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39回目 『影纏』のバルタ

「…………ガモン、これ凄いな」


「まあ、見るからにいい双眼鏡だからな…………」


「いや、双眼鏡は僕達の世界にもあるんだけど、ガモンの世界のコレは性能が段違いなんだよ。ガモンの世界には魔法は無いって言ってなかったか?」


「ねぇよ? ただ、科学と技術が魔法の域に達してるだけだ」


「…………よく分からないな、それ」



 現在、俺とティムはオークやフォレストウルフの群れがいる場所からけっこう離れた草木の影で、身を隠しながら戦場を見ていた。


 ティムの手にあるのは双眼鏡。もちろんガチャ産で、100倍もの倍率を誇るすぐれ物だ。俺は双眼鏡なんて持って無かったけど、お高いんだろうな、コレ。ちなみにレア度は☆3である。


 武器や防具もそうなんだけど、どうもガチャから出る☆3のアイテムは価値的な幅が広すぎる気がする。


 ☆1と☆2なんて、駄菓子しか出て来ないけど値段は☆1の上限が二十円程で、☆2の上限だって二百円程だった。二百円越えると☆3になるんだよな。いや、正確じゃないかも知れないけど体感的にはそうなんだよ。


 ただ、☆3に関しては上限が見えて来ない。☆4になると特殊なスキルが二つも付くしな。あれは値段つけるの難しいと思うんだよ。…………え? ランニングシューズ? あれだってランクアップさせて熟練度を上げきれば、どう化けるか分からないぞ?



「あ、ガモン。また来たよ。今度は二体だ」


「おう、わかった」



 ティムに返事をした俺が反撃の盾を構えて前に出ると、森の奥から必死の形相をしたオークが二体、武器も持たずに口からはヨダレと泡を撒き散らしながら走って来た。



『ブキィーーッ! ブキィーーッ!』


「はい、お疲れさん!」


『ブモッ!? ブペェッ!?』



 息も絶えだえになりながら走って来るオークに、盾を構えて立ち塞がる俺をフッ飛ばす力などなく、逆に俺の盾に弾かれて簡単に地面に転がされては、ティムの氷の矢に貫かれて死んでいく。


 バルタは俺達にも、と言うか俺にも戦闘経験を積ませる為に敵を俺達の方に逃がすと言っていたが、その逃げて来る敵に悲壮感がありすぎて戦いにならない。


 オークとの戦いで恐怖に呑まれた筈の俺が、向かって来るオークの悲痛な顔を見て憐れみを感じるんだから、相当である。



「…………まあ、アレじゃあな」



 双眼鏡に目を当てて戦場を見ると、自前のスピードに呪われた武器で底上げされた速さを加えたバルタが、黒い暴風となってオークとフォレストウルフを蹂躙していた。


 オークやフォレストウルフが頼りとするオークキングとシャドウウルフは、既に首を落とされて地面に赤い染みを広げている。


 頼りにしていたボスをアッサリ失くした群れは、次々と増える仲間の死体に恐慌状態となったが、黒い暴風と化したバルタが敵を簡単に逃がす筈は無かった。


 唯一残された生きる道は、俺とティムが潜むこの場へと通じる道だ。しかし、そこを通るのを許されているのはオークだけであり、フォレストウルフはその道へと入ろうとするだけで最優先に首を落とされていた。



「…………いやいやいや。完全に虐殺だろこれ。わざわざ呪いの武器なんて使わなくても楽勝で勝てるんじゃないのか?」


「まあバルタならそうだね。自前のスピードだけでも、似たような事が出来るくらいには強いよ、バルタは」


「…………いやぁ、確かにあんな呪われた武器を使うなら、ここまで実力差がないと使えないかも知れないけどオーク達が憐れに思えてくるな。群れのボスだったオークキングやシャドウウルフまで瞬殺だったもんな。なんでここまでするんだか…………」


「そりゃガモンの為さ」


「え? 俺の?」


「そうだよ。バルタはガモンに、死の恐怖を乗り越えた先にいる強者の姿を見せているんだよ」


「…………どういう意味だ?」


「バルタのアレはね。本来はバルタよりも格上の相手に使う切り札なんだ。それこそ一撃でバルタを殺せるような、とんでもない化物と戦う時に使う武器なのさ」



 バルタの使う呪いのナイフ。禍々しい姿を持つそれらの名前は『アポリオン』と『アバドン』。堕天して悪魔となった者が、その姿をナイフに変えたとされる伝説級の呪われた武器である。


 そのどちらもがダンジョンの最下層にいたボスを倒した時に出てきた、ダンジョンの踏破報酬だったそうだ。


 …………けっこう深くて危険なダンジョンだったらしいのに踏破報酬が呪われた武器って、酷い気がするのは俺だけか? まあティムの話によると、そのどちらもが『呪い』をテーマにしたダンジョンだったらしいので、残当と言えばそうなのかも知れないが。



「バルタも最初は使う気なんかなくて、物好きな貴族にでも売ってしまおうと思っていたらしいけど、そんな時にバルタがいたパーティーはドラゴンの逆鱗に触れてしまったんだ」



 何があったのかはティムも詳しくは知らないらしいが、自分達よりも遥かに格上のドラゴンを怒らせたバルタ達は、絶対に勝てない戦いを強いられた。


 こちらの攻撃はほとんど効かないのに、相手の攻撃はマトモに喰らえば即・致命傷になる。バルタのいたパーティーは崩壊し、その全員が命の危機に瀕した。


 その時、バルタは半ばヤケクソで呪われた武器を両手に構えた。


 敵の攻撃を一発でも喰らえば死ぬのなら、防御力も魔法抵抗力もいらない。その全てを避けてやる、と。



「それから二日間に渡ってバルタはドラゴンと戦い続けた。そして、自分よりも速くて殺せないバルタに痺れを切らしたドラゴンは、ついにその場を去って行き、バルタのパーティーは生き残って『龍退者』の称号を受け取ったんだ。そして新たなA級パーティーとして認められた。…………もっとも、その戦いで負った怪我が原因で、パーティーは解散しちゃったんだけどね」


「…………ダメじゃん」


「でも、バルタは確かにドラゴンを退けたんだ。死の恐怖に打ち勝って、逆に死の淵まで歩み寄って。バルタはきっと、その恐怖に打ち勝った姿をガモンに見せたいんだよ」



 …………なるほど。バルタは俺に、恐怖に打ち勝つ事の大切さを教えようとしてくれている訳か。


 うん。まぁバルタが物凄いのは解ったし、俺も恐怖に負けないように心を鍛えたいとは思うが、…………バルタの真似は絶対に出来ないし、真似をしようとも思わないな。…………絶対に死んじゃうもんな。

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