333回目 それぞれの卵
子供達がニコニコと笑顔で『ジュエルドラゴンの卵』を抱えている。アラムだけは卵がデカ過ぎて『抱きつく』と言った方が適切かも知れないが、皆が宝石で出来た美しい卵を大切にしている事だけは疑いようも無い。
だって俺もそうだもの。俺の手の中には真っ黒な卵がある。不思議と若干温かく、魔力が微量ずつ吸われている感覚がある。
注意しないといけないのは、ヘタに魔力を込めようと力を入れると、魔力がゴッソリと奪われる事だ。微量ずつなら、魔力の自然回復で何とか継続出来るから、ただ持っているのが一番良さそうだ。
さて、☆5『ジュエルドラゴン制作キット』の二周目に突入しよう。
俺と子供達の次に使うのは、ティアナとリメイアの親友二人と、メリア・ユミル・ネリスからなるパーティー、『メガリス』の三人だ。
一度目の使用が終わったからか、☆5『ジュエルドラゴン制作キット』は、一度スリープモードに入っている。
黄金に輝く卵型の機械の上に、ずんぐりとしたコミカルなドラゴンが乗っている形だ。
そして、丸テーブルの上に置かれたそれの周りに二陣のメンバーが集まると、まず五本のレバーが飛び出して、それにメンバーが触れる事で、宝石を乗せる皿が前面に出て来た。
これで、準備完了である。
後は、俺と子供達の時と一緒だ。☆5『ジュエルドラゴン制作キット』を手順通りに進めて、しばらく待つと、『ジュエルドラゴンの卵』が出て来る。
ティアナ達の作った卵は、大き過ぎる事もなく、しかし美しい仕上がりになっていた。
ティアナは青みが強い白の卵で、ゴツゴツしている様が氷を思わせる卵。
リメイアは透明でありながら金細工のような物を纏い、カッティングされた面がキラキラと輝くダイヤモンドのような卵。
メリアのは一見すると黒い色の岩に見える。しかしひび割れの様な模様の奥に、赤く輝く光が閉じ込められた、冷えて固まる寸前のマグマのような卵だった。
ユミルは薄い緑色の透明感のある卵で、卵の中に大木のようなシルエットが見える。どんなドラゴンが生まれるんだ? コレ。
ネリスのは、灰色の渦巻く雲のような形をしている卵で、その周囲に時折パリパリとした電気を纏っている、それ痺れない? と少し心配になる卵だ。
ティアナ達の卵が揃った所で子供達も集まり、お互いの卵を見せ合う中、俺はドゥルクに急かされて第三陣の卵作りに付き合う事になった。
第三陣のメンバーは、アレス・シエラ・カーネリアの俺のパーティーメンバーと、ドゥルクにアルジャーノンの五人である。
このメンバーを最後に回したのは、ドゥルクとアルジャーノンが作る『ジュエルドラゴンの卵』が、凄い物になりそうだったからだ。
だって一人は幽霊、もう一人はエルフとドワーフのハイブリッドだぞ? 特にアルジャーノンは、ドゥルクを子供扱いする程に長生きしているのだ。その魔力の質も量もヤバイ…………らしい、ドゥルクが言うには。
かくして、最後に残ったメンバーの卵作りが始まった。そして、その結果がこちらです。
まずアレス。黄色い宝石が卵型にカッティングされたような見た目で、その中には雷を想像させる紋章が浮かぶ、いかにも雷属性な卵。
シエラは自身の髪の色にも近い、薄い緑色の卵だったが、その大きさが小さい。俺のと比べると半分くらいの大きさの卵だ。
カーネリアのは燃える炎を固めたような、見るからに火属性全開の卵だ。きっと燃えるようなレッドドラゴンが生まれてくるに違いない。
そしてドゥルク。ドゥルクの作った卵は一番シンプルだ。灰色のツルッとした卵で飾り気は無い。しかし、他の卵よりは二回りくらい大きいか。
さあ、最後に残ったのはアルジャーノンだ。
ここはまぁ想定通り普通じゃなかった。まず大きさはアラムのに次いで二番目に大きく、縦に金、横に銀の格子状の装飾がされた輝く卵だ。これだけで照明になりそうな程に輝いている。
いったい何が生まれて来るのか。しかしアルジャーノンによると、『解析』の結果は普通の『ジュエルドラゴンの卵』となっているらしい。…………逆に怖い。
とにかく、これで全員の『ジュエルドラゴンの卵』が出揃った。あとは自然に魔力を吸わせておけば、三~五日くらいで孵化するそうだ。
どんなジュエルドラゴンが生まれて来るのか楽しみだ。俺達は、この卵からジュエルドラゴンが無事に生まれて来るまでは、大人しく過ごす事に決めたのだった。
◇
「どうも旦那。ちょいと様子を見に来やしたぜ」
「おうバルタ。悪いな、ティアナを帰さなくて。カラーズカ侯爵の方は順調か?」
「ええ。お嬢がいない隙に、ウチに紛れていた間者を一掃しやしたぜ。むしろ助かりやした。お嬢には見せたくねぇ光景だったもんで。…………ところで、その旦那が手に持ってんのが『ジュエルドラゴンの卵』ってやつですかい?」
「ああ、バルタも作ってみるか? 卵を作るだけなら、すぐ作れちゃうぞ?」
「止めときまさぁ。あっしは魔力が多い方じゃねぇですからね。普段から溜めて使っている魔力を吸い出されちゃあ、いざって時に使えやせんからね」
「そうか」
そんな会話をしながら、バルタが差し出した手紙を俺は受け取った。
「これは?」
「カラーズカ侯爵からの要望でさぁ。そこに書いてある品を、書いてある値段で売って欲しいそうです。テルゲン王国の宰相をやってた『ズルルケム侯爵』が、国を割って『サザンモルト辺境伯』の所に合流したんでね。本格的に戦争になりそうなんでさぁ」
俺はバルタの言葉を聞いて姿勢を正し、カラーズカ侯爵からの手紙を開いた。
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