402回目 水の精霊
事の起こりは昨日。タミナルの街での事である。
タミナルの街にある、魔王『海蛇』の封印を見守る為の設備である『大海蛇の噴水』から、水の精霊が現れた。
噴水に溜まる水が盛り上がり、ローブを纏う人の形を成した時、現場は騒然として人々は逃げ惑った。
現れた人型の何かは、周囲から人が居なくなったのを見たからか、何のアクションも起こさずにその場におり、逃げた人々に呼ばれた衛兵が来てから、やっと口を開いた。
『はじめまして人の子よ。私は水の精霊。わが主より言伝てがあるので、権力を持つ者との面会を希望します』
「は、はぁ。…………えっと、我々としては、貴女のような精霊と話をするのは初めてなのですが、その、権力者と言うのは、ターミナルス辺境伯様でよろしいですか? この街で一番の権力者なのですが」
『その者が、あの『空飛ぶ大陸』の守護者との渡りをつけられるのであれば、その者で良いです』
空飛ぶ大陸とは、もちろん☆5『◇天空城『レナスティア』』の事である。どうもその水の精霊は、俺に用があるらしい。
◇
「…………で、その水の精霊は水が大量にある噴水からは動く事も出来ないそうで、わざわざターミナルス辺境伯が水の精霊に会いに行って、俺に連絡をしてくれたんだ」
森と遺跡の浮島の開けた場所にテーブルや椅子を出して、俺はティアナとリメイアの二人を相手にお茶会をしていた。
別のテーブルにはアルグレゴが家族と共にテーブルを囲み、アレスこそ居ないが、家族水入らずで軽食を取っていた。
アルグレゴ小隊の隊員達は、付近のパトロールに出掛けている。きっと久し振りに家族と再会した隊長のアルグレゴに気を使ったのだろう。
「え、じゃあもしかして、その水の精霊はまだタミナルの街にいるの? と言うか、ノルドおじ様から連絡があったのなら、すぐに行かないと!」
「いやそれがな? 俺もすぐに向かうと言ったんだけど、ゆっくりでいいと、くれぐれも急がずにゆっくり来るようにと、変な念押しをされたんだよ。これって、「まだ来るな」って事だよな?」
「はぁ。お父様ったら、これを機に水の精霊と縁を作るつもりですわね。気持ちは解りますが、相手の用件が解らないのならやるべきではないわ。直ぐに行きましょう。あ、アルグレゴはここに残りなさいね」
「え、いやしかし!」
「ダメですわ。たまには家族とゆっくりしてなさい。タミナルの街に行くだけなんだから、護衛なんていらないわよ。私達だって、結構強いもの」
と、言う訳で。俺はティアナとリメイアを連れて、『拠点ポータル』を使ってタミナルの街へと転移した。
そして拠点となっている屋敷から、使用人に見送られて街へと出たのだが、やはり水の精霊が現れたからだろうか、ただでさえ賑やかな街が何時も以上に賑わっていた。
あまり精霊を刺激しないようにか、噴水広場には規制線が張られている。
…………この立ち入り禁止の黄色いテープ、俺のガチャアイテムだな。☆3の中でも使い道が無いかと思っていたやつだ。流石はゲンゴウ、使いそうな所としてターミナルス辺境伯の騎士団に売ったらしい。よく見ると三角コーンも立っているので、一瞬日本の光景を思い出したよ。
そして、騎士団によって確保されている道以外には、水の精霊を一目見ようと人が詰めかけているのだが、その道の両脇には出店が連なっている。
商魂たくましいな。流石はゲンゴウがいる街の商人達だ。ゲンゴウに負けてない。
俺は、俺達の事を目ざとく見つけた騎士によって、騎士団が確保している道に通され、規制線の向こうの人達からの視線を浴びながら、噴水広場へと入った。
広場の中には噴水の側に立つターミナルス辺境伯と、水で出来た女性に見える水の精霊が噴水の中に立っていた。
「…………なんだ、もう来てしまったのか」
やはりあの言葉は時間を稼げと言う事だったらしく、ターミナルス辺境伯・ノルドは残念そうな顔を見せた。広場の中に天幕を張り、何と言うか、いかにも学者風の人間がいる事からも、ノルドはこの機会に水の精霊と縁を作りつつ精霊という存在について調べようとしていたらしい。
「お父様、彼女はガモンの客人ですのよ? 横から口を挟むような真似は控えるべきですわ!」
「いや、別に口を挟む気は無かったぞ。ただ、ガモンを待つ間に世間話でもしようと思っていただけだ。多少は専門的な準備はしたがね」
リメイアとノルドが軽く睨み合う中で、俺は水の精霊に近づいた。
水の精霊は、ローブを纏う女性のようなシルエットをしているが、その顔も水であって透けているため、表情はなんとなくしか解らない。注意して見ていないと、眼を開けているのかどうかも解らないな。水の精霊的には、ただ形を作っているだけなのかも知れないけどな。
『その気配、貴方があの『空飛ぶ大陸』の守護者ですか?』
「…………守護者かどうかは解りませんが、俺があの『レナスティア』の持ち主である事は間違いありません」
『そうですか。…………私は水の精霊。我が主である『マーメイド』、北の若き族長である『ヒョルスウィーン』の名代として参りました』
「え? …………ひ、ひょ…………?」
『『ヒョルスウィーン』です。『マーメイド』は水の中で暮らす種族の為、人の物とは言語が違うのです。その言語の名前を無理やり人の発音にすると、そうなります』
なるほど、言語と言うか超音波とかに近い物があるのかも知れない。超音波的な物を言語化すれば、聞き慣れないものにもなるだろう。
「…………失礼しました。『ヒョルスウィーン』殿の名代として来られたのですね。俺はガモンです」
『ガモン、ですね。…………ではさっそくですが、私が来た用件を伝えます』
「はい」
『北の若き族長『ヒョルスウィーン』は、ガモン殿に『北のマーメイド族』の保護を求めます。これは水の女神様の神託により薦められたものです。ぜひ、ご検討をお願いします』
優雅に一礼までする水の精霊に、俺は面食らって二・三度瞬きをした。仲間にしようと思っていた『マーメイド』族が、向こうから保護を求めて来ました。
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