32回目 過剰な出迎え
「ふわぁーー…………ぁ」
のどかな田園を馬車の中から眺めていると欠伸が出てきた。
いや、俺達がここに来た目的が、緊急クエストにあったオークキングとフォレストウルフの群れと戦うためなのは覚えているよ? でもなぁ、今日は良い天気だし程良く風もあって気持ちがいい。窓の外に見える草原で昼寝でもしたら、一瞬で寝落ちしそうな程に平和なのだ。少なくとも今のところは。
そして、平和そのものに見える村を進んでいくと、その道の奥にあたる丘の上に大勢の村人が集まっているのが見えて来た。
バルタが第一村人をつかまえ、駄賃を握らせて先触れに出していたから、あれはおそらく俺達を待っている出迎えだろう。
「バルタが、村の青年に先触れを頼んだのは正解だったようだね。ちゃんと村長にまで話が通ったみたいだ」
ティムにも出迎えに並ぶ村人が見えたのか、そんな感想を呟いた。そうか、あれ程の出迎えなら当然村長もいるよな。あの真ん中の若干背が低い爺さんが、そうかも知れない。
「何か、大勢で待ってるもんな。歓迎されているのか? カラーズカ侯爵家の名前って、こんな村にも届いているんだな」
「それは…………どうだろ。ウチが出資している商会がある場所なら、店内に紋章旗がある筈だからカラーズカ侯爵家の紋章を知っている人がいても不思議ではないけど、この村には商会どころか店がなさそうだ」
「…………じゃあ、あの人達はティムが何者かも知らないのに、あんなに大勢で出迎えに出てるのか? それって普通なの?」
「…………いや、普通では無い……かな」
貴族を出迎えるにしても、普通は村長とその護衛くらいだと、ティムは首を傾げた。
「あーー…………。若様、こりゃちょっとマズイですぜ」
「え? マズイって何が? まさか、オークの気配を感じたのか!?」
「いや、そっちじゃねぇです。たぶんソエナ村の人らが、勘違いをしてるって話ですぜ」
村人達が待っている所まではまだ距離があり、俺には彼らの表情など見えないが、索敵系のスキルを持っているバルタには、彼らの悲痛で強張った表情が見えたらしく、そう報告してきた。
「ありゃあ、権力を持った貴族が遊び半分に無理難題を吹っ掛けに来た、なんて考えている顔に違ぇねぇですぜ」
「ずいぶん具体的だな、バルタ」
「実際によくある話でやすからね。カラーズカ侯爵領みたいな、真っ当な領主様なら有り得やせんが、質の悪い領主にあたると村人は地獄ですぜ。村ごと奴隷のように扱われている所なんて、冒険者やってりゃ両手の指じゃ足りない程に目にしやすんでね」
「…………つまり、俺達をその類いだと思って待ち構えているのか?」
「ええ。差し出せるもんは何でも差し出して、出来るだけ穏便にかつ素早く出て行って貰おうと考えてやすね、あの村長の悲痛な顔は」
「…………その誤解は絶対に解かないといけないね。オークキングを討伐する以上、拠点も情報源もこの村になるんだから。それに先走ってギルドや領主に報告される訳にもいかないしな」
出来るだけ友好的に、フレンドリーに行こう。と、方針が決まった。もちろん俺達は、というかティムは侯爵家の人間なので、村人に対してへりくだる必要はない。その辺の線引きは重要なのだ。
馬車が村人達の前に到着するとバルタが御者台から飛び降りて、馬車の入り口に階段を設置した。そしたら、まず俺が降りて辺りを見渡し、その俺が階段の横に立つと、上位貴族の服に身を包んだティムがゆっくりと降りて来た。
この一連の流れは、つい先程ティムから言われていたものだ。上位貴族ともなると、馬車の降りた方一つでも、様々な決まり事があるようだ。
「これはこれは、ようこそソエナ村へいらっしゃいました。大貴族様に来て頂けたとなれば、我が村も捨てたものではありませんな。大したおもてなしは出来ませんが、歓迎いたします」
そう言って、初っ端から最大限にへりくだる村長に、周囲の村人も頭を下げた。だが、頭を下げながらもチラチラとこちらを窺うように目を向けてくる辺り、これが何の集まりなのかも理解していない村人が多いようだ。
「出迎えご苦労様。僕はテルゲン王国はカラーズカ侯爵家の者でティム=カラーズカと言う。この村にはある目的の為に来た。数日間滞在するつもりなので、よしなに頼む」
「テ、テルゲン王国の、…………こ、侯爵家の方であられましたか。わ、我々に協力できる事があれば何でもやらせて頂きますが、その…………目的とは、何でございましょうか?」
「なに、そう大した事でもない。道中で狩りに手頃なモンスターの群れを見つけたから、それを狩る間ここを拠点とするだけだ。僕達の事は放っておいて普段通りに過ごしてくれ」
「は、はぁ…………」
俺はてっきり『テルゲン王国』の名が出れば、「なんだ他国かよ」って事になるかと思っていたのだが、どうも違うようだ。
自国だろうと他国だろうと貴族は貴族、と言った所だろうか。
その後村長は、この村には宿屋が無いので、俺達の宿泊場所として自分の家を提供すると言って来たのだが、ティムはそれをやんわりと断った。
一晩や二晩程度なら、この箱馬車で十分と言う事だ。まあ、確かに馬車の中にはソファーが二つあるし平気かと思ったのだが、俺とバルタは外でテントだそうだ。…………ですよねーー。
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