を綺麗に整えた若々しいオッサンで、その眼は優しげだが筋肉はやたらモリモリになっている。


 シエラと同じようなデザインの真っ白なローブを着て、その後ろにシエラが控えている事から『聖エタルシス教会』の人間なのだろう。それも恐らくは、教会のお偉いさんだ。



「えっと、貴方は?」


「私は『ドートニー=エスプラント』と申します。聖エタルシス教会では枢機卿をやっております。まあ、勇者様の世界で言う所の『中間管理職』と言うヤツですよ」


「そんな言葉よく知ってますね。ガモン=センバです。はじめまして。シエラにはいつも世話になっています」


「シエラはその為に勇者様につけましたので、これからも使ってやって下さい。…………ふむ。それにしても勇者様はずいぶんと丁寧な方なのですね。あれほどの力を持てば、さぞ増長しているものと心配しておりましたが、シエラの報告に偽りは無いようですな」


「シエラがどう報告しているのかは知りませんが、俺の国では、礼儀というのは大切だと教育されますからね。まぁでも、最初だけですよ」


「そうですか、では私も勇者様に砕けた口調で話して貰えるように、精進せねばなりませんね。では、挨拶も済んだ所で失礼します。レクターに会いにいかねばなりませんので」



 そう言って深く一礼をして去っていくドートニー。シエラもそれに付いて行ったが、なんと言うか『食えないオッサン』ってのはこういう人物なのだろうとハッキリ解る感じの人だったな。


 いや、シエラを派遣してくれた人らしいし、レクターとは名前で呼び合う気さくな関係らしいから信用は出来るんだろうが、油断できない人物だろう。


 今、テルゲン王国には各国からのお偉いさんが集まっている。それと言うのも、近々レクター=カラーズカがテルゲン王国の新王になる戴冠式があるからだ。


 そのため、聖エタルシス教会からもレクターと親交の深いドートニー枢機卿以外に、もう一人枢機卿が来ているらしい。


 周辺国からは大体、侯爵やら大臣やらが来ているが、ジョルダン王国からは国王であるジョゼルフ王が自らが出て来ている。これからのジョルダン王国とテルゲン王国は、共に協力していくと周辺国に知らしめる為である。


 まあジョゼルフ王の場合、俺のフレンドでもあるので来ようと思えば『拠点ポータル』を使って一瞬で来れるのし、実際にそうしてレクターとは何度も話し合いを持っているのだが、今回はわざわざ飛空艇『アベルカイン』で連れて来た。


 飛空艇『アベルカイン』はフレンドでなくとも乗れるので、ジョルダン王国の騎士団を引き連れての空の旅だ。


 他国に俺が、テルゲン王国とだけでなくジョルダン王国とも懇意である事も見せつける為に、ある程度各国のお偉いさんが揃ってから、大きくテルゲン王国の周りを旋回しての登場だ。


 国ってやつは本当に面倒臭い。ジョゼルフだけなら『拠点ポータル』で一瞬なのに、わざわざこんな手の込んだ事をしないといけないとは。まぁ、タクシー代はボッタくったけどな。


 …………正確に言うと、あまり国に近づき過ぎるのもどうかと断ろうと思って吹っ掛けたら、すんなりとOK出されちゃったんで、受けるしかなかった。結構な額を吹っ掛けたのにアッサリOK出されたもんだから、もっと吹っ掛ければ良かったと思ったのはナイショである。


 そしてこの飛空艇での移動の後には、俺はレクターとテルゲン王国の王権を争っていたサザンモルト辺境伯とも面会をしている。


 サザンモルト辺境伯のために用意された屋敷の、豪華過ぎる一室で初めて会うサザンモルト辺境伯は、一言で例えるならライオンのような迫力のある偉丈夫だった。



「貴殿が勇者殿だな? 俺はジョコルド=サザンモルト辺境伯だ。俺の野望を姿も見せずに潰した男の顔を見れて嬉しく思う」


「ガモン=センバです。俺の方こそ、話を聞くだけで厄介だと思っていた人の顔を見れて良かったですよ」


「フン、言いおる。…………これは手土産だ。貴殿が集めていると聞いて探し集めた。俺の事を敵と思っているかも知れんが、これで少しは友となれたら嬉しい」



 サザンモルト辺境伯が合図をすると、隣の部屋から布の掛けられたテーブルが運び込まれ、サザンモルト辺境伯の後ろに控えていた執事が布を外すと、そこには大量の『郷愁の禍津像』が並んでいた。


 その数十六体。俺に渡す為に集めたとか言っていたが、よくもこんだけ集めたものだ。『サリアナイト』のおかげで美容グッズと交換する為に探している貴族も多い中で十六体とは…………。サザンモルト辺境伯が持つ力を見せつけられた気分だ。



「遠慮なく受け取るがいい。これには見返りは求めん。俺は確かに王権を狙っていたし、今でも諦めた訳ではないが、貴殿らが『幻獣』と戦っている映像とやらも見た。アレに関して言えば、協力関係を結ぶべきだと考えている」


「……………………すんなりとは信じかねますね」


「当然だな。だが、俺が貴殿と戦っても勝ち目が無いのは解るだろう? これはサザンモルト辺境伯家が貴殿に滅ぼされない為の贈り物だ。それ以外に他意は無い。何せあの様な空飛ぶ大陸まで所有しているのだ、貴殿が俺の立場だったらどうだ? 戦う気になるか?」


「なりませんね」



 そんなもの即答である。俺なら、出来るだけ関わらないようにする。地上の全戦力を纏めたとしても、『レナスティア』を落とせるとは思えない。



「しかもジョルダン王国とも懇意にしておるようだしな。そんな貴殿と敵対するほどの蛮勇は持ち合わせていない」


「…………では、遠慮なく貰っておきます」



 こうして意図せずに、俺は新たに十六体もの『郷愁の禍津像』を手に入れた。…………それは、『方舟』との戦いが近い事も意味しているのだ。

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