350回目 溢れるダンジョン・コア
とある街の冒険者ギルドに、新たなダンジョンアイテムが持ち込まれた。
五人でパーティーを組むその冒険者が持ち込んだそれは、ダンジョン・コアを破壊する事で得られるアイテムであり、それらはかなり貴重な代物である事が多い。
アイテムの形状としては『小さな壺』だ。大きさはバスケットボールくらいで、使い道があるのかどうかは、冒険者達には解らなかった。なにせ彼らは『鑑定』が使えない。
しかしその胸は期待に大きく膨らんでいる。彼らは他の依頼をこなしている最中に、偶然に発生したばかりのダンジョン・コアを見つけただけだったのだが、それでもダンジョン・コアを破壊して得たアイテムだ、期待せずにはいられない。
だが、冒険者ギルドの鑑定結果は『ただの壺』であった。
「…………は? そんな訳ないだろ! 俺達は確かにダンジョン・コアを破壊したんだ! それで出てきた物が、『ただの壺』な訳あるか!!」
「これがダンジョン・コアの破壊によって出現した物である事は認めます。特殊な魔力の波動も検出しましたので、その報酬もお支払します。ですがこの壺にアイテムとしての価値はありません。…………どうしますか? かなり安くなってしまいますが、この壺は買取りますか?」
「うぅ…………」
冒険者達は『鑑定』が使えないため、冒険者ギルドに言われた事を信じるしかない。だが、それでも捨値で売るには未練があったので、その小さな壺は持ち帰る事にした。
ギルドの受付に座る職員の女性も、肩を落として帰っていく冒険者を気の毒そうに見送った。
「どうしたんですか先輩? さっきの冒険者達に何か言われましたか?」
「いいえ、違うのよ。また『ダンジョン・コアのガッカリアイテム』が持ち込まれてね」
「ああ、それで肩を落として帰って行ったんですね。最近本当に多いですよね。そのせいで、新しく発生したダンジョン・コアにわざとモンスターをぶつけて、モンスターを進化させてから狩る冒険者も増えているそうですよ?」
そう、さっきの冒険者のように、出現したてのダンジョン・コアを破壊してアイテムを持ち込み、ガッカリして帰るという冒険者が、いま多発している。
とある非人道的な研究によって、封印状態にある魔王がダンジョン・コアを作り出す術を手にした事により、世界にはダンジョン・コアが溢れている。
だから冒険者ギルドは現在、ダンジョン・コアの破壊を常設クエストとして常に掲げていた。
ただでさえ人類にとっては厄介なダンジョン・コアなのだが、今はさらに厄介な事になっている。
あまりにも数多くのダンジョン・コアが生まれたせいで自然界の魔力が分散し、これらのダンジョン・コアには、モンスターの魔力を暴走させて進化させる力はあっても、破壊した者の願いを叶える力が無いのだ。
そのせいで発生したばかりのダンジョン・コアを破壊しても、出てくるアイテムがゴミ同然の物になってしまっている。
さすがにそれを高く買い取る訳にもいかず、冒険者ギルドが買い取るそれはかなり安い金額となってしまっていた。
それ故に、ガッカリアイテムを経験した冒険者は、ダンジョン・コアをすぐには破壊せず、適当なモンスターを捕まえてダンジョン・コアにぶつけて進化させ、それを狩る。と言う危険な行為に手を出していた。
ダンジョン・コアを破壊したとしても、ダンジョン・コア自体の数が多くなり過ぎたために、冒険者ギルドから出す報酬も低くなり、出てくるアイテムも期待はずれ。
それならば、ダンジョン・コアを使ってワンランク上に進化させたモンスターを狩り、その素材を売った方が実入りが良いのだ。
もちろん倒せればの話である。返り討ちにされたり、逃げられたりした例もあり、そのせいと思われる被害も数件報告されている。
とある村などは、別件で雇われた新人冒険者がダンジョン・コアに触れてモンスター化してしまい、その冒険者自体は村人総出で何とか倒したものの、被害が大きすぎて村を捨てざるを得なくなった。
「本当に、どんどん増えているわよね、ダンジョン・コアの報告。今日なんて二つよ?」
「その内、街中にも現れるかも知れませんね」
「やめてよ。本当になったらどうするの?」
そんな会話をする中で、テーブルの上に置かれていたカップがカタカタと音を鳴らした。とっさにカップに触れると、微妙に振動している。
「…………ダンジョン・コアも増えましたけど、地震も増えましたね」
「あまり揺れる訳じゃないから被害もないし、気づいていない人も多いでしょうけどね」
カップを軽く抑えながら、受付の女性は不安を溜め息にして吐き出した。
何か良くない事が起きている。そう感じている彼女の感覚は的を得ている。
数多く出現するダンジョン・コアの裏側で、もっと大きな厄災が育ち、外に出る日を待っていたのだ。
そして、その危機に一番早く気がついたのは、やはり我聞である。
そう、彼の持つスキル『ガチャ・マイスター』から、緊急クエストの警報が鳴り響いたのだ。
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