354回目 既に始まっている
何かを観測するために待つアルジャーノンを外に残して、俺はヴァティーの部屋へと戻り、ヴァティーにアルジャーノンの様子を説明した。
『フム。アルジャーノンの奴は何かに気づいたようだの。ならば放っておくのが一番よ、ヘタに手を出せば邪魔になりかねん』
「…………儂の方も少し進展があったぞ。フリント王国とバゴス王国が兵を集めておる。規模からして戦争では無いの。両国の発表も『スタンピードの備え』となっておる。これは魔王の封印が既に解けていると考えて良いじゃろうな。前線では既に戦っておるじゃろ」
「もう解けてんの!?」
早くない? だってさっき緊急クエストが告知されたばかりだよ? もう始まってんの?
「落ち着け。これが緊急クエストに関係のある魔王かは分からんじゃろ」
「いやいや、だとして放っておいていいのか?」
「…………ガモンよ。全てに手を回そうとするな。ガモンのガチャとて万能ではあるまい。それに少々国をナメ過ぎじゃわい。各国にはこれまで魔王を封印し続けた実績がある。魔王の一体程度は抑え込んで見せるわ!」
ドゥルクによると、魔王の抑え方と言うのは既に確立されていると言う。
魔王とは眷属を増やすモノだ。そして奴らは、眷属を増やしている間は動けない。一定数の眷属を生み出してから移動するのだ。
つまり逆を言えば、眷族の数を常に減らしていけば、魔王は眷族を生み出す事を優先する為にその場を動かなくなる。その間に封印を施すのだ。
「魔王は強いが、普通に生み出される眷族は弱いからの。眷族を倒していくだけなら、あまり訓練をつんでいない兵でも、指揮しだいで何とでもなる」
「魔王の封印って、けっこう簡単なのか?」
「やり方が確立しとるだけじゃ。毎回犠牲者は出るし、準備が出来る余裕がある時に限るわい。今回の封印も、『ワールドニュース・クラシック』で読んだ限り、予兆があったからこそ対応が利いておるのだ」
故に、もしこの二体が緊急クエストの魔王と無関係だった場合がマズイ。一体だけで予兆があるならば、どこの国でも対応が利くが、そうでない場合はかなりの被害が出る事になる。
さらに『郷愁の禍津像』から生まれた『特別な眷族』がいたなら話が変わるのだ。
その『特別な眷族』は、魔王と同等、もしくはそれ以上の力を持っている。魔王自身の肉体が変化したものなのでそれも当然の話だが、軍で当たらなければ足止めもままならない程に強い。
魔王の封印が解けてその軍勢が街まで到達すると、それは現れる。おそらくは貴族、もしくは商人の誰かが『郷愁の禍津像』を持っていたのが原因だろうが、それを知らない各国では、『魔王の眷族が殺した者の命を吸って、それを使って召喚される』という認識でいる。
ちなみに魔王が封印されているとも知らない一般人は、魔王とその眷族が襲ってくる現象を、どこかのダンジョンからモンスターが溢れた『スタンピード』だと捉え、特別な眷族の事はダンジョンマスターだと思っているらしい。
「…………なら、もしかして封印が解ける魔王を特定さえ出来れば、それを国に教えるだけで防げるのか?」
「『郷愁の禍津像』が無く、国に魔王の再封印をする余裕があれば、と言う条件が付くがのぅ。さすがに二体の魔王の相手は一国では厳しいし、一番の問題は『テルゲン王国』よな」
「…………内乱の真っ最中で、もしカラーズカ侯爵が魔王の再封印に乗り出したら…………」
「それが終わる辺りを見計らって背後を突かれるじゃろうな」
…………本当にあの国は。マジで滅ぼさないと迷惑が嵩んでいくな。
「…………なぁドゥルク。もし、テルゲンのサザンモルト辺境伯や王国軍の近くで魔王が復活したらどうなると思う?」
「…………どうじゃろな。真面目に再封印に動くとは思えんな。逃げ出して他の勢力に尻拭いをさせようとする。と言うかむしろ、魔王の復活に関わっている。と言うのも考えられるの」
「…………テルゲン王国の魔王について調べよう。早急に。俺はカラーズカ侯爵の所に向かう。…………こんな事なら、拠点を作っておけば良かった…………!」
「気に病む事はない。前と今では状況が違うじゃろ。今から作れば良かろう」
俺はドゥルクに仲間への説明を任せて、一刻も早くカラーズカ侯爵のいる場所に向かう事にした。
そしてヴァティーの所から☆4『ランブルクルーザー』で移動していたのだが、しばらく進んだ所から雪が深くなり、車での移動が難しくなった。
「クソ! 思いの外雪が多いな!」
『キュイッ!!』
スノーモービルと言う手もあるが、道が全く見えない積雪に不安が募る。と、その時。俺が呼んだ訳でもないのに、ジュエルドラゴンの『グラック』が俺の前に姿を現した。
「ん? どうした『グラック』?」
『キュイキュイ!!』
「…………もしかして道案内してくれるのか?」
『キュイッ!!』
「わかった、頼む!」
自信ありげに胸を張って、任せろと言わんばかりのグラックに案内を任せて、俺はスノーモービルを走らせた。
こんな状況ではあるのだが、グラックと二人での雪原ツーリングは、かなり楽しかったです。状況が落ち着いたら、仲間達とも楽しみたいものだ。
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