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407回目 北のマーメイド族

 北の海のとある島は、海上から見るならばただの岩山だ。しかし、その視点を空に置いたならば、そこに見えるのは森と湖をドーナツ状に岩が囲む風景となる。


 特徴的なのはその内側の、森と湖の境目だ。そこは砂浜になっており、森と湖とを綺麗に分割している。


 なぜそんな事になっているのかと言うと、その湖が、実は海だからだ。湖の底が海とつながっており、砂浜の砂は海を通して運ばれた物なのだ。


 ここは、北のマーメイド族が隠してきた楽園だ。北のマーメイド族の族長は、その自分達が護ってきた宝を会談の場所とする事で、誠意を見せて来たのである。


 俺はその北のマーメイド族の宝を、飛空艇『アベルカイン』のブリッジから見ていた。隣にはティアナも一緒である。



「自分達が大切にしている島の座標を開示か。本気で救いを求めているのが解るな」


「それほどに切羽詰まっている、って事ね。どうするの、ガモン?」


「そりゃ受け入れるさ。その為に準備もしたんだからな」


「今なら、人魚の秘宝を差し出せと言っても差し出すわよ?」



 足元を見る事もできると言うティアナ。顔を見れば本気で言っていないのは明白だが、冗談でもそんな言葉が出てくる辺り、ティアナも貴族だな。いや、俺を試しているのかも知れない。



「先に手を開いてくれた相手に殴り掛かるような真似はしない。相手が手を開いて差し出してくれたなら、素直に握手に応じるさ」



 マーメイド族には協力して貰いたい事もあるんだからな。友好的に信頼を重ねていけるなら、それが一番良いだろう。



「それに…………」


「それに?」


「この橋渡しをしたのは『水の女神』様らしいからな。きっと見てるぞ?」


「…………そうだね。冗談でも不用意な発言は控えるよ」


「だよな」



 水の女神様に目をつけられたく無いからな。マーメイド族とは仲良くするのが一番だ。



 ◇



 我聞の飛空艇『アベルカイン』が上空に現れたのを見て、北のマーメイド族の族長である『ヒョルスウィーン』は身震いをした。


 彼女は見た目からしてまだ幼い。人間で言えば十歳かそこらの子供だ。


 彼女の両親や、その側近たる騎士達は三年前の戦いで海に還っていった。三年前、突如発生したサメ型モンスターの大群との戦いで多くの被害を出し、その中に当時族長だったヒョルスウィーンの両親や兄弟もいたのだ。


 サメ型モンスターの大群は、元は南東の海で発生した。それと近隣の海に国家を構えていた魚人族が戦い、多くの犠牲を出しながらも追い払った。


 そして運の悪い事に、傷ついたサメ型モンスターの逃げた先に、北のマーメイド族の集落があったのだ。


 多くの力ある者を失ったが、北のマーメイド族は哀しみを圧し殺して前を向いた。


 だが、北のマーメイド族が纏まる為には、やはり族長の存在が不可欠である。


 そこで白羽の矢が立ったのが、死んで英雄となった族長の娘であるヒョルスウィーンだった。彼女には他にも兄弟がいたのだが、末っ子である彼女以外は、皆いなくなってしまったのだ。


 彼女は突然ひとりぼっちになってしまって事を嘆き悲しんだが、同時に族長であった父の誇り高い姿も見ていた。だから、新たな族長となる事を決意したのだ。


 …………それからしばらくは、平和な時が続いた。ヒョルスウィーンも少しだが成長し、集落の復興もあと少し、と言う所まで来ていた。


 そんな時に、今度は『幻獣』との戦いに間接的に巻き込まれた。折角持ち直した集落は狂暴化したモンスターに奪われて蹂躙され、ヒョルスウィーンの心は折れかけた。


 もうダメかも知れない。このまま狂暴化したモンスターに襲われでもして死んだなら、先に死んでしまった家族達に会えるだろうか? そんな事まで考え始めた時に、奇跡が起こった。


 ヒョルスウィーンは夢にて、『水の女神』様からの神託を受けたのだ。


 その内容は、『勇者である我聞に保護を求めるように』と言うものだ。マーメイド族としては、陸上で暮らす勇者に保護をしてもらうなど無理な話だと思ったが、その神託の中でヒョルスウィーンは、空を飛ぶ城とそれに付随する浮島を見た。


 神託によれば、この浮島はマーメイドや魚人が住む事を前提に造られており、ここには水の世界を生きる者だけの仕事もあると言う。


 つまりは保護をされる身ではあるが、一方的に施しを受ける訳ではなく、互いに利のある平等に近い関係が築けるのだ。


 この神託と共に、水の上位精霊との契約までさせて貰ったヒョルスウィーンは、『水の女神』の言葉に賭ける事にした。



「…………うぅ、大丈夫かなぁ…………」



 水の精霊を使者として送り、我聞には好意的に受け止めて貰えたと報告も受けている。そして、こちら側の誠意を見せる為に、大切にしている楽園である島を会談場所にもした。


 だが、空を飛ぶ見た事もないデザインの船を見ると、どうしても不安が押し寄せてくる。



「…………それじゃダメ! この会談にはマーメイド族の未来が掛かっているの! しっかりするの! ヒョルスウィーン!!」



 グッと拳に力を込めて、自分を鼓舞するヒョルスウィーンは、大きく跳ねる鼓動を気取られないように表情を引き締め、大きく胸を張って空を見上げた。


 誠意を見せる為に、この会談でヒョルスウィーンの護衛をするのは二人だけ、その二人の女性騎士は空を飛ぶ船よりも、少し震えながら健気にペッタンコの胸を張る幼い族長の姿に、ホッコリしていた。


 北のマーメイド族の若き族長ヒョルスウィーンは、同胞の中でアイドル的な人気がある族長なのだ。

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