356回目 より複雑に
☆4『スノーモービル』を走らせてカラーズカ侯爵の所に向かう途中で、良い知らせと悪い知らせが入った。
先に来たのは良い知らせだ。『フレンド・チャット』を送って来たのはバルタで、その内容はサザンモルト辺境伯の所に忍び込み、『ナガアシゾウ』と『ヤイバトカゲ』の『郷愁の禍津像』を破壊したと言うものだった。
これはどちらもカラーズカ侯爵の領地に封印されている魔王の『郷愁の禍津像』だ。サザンモルト辺境伯はカラーズカ侯爵領の魔王を解き放とうとしていると考えていたので、『やはり持っていたか』と言う気持ちがある。
アブクゼニスと同じように、『郷愁の禍津像をうまく使えば魔王を意のままに操れる』と考えていたかどうかは解らないが、何にしても破壊出来たのは幸運だった。
◇バルタ
《ってな訳で勾玉が手に入り夜したんで、スキル倉庫に入れときやすぜ》
◇ガモン
《わかった。ところでバルタは今どこに居るんだ? 俺は今、カラーズカ侯爵の所に向かっている所だ》
◇バルタ
《カラーズカ侯爵の所にですかい? …………そういや、この間『緊急クエスト』が出たって話がありやしたね。その繋がりですかい?》
◇ガモン
《そういう事だ。ちょっと道が悪いから苦労してるけど、明日には着く》
バルタとのチャットを閉じて俺はスノーモービルを走らせる。時速的にはスノーモービルはかなり速い。問題なのは俺の運転技術の方だ。
と言うかコレ、ブレーキはついてるけど止まれないんだよ! 前にカラーズカ侯爵家の騎士団に交じって少し走らせたけど、俺だけじゃなく結構みんなぶつけていた。だって止まれないんだもの。
そんな中で道なき雪上を猛スピードで走れる訳が無い。安全運転です。グラックに前方の様子も見て貰った上での安全運転ですよ。怖いもの。
なのでカラーズカ侯爵のいる要塞に着くのは明日になりそうだ。本当に『拠点ポータル』を設置しておくべきだった。そうすれば一瞬で移動ができるのに。
「…………ん? チャットか?」
安全運転で雪上を進む俺の視界に、チャットが届いた印が出た。
俺はスノーモービルを止めてチャットを開く。差出人はドゥルク。そして俺はドゥルクがもたらした報告に顔をしかめた。
ダンジョン・コアを作る事を覚えた魔王が、より効率的な使い方を思い付いたらしい。まだどの魔王が復活するかも解ってない上に、魔王が何処を目指しているかも不明なのに、問題だけがどんどんデカくなる。
もう滅びそうな国が二つあるとかどういう事だよ。さすがにキャパオーバーだ。手が回らない。
ドゥルクからの報告は最後に、『演出はこちらで考えておくから、カラーズカ侯爵に魔王の封印されている場所を聞いたら戻って来い』と書いてあった。
…………演出? 何と間違った誤植だコレ? 救出か?
ちょっと意味不明な所もあったが、急ぐ理由が増えたので俺はスノーモービルのスピードを少しだけ上げた。
◇
「……………………」
太陽が沈み、空が濃紺色になった頃。アルジャーノンは魔力で強化した肉眼と、ガモンから貰った高性能天体望遠鏡を駆使して星空を探っていた。
途中で『方舟』が夜空を横切って行ったので、それも観測する。
「…………軌道がズレてる? じゃあやっぱり、原因は方舟かな」
ガモンから聞いた『緊急クエスト』の内容で、アルジャーノンが一番気にしたのは『幻獣』の部分だった。
力を持つ獣が神に近しい程の膨大な力を得て、しかし魔力に呑まれてしまったモノが幻獣だ。魔力が溢れる宇宙で幻獣になってしまうのは理解できるが、地上で、しかも本体を持たない魔王が集まった所で、絶対的に魔力が足りなくて幻獣になんか成れるはずが無い。
一体の魔王が他の魔王を、眷属も含めて魔力の生け贄にして喰らったとして、それでも魔力が足りるとは思えない。例え幻獣に手が届いたとしても、身体を構築する間に魔力が尽きて崩れていくだろう。
幻獣のなりそこないでも、膨大な瘴気は溢れるのでその地域は死んでしまうだろうけど、世界の破滅には繋がらない。
ならばあるのだ、膨大な魔力を手にする術が。そしてそこまでの膨大な魔力となれば、その鍵は宇宙以外にあり得ない。
「……………………!!!! …………見つけた」
ソレは、禍々しく大きく開いた眼で、地上を見つめていた。この星の周りに浮かぶ衛星の一つに四つ足でしがみつき、視線を一切きる事なく、ただ地上を見つめる。
闇に包まれたそれは、紛れもなく幻獣。アルジャーノンの『解析』によれば、『ブレイドロックドラゴン』。ドラゴンとついてはいるがトカゲである。ただし大剣のような鱗を持ち、岩のようにデカさと頑丈さを誇るトカゲだ。
「…………間違いない。アイツが魔王を集めて幻獣にしようとしている。恐らくは眷族を作る為に。そしてアイツが魔王を集めようとしている場所は…………」
高性能天体望遠鏡から眼を放して空を睨むアルジャーノンは、確かに感じていた。望遠鏡越しでもそうだったのだが、今もなお、地上を睨む幻獣と目が合っている。
「アイツが狙っている場所は…………ココだ」
地上を狙う幻獣が、自身が降りる目標として定めたのは、自身に匹敵する力を持つ、女神『ヴァティー』そのものだった。
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