384回目 ゴリ押す戦い
「…………押し込まれ始めたな」
「戦力差にずいぶんと差がありますからね。気力的に疲弊しており、公募兵はもう限界かと」
「戦いの経験が乏しい一般人が、よく戦ってくれた。だがこれ以上はダメだな。公募兵は全員下がらせろ」
ラグラフ王国とスタンピードの戦いは中盤戦を迎え、停滞を迎えていた。兵の力と装備に関しては、ガチャ食材のバフと、強力なガチャ装備のおかげでラグラフ王国に分がある。
だが、数の上では圧倒的に少ないのだ。何度かマジックポーションを飲みながら魔法を撃ってきた魔法隊も、すでに限界となっている。魔力に酔ったのだ。これ以上ムリに続けると、魔力が制御出来なくなって暴発するか、標的が逸れて味方を攻撃する可能性もある。
ラグラフ王国側には死者はあまり出ていない。気が急いて敵陣に単身で突っ込んでいった兵士や冒険者の一部がやられてしまったが、それだけである。
しかしこれからはそうはいかないだろう。こちらの数が減っただけでなく、魔法での一掃が出来なくなった。もっと温存しながら戦えばそんな事にはならなかったのは解っているが、アルグレゴはまず早い段階で敵の数を半分にするのが上策としたのだ。
アルグレゴは一度部下とラグラフ王国の騎士や兵士を集め、その全員を前に檄を飛ばした。
「聞け! 諸君にはこれより、死地に赴いてもらう! 敵の数は未だ千を越える! 我らはその前線に出て、敵を狩れるだけ狩る! 深追いはしない、我らを抜く者も追わない! だが、一人で数十もの数を相手にする事になる!」
そのアルグレゴの言葉通り、それからの戦いは壮絶なものとなる。
アルグレゴは小隊とラグラフ王国の騎士、それと兵士の半分を引き連れてスタンピードに真正面からぶつかったのだ。
モンスターの群れと対峙した瞬間にアルグレゴ小隊は周囲に散り、数十のモンスターを一人で相手にし始める。
ガチャ装備の性能とバフに頼ったゴリ押しだが、相手もまた方向性が一緒なだけで統率の取れていないスタンピードだ。数の上で十倍程度ならば押し切れると、アルグレゴは判断した。
そして結果としてそれは、間違いではなかった。
「…………な、なんという…………」
「…………こ、これがガチャ装備ってやつの力なのか…………?」
鬼神の如き働きでモンスターを斬り、潰し、投げ飛ばすアルグレゴ小隊の面々、その動きは常軌を逸しており、スタンピードで半ば暴走状態にあるモンスターすらも、後ろに下がらせる勢いだった。
その働きに気圧されはしたものの、ラグラフ王国の騎士や兵士も我が身を奮い立たせ、アルグレゴ小隊の一撃では死ななかったモンスターを協力して狩っていく。
その彼らをも抜いたモンスターについては、城壁の側を固める兵士と冒険者達が仕留める。
その中には、ダイヤモンドの様に光り輝くジュエルドラゴンの姿もあった。城壁を護る者達の指揮を取るリメイアが、自分のジュエルドラゴンである『ユーレカ』も戦わせているのだ。
自らの体を使って光を増幅するユーレカは、自分の周囲を光魔法で照らす事ができる。これによりモンスターが纏う瘴気を散らしてモンスターを弱体化させ、そこに兵士と冒険者達が襲い掛かっていた。
現状、戦いは人間側が有利に進めている。だがモンスターはやはり数が多く、ここに来てその動きも少し変わって来た。
狼型のモンスターである『エルダーウルフ』が、数匹で固まり、アルグレゴ小隊を襲い始めたのだ。
「…………時間をかけ過ぎたか。少しずつ統率が取れ始めている…………!!」
モンスターは、決してバカではない。物を考えないモンスターも確かにいるが、ほとんどのモンスターは状況に応じて動きを変えるのだ。
ダンジョン生まれのモンスター達は、確かに社会性などなく、周囲への協力もしない。だが、不利な状況をそのままに死ぬのを待つほど、愚かでもないのだ。
アルグレゴが苦虫を噛み潰すように歯を食い縛る。
アルグレゴは、こうなる前に勝負を決めたかったのだ。
「…………愚痴を言っても始まらん! アルグレゴ小隊に通達! 目標を『エルダーウルフ』に絞り、まずこれを殲滅する!! ラグラフ王国の部隊は一度退却! 城壁まで下がり、護りを固めつつ戦闘を継続せよ!!」
ラグラフ王国の騎士と兵士が踵を返して城壁に向かって走り出すと、背中を向けた敵を襲おうと『エルダーウルフ』達がアルグレゴ小隊から離れようとした。
だが、それを許すアルグレゴ小隊ではない。アルグレゴ小隊のメンバーは、襲う獲物を変えようとしたエルダーウルフに対して素早く攻撃を加え、その注意を無理やり自分へと惹き付けた。
「全員、目の前のエルダーウルフに集中して倒せ! エルダーウルフを素早く殲滅し、要塞の救援に向かうぞ!!」
「「おおっ!!」」
ラグラフ王国と、それを襲ったスタンピードとの戦いは、それから数時間も続いた。
エルダーウルフを殲滅したアルグレゴ小隊が、要塞を襲おうと壁に群れるモンスター達の背後を襲い、挟み撃ちの形をとってその数を削っていく。
そしてスタンピードにまつわる全てが終わったのは、もう日が沈み始めた頃である。
アルグレゴ小隊もラグラフ王国の騎士や兵士、さらにはその民まで公募兵として駆り出した戦いは、多少の被害は出しつつも、モンスターの大多数を狩り尽くして、人間側の勝利で終わりを迎えたのだった
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