369回目 バゴス王国の戦場
フリント王国でスタンピードを抑えるザッパ達の前に、潰れたダンジョンの階層ボス達がクレーターから這い出る様にリポップした頃。
滅びかける二国のもう片方、バゴス王国の上空ではまるで雲に手足や翼が生えたようなジュエルドラゴンが飛んでいた。
このジュエルドラゴンの名は『モックン』。女性のみで構成されるパーティー『メガリス』の、ネリスのジュエルドラゴンだ。
体の大部分が雲の様な物に包まれているモックンだが、この雲の様な部分も本体の一部なので、巨大化した後はその雲を皿の様に変形させ、その上に『メガリス』の三人とトレマとイオスの双子、そしてカーネリアを乗せていた。
「皆、下を見ろ。魔王とバゴス王国軍の戦闘が見えるぞ!」
メガリスのリーダーであるメリアが地上を指差し、モックンの上にいる全員が下を覗き込むと、そこでは何とも無骨で暑苦しい戦いが繰り広げられていた。
「ウォロロロロロッ!!」
「「ウロロロロロロォーーーーッ!!!!」」
…………ほとんど半裸のような、いわゆる『ビキニアーマー』を着たムキムキの男女が、大剣や戦斧を振り上げ、よく解らない奇声を上げて魔王の眷属を叩きのめしていた。
一撃で屠られる眷族に、魔王が一方的に押されている様に見えるが、実はそうでもない。
バゴス王国軍の一撃は確かに強力なのだが、必ずタメがいるので、魔王の眷族召喚が勝ってしまう場面があるのだ。
バゴス王国軍は確かに確かに押しているのだが、決め手に欠けるような状態が、長く続いていた。
もう少し、後ほんのひと押しで魔王を封印出来そうなのに、一撃の火力が足りていない。魔王側もどうやらそれが解っているようで、スタンピードによってバゴス王国軍を壊滅させられるタイミングを計っている様に、カーネリアには見えた。
「予定を変更するわ。天空城も見えない位置にあるし、私があの魔王を押し込んで力を見せる事にする」
実はカーネリアやメリア達が出撃する前、天空城ではひとつの問題が起きていた。
☆5『ワールドニュース・クラシック』で情報を集めるドゥルクが、新たな魔王の復活を読みといたのだ。
それがどの魔王なのかは、復活した兆候だけだったので解らないが、厄介だったのはその魔王の封印の地が、海だと言う事だ。
海中での封印は難易度が高い。魔王の封印には見張りもいるし、海に住む魚人族や人魚族が封印をしてくれるのだが、今は時間がない。
かと言って、☆5『強欲なる宝箱』で『郷愁の禍津像』を引き寄せるには、それが何の魔王なのかと言う情報が必須だ。それ故に、我聞達はバゴス王国の事をカーネリア達に任せる事にして、天空城で海へと向かったのだ。
強力な力を見せつける、と言う任務も、☆5『虹色魔晶石のブローチ』を持つカーネリアなら達成出来ると踏んでの事だ。
「よし! じゃあ魔王とバゴス王国の方はカーネリアに任せるよ! アタシ達は、予定通りスタンピードを叩く!!」
「「おーーっ!!」」
その宣言と共に拳を突き出したメリアに、カーネリアもまた拳を出して突き合わせ、カーネリアは自身のジュエルドラゴン『セキ』を巨大化させてその背に飛び乗り、魔王との戦いに向けて滑空した。
◇
ソレを何と表現すれば良いのか。
バゴス王国の歴戦の将にして、年に一度行われるバゴス王国の筋肉の祭典『ヘラクレス杯』において前人未到の三連覇を成した事もあるダイキョ=ウーキンは、自らの視力の鍛練不足を疑った。
復活した魔王と、その眷族との戦いは停滞を見せている。その疲労によって幻覚を見ているのかとプロテインを飲み干したが、ソレはいまだに空にある。どうやらあの赤く輝く宝石のようなレッドドラゴンも、その背に立つ赤い髪の少女も、幻覚ではないらしい。
レッドドラゴンと少女に気がついた何人かが見上げる空で、少女が無造作に手を振ると、空に大きな魔方陣が現れてすぐに弾けた。
そしてそれによって降り注ぐ緑色の光を浴びて、自国の兵士達の筋肉が躍動するのを感じた。
「今のは治癒魔法か? ならば彼女は治癒魔法使い? いや、あの髪色で治癒魔法使いは…………」
大規模な範囲治癒魔法は、緑色の髪色を持つ治癒魔法使いが使う魔法だ。レッドドラゴンの上に立つ少女の髪は赤い。ならば、治癒魔法使いではありえない。範囲治癒魔法の素養は、他の属性のついでに手に入る程度の素養では、使えない筈の物だからだ。
さらにその少女は、周囲に光の玉を飛ばしたかと思うと、その玉から光の矢を放ち、魔王の眷族を次々に屠って見せた。
その突然の攻撃に、バゴス王国の兵士達も魔王とその眷族でさえも空で輝くレッドドラゴンと、その上に立つ少女を見た。
全体の回復、そして魔王の眷族への攻撃。兵士達は突然現れた何者か解らない、しかし間違いなく強力な助っ人の登場に歓声を上げた。
…………が、その歓声はその直後に消える事になる。
レッドドラゴンの上の少女が腕を振り、レッドドラゴンの前に幾重にも出した魔方陣と、口を大きく開いたレッドドラゴンがその幾重に連なった魔方陣を貫くように放ったドラゴンブレスが、深紅のレーザーとなって魔王を貫き、その一撃によって魔王を光の中へと消滅させたからだ。
もちろん魔王が決して滅びない事など全員が理解しており、その後に魔王はしっかりと復活はしたのだが、どういう原理なのか空に向かって真っ直ぐに伸びた強大な熱量の光の柱と、一瞬とはいえ完全に魔王が消滅させられる光景を見せられたバゴス王国の兵士達は、今が戦闘中である事も忘れて、呆然と空のレッドドラゴンと少女を見上げる事になった。
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