408回目 マーメイド族との会談
飛空艇『アベルカイン』の中で身だしなみを整えた俺は、☆4『王太子の正装(+4)』を装備して船が降りるのを待っていた。
俺と共に降りるのは、戦闘用の装備に身を包んだティアナとアレスだ。二人は今回、俺の護衛として会談に参加する。
「…………なぁティアナ、本当に護衛としてついて来るのか? お前もうすぐお姫様になるんだろ? 貴族でもない一般人の護衛はマズイんじゃないの?」
「なに言ってるの? ガモンは一般人じゃなくて『勇者』なんだから、護衛くらい連れてて当たり前だよ。それに、そんな立派な服を着ていて一人で会談に出たら、その方が浮いちゃうでしょ?」
「…………まぁ確かに。いや、一人で行くつもりは無かったぞ? アレスもいるし。俺が言いたいのは、もうすぐお姫様になるティアナの事で…………」
「大丈夫よ。もうすぐって事は今じゃないんだから、今の私は王女じゃないわ。そうでしょ?」
「…………むぅ」
俺がガチャを回していた五日の間にも世界は動いており、テルゲン王国では王家の『ヌヌメルメ』家とそれに連なる貴族家が、カラーズカ侯爵家とサザンモルト辺境伯家によって次々と捕縛され、一斉に処刑された。
これによってヌヌメルメ王家は滅亡し、新たにカラーズカ王家が立つ事になる。
テルゲン王国では新たな王家と、その意向に沿った政権樹立の為に、てんてこ舞いの状況だそうだ。
そんな中でティアナは俺達の所にいる訳で、本人も帰らないと言い張っている。当然ながら俺もカラーズカ侯爵に連絡を取ったのだが、「今は来なくてもいい。だが近い内に呼ぶから、その時は連れて来てくれ」と返事があった。…………なんか俺も行かなきゃいけないような文言だった。まぁ、行くけど。
『着水! タラップを下ろします!』
飛空艇が岩に囲まれた島の内側にゆっくりと降りて、島の三分の一程を占める湖に着水する。
そしてタラップが下りたのだが、飛空艇『アベルカイン』が大き過ぎて着水したのは湖の真ん中であり、タラップの先は水の中だった。
え、どうするのこれ? 泳ぐの? などと思っていると、岸の方から湖が一直線に凍って氷の橋が作られた。
「ガモン殿、まずは俺が行きます」
氷の橋に感心しながら見ていると、アレスが俺の前に出て氷の橋へと降りた。そして少し歩いて感触を確かめると、俺達に向かって頷いて見せた。
「アレスが先導してくれるからガモンが次、私は最後に行くわ」
「お、おう。解った」
アレスとティアナがしっかりと俺を護衛してくれるが、護衛される事に慣れてない俺は少しぎこちなくなってしまう。
本当はもっと堂々としないとダメなんだろうな。などと考えながら氷の橋を渡りきると、陸地から少しだけ浮かぶようにして、三人の人魚がいた。
三人の人魚は全員女性で、その内の真ん中にいる人魚は如何にも幼い姿をしていた。
もちろん『人魚』なので、全員が下半身は魚なのだが、その下半身がまるっとシャボン玉のような物に入って浮かんでいた。シャボン玉の中には半分ほど水が入っており、その中で尾ひれが動くと、どういう原理なのか動いた分だけ前に進み出て来た。
真ん中の人魚はドレスのような物を着ていて、その少し後ろに控える人魚は鎧と槍を持っている。と、いう事は真ん中の幼い人魚が族長なのだろう。後ろの二人は、どう見ても護衛である。
「…………ようこひょ勇者殿」
「「「……………………」」」
一発目で噛んだ幼い族長の顔が、だんだん赤くなっていく。俺達はそれを優しさでスルーしたのだが、族長の少し後ろに控える護衛達の肩が一瞬震えたのを見た。…………吹き出すのを我慢したように見えたが、気のせいだろうか?
「…………わ、わらひは、…………ゴホン。…………私は北のマーメイド族の族長を務めております『ヒョルスウィーン』と…………」
「「…………ブフッ!」」
「なぁんで吹き出すのぉぉ!? うまく自己紹介できたのにぃぃ!!」
何がツボに入ったのか、ヒョルスウィーンの後ろに控えていた二人の護衛が吹き出し、顔を真っ赤にして涙目になったヒョルスウィーンが二人をポカポカと叩きながら抗議しだした。
「だ、だって族長ったら凄い緊張して、しかも噛むから…………! 昨日はあんなに、強気な事を言っていたのに…………!」
「『ぜんぶ私に任せておきなさい! 必ず良い結果を出して見せるわ!』とか言ってたのに…………! まぁ、あの時も尾ひれが震えていたのは知ってたけど…………!」
「もーー! もーー! だからって吹き出さ無くてもいいじゃない! 頑張ったのに! 私頑張ってたのに…………!!」
…………何だか、やたらと微笑ましい絵面を見せられている。そして、この会談の様子は一部始終が『遠距離偵察用ドローン』で録画されているので、その点については御愁傷様とも思うが…………。
まぁなんだ、北のマーメイド族ってのが愉快で良い奴等な事だけはよく解った。俺は密かにティアナやアレスと視線を合わせて頷き合い、この愛すべき族長を持つ、北のマーメイド族を『レナスティア』に迎える事を決めたのだった。
「もーー! もーー!」
「「アハハハハッ! ごめんって…………!」」
…………涙目でヒョルスウィーンにポカポカ叩かれている護衛達もなんだか嬉しそうだし、もう少し放っておくか。
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