338回目 孵化するジュエルドラゴン
「……………………平和だな」
パチパチと薪がはぜる音を聞きながら、俺はユラユラと揺れる☆3『ロッキングチェア』の上で、読書を楽しんでいた。
膝にかけた毛布の上には、どこから迷い込んだのか毛の長い猫が丸くなっている。
時折、外から聞こえる『スノーモービル』のエンジン音に耳がピコピコと動いているが、既にその音にも慣れたらしく動じる事はない。
「お前はいい子だな。オヤツ食うか?」
「…………にゃあ」
俺は猫にそう声をかけると、ガチャ倉庫から猫用のオヤツを取り出して、猫に食べさせた。
◇
部屋の中にいる俺はこんな感じだったが、他の皆は基本的に忙しい。まだ準備段階とはいえ、戦時中なのだから当然だ。
しかし、俺のようなド素人が手伝うとか言った所で、皆も困ってしまうのだ。いやさ、困っていた。既に試した。
俺は自分を普通の人だと思っているが、俺は肩書き的にもスキル的にも普通ではない、と言うのが皆の認識だ。
その俺に雑用などやらせられないと最初に言われ、気にするなと言って荷運びをしていたらカラーズカ侯爵の側近だと言う偉い人に見つかって怒られた。
「…………何をやっておるのですかな?」
「…………手伝いの荷運びですけど、何かまずかったですかね?」
「…………場所を移しましょう。私について来てください」
俺はその時にはよく分かってなかったが、俺が怒られた理由を簡単に言えば、『士気が下がるから』と言う理由からだ。
勇者でありカラーズカ侯爵の協力者でもある俺は、軍に置いては上官側とみなされるらしい。軍になど所属してないし階級など持ってないが、そう見られる。
つまり俺は、端から見るとお偉いさんに見える訳だ。まぁ、カラーズカ侯爵とはよく話しているし、フラウス小隊長とは昨日スノーモービルを二人乗りで乗り回していたから、そう見えたとしても不思議ではない。
軍において、上官と部下の関係性は、もちろん良い方がいい。だが、節度を持って線引きをしておかないと、部下が増長したり他の隊にも不和をおこす。
要は『なんでアイツらは上官を働かせているんだ?』とか、『何故ウチの上官は手伝わないんだ』とかの不満から、士気が落ちる。
そんな風に説明されて控えてくれと言われたら、従うしかない。結果俺は、物資の確認作業が終わるまで、ここで待機という事になった。フラウス小隊もスノーモービルの運転技術向上に忙しそうだから、仕方ない。
結局俺は、ガチャアイテムの性能を目の当たりにしたカラーズカ侯爵家の偉いさん達によって、追加でガチャを回したり、ガチャアイテムの説明をしたり、自分もフレンドにしてくれと言う要望を断ったりと、色々あって更に二日も留まる事になった。
だが、それもようやく終わった。ガチャは大量に回すし、お偉いさんからはアレを出せコレを出せと無茶を言われるし、☆5は出ねぇしでストレスの溜まり方が酷かった。日本で勤めていたブラック企業を思い出したよね、マジで。
まぁ俺がストレスを溜める度に、どこから聞きつけたのかカラーズカ侯爵がやって来て、俺のストレスの元凶を連れ去ってくれたから、まだいいけども。
カラーズカ侯爵の側近となれば、爵位は低いがやはり貴族なのだ。貴族はやはり傲慢だよ。
「本当に帰るのだな。気をつけて帰れよ? 冬になると食いつめ者が増えるから、野盗も増える。敵は魔物だけではないぞ?」
「心配してくれてありがとうフラウス。でも車で帰るから大丈夫だよ。今はコイツもいるしな」
『クアァ』
「「どうかお気をつけて!!」」
「ああ、皆もありがとう」
見送りに来てくれたフラウス小隊に別れを告げて、俺は雪道にも強い☆4『ランブルクルーザー』に乗って走り出した。
タイヤももちろん冬タイヤだし、ナビもあるから安全だ。それに、旅の相棒も出来た所だしな。
『クアァ』
車の中を興味深そうにキョロキョロしながら飛ぶ、黒い宝石で出来たような小さなドラゴン。それが俺の『ジュエルドラゴン』として生まれた『グラック』だ。
首が長く頭が小さいタイプのドラゴンで、四肢があって腕には折り畳める翼がついている。長い尻尾の先が水晶の鉱石のように尖っていて、その全身は黒い宝石で出来ていた。
だが、首の下から腹にかけてはグレーで、そのキョロキョロとあどけない眼はグリーン。俺はその眼と体の色からの組み合わせで、『グラック』と名付けた。
「グラック、ちょっと飛ばすから寝ててくれ」
『クァッ!』
俺が指示すると、すぐに頷いたグラックが黒い光の粒になり、俺の左腕に巻き付いて黒い宝石の腕輪になる。
これが『ジュエルドラゴン』である。まだ成長してないから乗る事は出来ないが、しっかり育てれば自分の体を大きく変形させて、俺を乗せられるようになるらしい。
つまり、いつになるかはまだ解らないが、俺はいつか体を大きくしたグラックの背中に乗って空を飛べるわけだ。
想像しただけで顔がニヤける程にロマンしかない。今からそれが楽しみである。
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