315回目 次に向けて
「「お帰りなさいませ! 旦那様! お嬢様!」」
「うむ、皆には心配をかけた」
「ただいま」
侯爵家の使用人達の様子を見ると、カラーズカ侯爵とティアナがどれほど使用人達から好かれているかが良く解った。
その全員が、カラーズカ侯爵とティアナの無事を心から喜び、中には少し涙を流している人までいた。しかも、俺達と一緒に来た使用人の中にも貰い泣きしている人がいるあたり、彼らの忠誠心は本物である。
「それと、この者達が我らを救ってくれた者達だ。私の親族と同様と思って接するように」
「おおっ、この方々が…………。かしこまりました。何かあれば、何なりとご命令下さいませ。誠心誠意、お世話させて頂きます」
カラーズカ侯爵の一言で、俺達も最上のもてなしを受ける事になった。それはすごく至れり尽くせりで、しばらくは浸っていたい程に快適ではあるのだが。
そうのんびりもしてられない。ティアナの『フレンドクエスト』は、まだ触り程度しか終わっていないのだ。
ティアナの『フレンドクエスト』において、次にやらなくてはいけない事は、領地の防衛だ。
領地の防衛に与えられた猶予は七日間。そしてその内の三日をすでに消化しているので、残るは四日。
一応は丸々四日残っているのだが、王都からカラーズカ侯爵領までは車で一日以上は掛かる。それを騎馬と馬車で移動するとなると、軽く四倍は掛かると見ていい。
これは、馬という生き物に乗っているのだから当然の事だ。走るのが得意な馬とは言えど、常に走り続ける事なんか出来ないからな。上に人や荷物も乗っているし、こまめな休憩を挟まないと潰れてしまう。
普通の馬とは違い、戦闘用の軍馬なんてのは育てるのも訓練するのも大変だから、潰すような真似はしないだろう。とはカラーズカ侯爵の言葉だ。
だが、いくらここまで来るのに時間が掛かるとは言っても、のんびりは出来ない。ここに来る王国軍は、王からの勅命を持って来るからだ。
その内容は、カラーズカ侯爵家の取り潰しと領地の接収だ。ようは、国から侯爵に与えていた領地を返せ、という話になる。
準備期間も含めて七日なんていう短い期間で領地を奪う方法など、これくらいしか無いとカラーズカ侯爵は言っていた。
俺としては、そんなの無視すれば? と思うのだが、貴族である以上、それは悪手であるらしい。
勅命に逆らえば大義名分を与えてしまう。国の敵ともなれば、領地を接する貴族が全て敵となる。なぜなら、そこからは奪った者勝ちになるからだ。
カラーズカ侯爵と懇意にしている貴族も、そうなれば領地の切り取りに参加する。なぜなら、そうしなければカラーズカ侯爵領が、全て国の物になってしまうからだ。それに戦いに参加しなければ、自分達の領地を攻める大義名分も与えてしまう。
「つまり俺達は、王国軍がここに来るのを阻止しないといけない訳だ。その勅命がカラーズカ侯爵に渡った事実が作られるのがマズイと。…………誰か、良い案はないか?」
俺は、取り敢えず俺と同じ部屋に集まっている仲間達の意見を聞いてみる事にした。
「そうですね。一番良いのは、王国軍が途中で引き返す事でしょうか? いずれにせよテルゲン王国の王は交代させる訳ですから、時間が稼げれば十分ですし」
「とは言え、武力行使で引き返させるのは駄目ですね。戦争を早めるだけです」
「じゃあ、予測できない事故が起きるとか? 難しくない?」
アレス・シエラ・カーネリアの意見はこんな感じだ。まとめると、王国軍の馬車にでも何か細工をして引き返させる、とかになるのか?
引き返すかな? それ。
うーーん。今ここにバルタが居ないのがなぁ。バルタの意見を聞きたい所だけど、カラーズカ侯爵の所に行ってるからなぁ。流石にそれを呼び出すのは気が引ける。
「…………あの、ガモン殿。私の意見も言ってよろしいですか?」
そう声を上げたのはアルグレゴ小隊の副官イージドだ。イージドは今、俺の部屋で装備を鑑定してその詳細をノートに書き出す作業をしていたのだ。
イージドは俺がアルグレゴ小隊に預けた装備品を、全部こうしてノートにまとめており、装備の効率の良い組み合わせなどを考えているのだ。
ちなみにこれは、役にも立つが半分はイージドの趣味でやっている。気に入った装備は絵として描き残したりもしているらしい。俺もちょっと見せて貰ったが、かなり上手いもんだった。
「なんだ、何か良い案があるのか?」
「ええ。勅命を持って来る相手を引き返させるならば、最上はその軍が持って来る国王直筆の命令書が紛失する事です。それを王国軍の失態に出来れば、しばらくは時間を稼げると思います」
「…………なるほど。確かにその通りですね。ガモン様、完全に王国軍の失態にするのは難しいかも知れませんが、それが出来れば確実です」
イージドの意見に、皆も賛成した。ただ、その難易度は高い。何せ国王直筆の命令書だ。しかも侯爵家を潰す程の勅命となれば、十重二十重に厳重な警護をしているに違いない。
ましてそれが『アイテムボックス』なんかに入っていたなら、それは登録されている人間以外には取り出せなくなっているのだ。そうなれば密かに紛失させるなど、絶対に不可能だ。
…………まぁ昨日までなら、だけどな。
「…………実はさ、今朝それにちょうど良さそうな☆5装備が出てるんだよね」
「「はい?」」
キョトンとする仲間達の視線を浴びながら、俺は一つの☆5装備をテーブルに置いた。
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