373回目 ☆5『海鳴りの杖』
魔王『ウミガメ』。諸々の諸事情により、復活してしまったものの封印する事も討伐する事もすぐには難しい困った魔王である。
いや、魔王は悪く(?)ない。悪いのは、予期せぬ代替わりで、さらには新たな王がまだ幼いからと言って魔王の脅威や封印の大切さを伝えなかった魚人の国だ。
こことは後でしっかりとした話し合いが必要だな。世界の滅びに関わる魔王だ。国内にある封印の地をなあなあで護られては堪らない。海の中は、陸にすむ俺達では簡単に手を出せないのだから。
そして、討伐に必要な『郷愁の禍津像』。こちらについてはどうやら入手できそうだ。サリアナイトの三人とゲンゴウが築いた繋がりが、しっかりと機能している。
入手するのに二日掛かるとは言うが、たった二日で手に入るのが素晴らしい。後はその二日間を、どう時間稼ぎするかと言う問題だけだった。
だがそれも、我がクランが誇る『賢者』アリアの頭脳によって解決を見た。たった二日稼ぐだけで良いのなら、遠くの海に流してしまえばいいじゃない。と。
「いやーー、考えつかなかった。封印するとか眷族を出し始めたら削るとかしか考えてなかったから、物理的に距離を取って時間を稼ぐって発想は無かった。いや、言われてみればそれが一番簡単だよな」
「ウム。しかもガモンの『緊急クエスト』によって、魔王どもは一点を目指している事は解っておるし、その場所も既に割れておる。つまり、どんなに遠くに流したとしても、魔王『ウミガメ』は必ず女神ヴァティーのダンジョンを目指す。いや、儂も盲点じゃったな。さすがに若いの、アリアは。柔軟な発想じゃ」
「そ、そんな…………」
ドゥルクに誉められてテレるアリア。よくよく話を聞いてみると、アリアは自分に『賢者』の資質があると知った時から、研鑽を欠かしていないと言う。
ドゥルクに課せられた修行や宿題はもちろん、ステータスを上げるガチャ書籍も、知力や魔力を上げる物を重点的に読み込んでいるようだ。
そのストイックさは驚嘆。なにせ、自分の将来あるべき理想に向かって突き進む彼女は、☆5『海鳴りの杖』を装備可能な程にステータスを伸ばしていたのだから。
「元々高いという事もあるのだろうが、アリアの知力は儂にすら迫る勢いじゃよ。儂が見てやれない時にも研鑽を欠かしておらんかったのは素晴らしいのぅ」
「よし。ならアリア、『海鳴りの杖』を使って魔王を押し流してくれ。いいよな、ドゥルク?」
「もちろんじゃ。アリア、いけるな? お主の提案じゃ、成し遂げて見せよ」
「はい!!」
天空城から外に出て、『レナスティア』の端まで飛空艇で移動した。魔王に対処するために、次元の壁から出て実体を現実に晒した『レナスティア』が、海に大きな影を落としているのは、中々の光景だ。海に落ちる影を見ると、『レナスティア』のデカさが際立つ。
「アリア、☆5『海鳴りの杖』だ」
「はい! …………え? わわっ!?」
☆5『海鳴りの杖』は、海と白波を模した杖で、青と白のコントラストと、波をそのまま引き伸ばしたような形状の、どちらかと言うと、新体操とかで使うバトンに近い形状をした杖…………だった。
それがどういう訳か、俺の手からアリアの手に渡った途端に杖が波打ち、内側から水が溢れるように形を変えていったのだ。
そして最終的には、華やかに広がった波間から人魚の姿が覗く美しい杖へと変貌していた。
……………………装備できるステータスの条件を満たしているかどうかで形状が変わるんだろうか?
「えっと…………?」
「ま、まぁ取り敢えず使ってみろよ、アリア!」
「は、はい!」
悔しさを誤魔化すようにサムズアップをした俺に、アリアも気まずそうな笑顔を返して、海へと向き直った。
いや、いいんだよ。俺の事なんか気にしないで存分に力を発揮してくれ。
大きく深呼吸をして気を落ち着かせたアリアが、☆5『海鳴りの杖』を手に魔力を集中させ始めた。アリアの手から魔力が杖へと伝わり、杖から溢れ出す幻想の波がアリアの周囲を漂い始める。
そして俺は、集中するアリアの後ろで☆4『◇キャンピングカー』を出し、キャンパーに『遠距離偵察用ドローン』を出させ、魔王『ウミガメ』を探させる。
復活した場所も、魔王が目指す場所も解っているが、魔王『ウミガメ』はそれほど大きくないようで、中々見つからなかったのだ。
魔王ってのは、それが本来の大きさでいるとは限らない。やけに大きくなったり、凶悪な形になっていたりするのは、魔王の攻撃性に依るのかも知れない。実際のところは解らないけどな。
『マスター、発見しました』
『キャンパー、私とデータを共有する事を要請します。…………向きを調整、距離を測定。…………射程圏内に入りました』
「いけるか? アリア」
「捉えました! いきます! 『大津波』!!」
アリアが☆5『海鳴りの杖』を掲げると、海面の一部が大きく盛り上がり、その上に押し出されるように黒い影が飛び出した。
波の上でもがく黒い影は、津波が起こす白波に翻弄されながら押し流されていく。
本来の海の流れから逸脱した『大津波』。それは穏やかな海を荒々しく波立たせ、魔王ウミガメを遠く運んでいった。
面白い。応援したい。など思われましたら、下の☆☆☆☆☆から評価をお願い致します。
モチベーションが上がれば、続ける力になります! よろしくお願いします。




