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367回目 フリント王国

 蒼の王国とも氷の王国とも呼ばれるフリント王国の王城は、静まり返っていた。王も宰相も貴族達も城のバルコニーに集まって、一様に南の空を見上げているのだ。


 氷の城『アイシクル・フロージニア』。


 全てが氷で出来た城は寒々としたイメージを見る人々に与えるが、実際は寒くはない。氷に触れても冷たくもない。これは別に氷に見せかけた何かと言う訳でもなく、氷の城に特殊な魔法が掛けられている為である。


 故に、氷で出来た城や街ではあるが、人々の営みは普通の国とそう変わらないものであり、氷の城と街並みを見ようと観光客も集まって来るので、むしろ活気に溢れているのが、普段のフリント王国である。


 そんなフリント王国全体が、今は静まり返っている。


 その原因となるのは、南の空に現れた大陸の、その巨大な蜃気楼である。


 南の空を覆い尽くす大陸。これが本物ならば騒然としていただろうが、そこにあるのは存在感の薄い蜃気楼だ。訳の解らない物ではあるが、蜃気楼であれば被害は無いと、そう考えると言うよりもそう信じたい人々は、取り敢えずは王家の発表を待つ事にした。


 だから、その蜃気楼の大陸から一匹の輝く龍が出て来た時も、人々は動きを止めたものの騒ぎはしなかった。



「…………あれは、蜃気楼じゃない…………よな?」


「翼がないのに飛んでる…………何あれ?」


「…………凄い光ってる。なんか宝石みたいだ。…………って言うか、背中に騎士が乗ってる…………?」



 まあ、自分のジュエルドラゴンである『リュウゼン』に乗っている純白の鎧を装備したアレスを見て、唖然としているのが本当の所だが、フリント王国の様子を見下ろすアレスもまた、あまり騒ぎになっていない事に胸を撫で下ろしていた。


 何せ蜃気楼の大陸から降りて来た宝石の龍と、それに乗る騎士だ。そんな組み合わせは物語の中にもない。我聞のガチャ書籍の中に『事実は小説より奇なり』と言う言葉を見た事があったが、まさにそれを体現しているのが、今のアレスの気分だ。


 とは言え、流石に城に降りようとすると騎士や兵士が集まって来た。


 アレスは出来るだけ彼らを刺激しないように、城の前にある広場へとリュウゼンを着地させた。そして地面に降り立つとリュウゼンの体を小さくさせて、自らの肩に乗せた。



「な、何者か!!」



 一人の騎士が槍を構える兵士達の前に出て、アレスに声を掛けて来た。取り敢えずは先制攻撃されなかった事にアレスは密かに安堵し、脱いだ兜を脇に抱えて返答した。



「私は『勇者』ガモン=センバ殿のクラン『G・マイスター』に所属するアレスと言う者です! ガモン殿より言伝てを預かっているので、フリント王にお目通り願います!」


「ゆ、『勇者』!?」



 アレスの言葉を聞いた騎士は、アレスとリュウゼンの姿を見た後に蜃気楼となっている☆5『◇天空城『レナスティア』』を見上げて、またアレスへと視線を戻した。



「ひとつ聞きたい! あ、あの浮いている物は、『勇者』殿に関係する物か?」


「その通りです。あれはガモン殿の力の一端『◇天空城『レナスティア』』です。ガモン殿のスキルは途轍もない力を秘めています。フリント王へと取り次いで貰えませんか?」


「…………王へとお伝えしてくる。しばし待たれよ」



 取り敢えずは第一段階クリア。そう息をつくアレスの後ろ、その遥か上空では、フリント王国のスタンピードを殲滅する役目を請け負ったノーバスナイトの四人とシエラが、自分達のジュエルドラゴンに乗って降下していた。



 ◇



「余がシクイル=フリント=フロージニアである。龍に乗った騎士よ。そなたは勇者の仲間であると聞いたが、事実か?」


「はい。私はアレス。勇者ガモン殿と志を同じくする者の一人です」



 フリント王国の王城『アイシクル・フロージニア』。その謁見の間にて膝をつき、玉座の王を見つめながら口にしたアレスの言葉に、謁見の間に集まった貴族や騎士達がざわめいた。


 彼らの多くは、『勇者』がまたこの世界に降り立った事を知らず。彼らの中でもギルドとの繋がりが深い何名かは、勇者がこの世界に降り立った事は聞いていたが、南の空の蜃気楼の大陸を見て、勇者が持つ力の大きさに焦燥していた。


 そして彼らに共通する疑問はひとつ。『なぜ勇者の使者が現れたのか』である。


 もちろん、現在進行形で封印が解かれた魔王の再封印を目的として戦っているのは、この場にいる者ならば解っている。


 だが、魔王の再封印は困難ではあるが達成出来ない物ではない。この国だけでなく、かつて魔王に苦しめられた国であれば、魔王の封印は何度となく修練を繰り返して来た作業であり、失敗など有り得ないと言える程度には自信もある。


 だからもしも、勇者が魔王の封印を手伝うとか寝惚けた事を言ってきたならば、当然のように鼻で笑って追い返すつもりだった。


 だが、目的を問われたアレスが口にしたのは、魔王が自ら仕組んだ『スタンピード』の情報であり、しかもすでにそれの対処に動いているから『何もするな』、と言う宣言だった。


 魔王が封印された状態で『ダンジョン・コア』を作り出せる様になっていたと言う耳を疑う事実と、その証拠となるドゥルクとアルジャーノンが共同製作したレポート。


 謁見の間に呼びつけたフリント王国の学者が、そのレポートを読んで「事実だと思われます」と言った事で、フリント王国の重鎮達は、一様に頭を抱える事になった。

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