342回目 『カイザー・ジュエルドラゴン』
そのジュエルドラゴンは風格からして他のドラゴンとは違っていた。
真っ白でフワフワの毛に覆われており、どっしりとした四肢と長い尻尾があり、背中には美しい七色の宝石の羽根を持つ翼がある。
顔つきは精悍で、深い青の瞳を持ち、その頭には七色の宝石で出来た太くて大きな角と、これも宝石で出来た飾り羽根が何本か後ろに流れていた。
って言うか、これ本当にジュエルドラゴンか? 宝石って言うよりは普通の生き物っぽい所が多いんだけど?
大きさ的には大型犬くらいだな。何かアラムならもう乗れそうな気がする。
「こ、これがアラムのジュエルドラゴンか。卵の時から普通じゃないとは思っていたけど、本当に凄いな。…………ちょっと触っていい?」
「うん。いいよね? カイザー」
『いいだろう。特別に許可する』
なんか不遜な態度だが、取り敢えず許可が貰えたので触ってみる。すると、俺の手がモフッと毛の中に沈み込み、その下にはやはり柔らかい動物の体があった。
他のジュエルドラゴンと全然違う。俺のグラックとか固いのに。いや、グラックの方が普通なんだけどな、ジュエルドラゴンとしては。
「おぉ、めっちゃモフモフ…………。なぁ、カイザーだっけ? お前はジュエルドラゴンでいいんだよな?」
『…………違う』
え!? 違うの!? カイザーの返答を聞いて俺は思わず撫でる手を止めてしまったが、その後すぐに『我はカイザー・ジュエルドラゴン! 誇り高き龍の王だ!』などと宣ったので、俺は撫でる手を再開させた。
取り敢えずジュエルドラゴンで間違いないらしい。普通に生き物っぽいのは何でか解んないけど。
ひとしきり撫でた俺が手を止めると、カイザーはアラムの側に寄ってその膝に頭を乗せた。
やっている事は完全に犬なのだが、カイザー・ジュエルドラゴンと言うだけあって、その能力は強力で他の追随を許さない。決してただのモフモフではないのだ。
まずカイザー・ジュエルドラゴンは全ての属性を持ち、その全てに耐性も持っている。状態異常なんかもちろん効かないし、能力値も高い。まさにカイザーと付くにふさわしい力を持っている。
アラムはまだその力に目覚めていないが、アラムが本物の『竜騎士』となれば、騎乗するカイザーの力を引き上げる事も出来るので、無敵の騎士たりえるらしい。
…………以上の説明は、全部ドゥルクの受け売りだけどな。
◇
ジュエルドラゴンの見せ合いも終わり、ティアナとリメイアも帰って行った日の夜。王都ギルドマスターのエルドルデから、『白狐族の里』へと案内出来ると連絡が入った。
俺はすぐに子供達にそれを話し、ニッカとダッカの準備も済んでいたので、二日後に案内を頼んだ。
「あ、あの。私達は明日でも大丈夫ですよ?」
「ニッカとダッカが大丈夫でも、俺達が大丈夫じゃないんだよ。お前達は、一度里に帰るんだろ? なら、俺達にもお別れぐらいさせてくれ」
「あ…………、はい。ありがとうございます」
「それと、明日は皆で買い物にでも行こうか。白狐族って、冬は里から出ないんだろう?」
「はい。雪の中で保存食を食べながら、しずかに春を待ちます」
「なら、色々と入り用な物もあるだろ。ガチャから出せる物もあるけど、せっかくだから『白狐族の里』にお土産を買おう」
「はい!」
永遠の別れじゃあるまいし、お別れは賑やかな方がいい。笑顔でニッカとダッカを送り出して、笑顔で再会するために、明日は盛大にパーティーを開こうと思う。
本当なら帰してしまったティアナ達や、バルタなんかも呼びたい所だがそうもいかない。その分は俺達が騒いでやろう。
こうして次の日は、ニッカ達と買い物に行く者達と、屋敷でパーティーの準備をする者達で別れて昼間を過ごした。
ちなみに俺はパーティー班だ。子供達の事はシエラとカーネリアに任せ、護衛としてバルタの妹であるトレマとイオスの二人も付けた。
バルタも才能を認める斥候職の二人がいれば、その目を盗んで子供達に悪さをする事は不可能だからな。安心できる。
俺はアレスと、しばらくここに留まる事にしたメリア率いる『メガリス』の三人と、ザッパ率いる『ノーバスナイト』の四人の力も借りて、パーティーの準備を進めた。
「…………あれが『ジュエルドラゴン』か」
そう呟いたのはトルテだ。その視線はメガリスの三人やアレスが連れているジュエルドラゴンの間をフラフラとしている。
「なんだトルテ、やっぱり欲しくなったか? ジュエルドラゴンを作りたいなら、いつでも言ってくれていいぞ?」
「…………うーーん。いや、やっぱ止めとくよ。俺、魔力も少ないし今は斥候の勉強中だからな。羨ましいとは思うけど我慢する」
「そうか」
トルテはノーバスナイトの中では一番年下で見た目も子供っぽいが、実は一番努力家で堅実だったりする。
何と言うか、テスト前だから欲しい漫画やゲームを我慢する子供を見ている気分になる。と言うか、その状況は身に覚えがある。
「まあ、出来るとしても今はやらないけどな。今はニッカとダッカを盛大に送り出してやらないとだろ? ほら、ガモンも動こうぜ?」
「おう、そうだな!」
トルテ達の頑張りもあって、その日の夜に行われたパーティーは盛り上がった。子供達もずっと笑顔でいたし、いいパーティーになったと思う。
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