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395回目 失いたくないモノ

『ボロロロロッ!!』



 ブレイドロックドラゴンが脱ぎ捨てた皮や鱗が集まり、膨大な瘴気を浴びてモンスター化したフレッシュゴーレムは歪なトカゲのような姿で、動く度に脚に踏まれた草が瘴気の影響を受けて枯れ果てていく。



『グボロロロォーーーーム!!』



 雄叫びと共にフレッシュゴーレムの身体が大きく膨らみ、身体の隙間から周囲に瘴気を吐き出しながら縮んでいく。そしてその膨大な瘴気が周囲を汚染すると、フレッシュゴーレムから飛び出した大剣の様な鱗が汚染された地面に突き刺さり、その土を新たな体として、トカゲ型のゴーレムが起き上がった。


 ブレイドロックドラゴンとは全く別の特性を持った敵が増えたのか。それも、ソイツもまた新たなモンスターを生むと来た。



「ガモンよ、お主はアレス達と共にブレイドロックドラゴンを仕留めるが良い。あのフレッシュゴーレムは儂らが遊んでやるわい」


『…………わかった、こんな所で死ぬなよ?』


「儂はもう死んどるから関係ないのぅ。このホムンクルスの身体も、アルジャーノンならまた造れるじゃろうしな」


『…………はぁ。なら言い換える。…………死なせるなよ?』


「了解じゃ、お主らこそ、死ぬでないぞ?」


『おう!』



 俺が乗る『トライフォース』の腕に拳を当て、ドゥルクはザッパ達を引き連れてフレッシュゴーレムへと向かった。


 ブレイドロックドラゴンとの戦いに残ったメンバーは、俺・アレス・シエラ・カーネリア・ティアナの冒険者パーティー『G・マイスター』のメンバーと、バルタにトレマ・イオスの双子の姉妹だ。


 改めて、幻獣『ブレイドロックドラゴン』は化物だ。だが、負ける気など更々ない。こっちは世界の命運を背負っているんだからな!!



 ◇



 我聞達が幻獣『ブレイドロックドラゴン』と戦い続ける中、アルジャーノンは女神ヴァティーと共にいた。


 上空にある☆5『◇天空城『レナスティア』』での事とは言え、身近な所に『幻獣』がいて、膨大な量の瘴気を感じるのだ。女神ヴァティーは、自身の中で目覚めようとする『魔王』と必死に戦っていた。


 ヴァティーはアルジャーノンか見守る中で、瞑想によって自我を強く保っていたが、同時に、このままでは持たないとも感じていた。


 その原因は宇宙にある。


 地上と空中、ダンジョン内と外の世界という違いはあれど、女神ヴァティーと幻獣ブレイドロックドラゴンが同じ座標に重なっている。


 それは、通常では有り得ない膨大な存在エネルギーの重なり合いだ。巨大なエネルギーは、そこに存在するだけで他者に影響を与える。


 例えば、宇宙空間の軌道上を進む『方舟』などに。



「…………なるほど。幻獣が一体降りて来たくらいでは、甚大な被害は出るだろうけど世界までは滅びない。そう思っていたけど。…………まさかその繋がりで『方舟』まで落ちて来るなんてね」



 膨大な存在エネルギーは空間を歪め、あと数時間もすればその歪んだ軌道に『方舟』は捕まるだろう。そうなれば、その後すぐに幻獣が倒されて歪みが消えたとしても、『方舟』の落下は避けられない。


 準備が中途半端にしか出来ていない状態で『方舟』が落ちて来たなら、いくら我聞のスキル『ガチャ・マイスター』が優れていたとしても、ほとんど何も出来ずに滅びを迎えるだろう。


 あと数時間で、世界が本当に滅びるかも知れない。


 その未来をしっかりと見据えた時、アルジャーノンの心は凪いだ海のように静かになっていた。


 いざとなれば、自分とヴァティーの二人だけは逃げられる。このダンジョンとそこに住む全ての邪眼族を贄として、ダンジョンの深層の更に奥にまで、それこそ時空間を越えた場所にまで、二人だけなら逃げられる。


 眷族を見捨てて、仲間を見捨てて、世界を見捨てて行けば、数百年・数千年を越えて、新たな時代へと逃げる事は出来るのだ。


 ガモン達は嫌いじゃない。ヴァティーの眷族達だって大切だし、今のこの世界も好きではある。


 …………だけど、それらを全て纏めたとしても、アルジャーノンにとってはヴァティーの方が大切なのだ。そこだけは絶対に覆らない。


 それは、ヴァティーだってそうなのだ。しかし女神ヴァティーは…………。


 新たな世界を求めて『方舟』にまで乗り込んだ好奇心旺盛で夢見がちな若い女神は、アルジャーノンよりも少しだけ、欲張りだった。



『アルジャーノン…………』


「僕はここに居ますよ、ヴァティー」


『アルジャーノン、妾は…………失いたくない…………』



 …………他者に構っていては、己の中で膨らむ『魔王』に抗うのが難しくなる。それでも絞り出したその一言に、アルジャーノンは眼を閉じてうつむき、覚悟を決めて顔を上げた。



「……………………解ったよヴァティー。それが君の望みなら、僕はそれに応えるよ」


「……………………」



 ヴァティーは、今度は声には出せなかった。しかしその唇の動きは、確かにアルジャーノンに伝わっていた。



(妾達の友達を、…………頼む)


「…………うん。じゃあ、行ってくるね」



 ヴァティーの願いに応えて、アルジャーノンは踵を返した。向かう先で戦っている、友人達の事を思い浮かべて。

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