313回目 もう必要のない仮面
◇ジョゼルフ
《…………話はわかった。コチラに来れるようになったら直ぐに来い。良いな? 直ぐに来るのだ。もし我々への説明を後回しにしていると感じたら、余みずからが全軍を率いて迎えに行くぞ》
◇ガモン
《かしこまりました。ちゃんと説明にお伺いしますので、少しだけ時間をください》
「…………フゥーー。ガチギレじゃないっすか」
「国を一つ、全力でおちょくった話をすれば、そりゃガチギレもしますぜ」
ダンジョン『邪眼族の螺旋迷宮』の女神ヴァティーの屋敷の一室で、俺は仲間達に囲まれながら溜め息をついた。
俺の溜め息の理由はひとつ。テルゲン王国の王都でやった事を、ジョルダン王国の現国王であるジョゼルフに報告した所、ガチギレ状態の返信が来たのだ。
まぁ、ね。テルゲン王国は確かに色々やらかしてるし、国王のバウワウ=ヌメヌメ(?)も魔王が『ダンジョン・コア』を作れるようにした罪とかがあったりする訳だけど、言ってしまえば今回は別に悪い事をしていないのだ。
謀反の可能性がある貴族を捕らえただけであり、しかも丁重に扱っていた。
そこには、その貴族の領地を早々に攻めようとしていた。とか、数日後にはその貴族の娘を酷い目にあわせていた。とか、深掘りすれば色々あるにはあるが、対外的にはまだ何もしていなかったのである。
とても優秀である日本の警察ですら、事が起こるまでは動けない。組織が国ともなれば、その柵は更に大きくなるのだ。
「ちょっと今回の事を、まとめてみよう」
えっと? 対外的には、まだ何もしていない国の王都に魔族騎士を解き放って、あまり傷つけてはいないが国民の恐怖を煽り、スキルで眠らせて生活を麻痺させて。
王城に忍び込んで、その内の一室を爆破して、そこから貴族一家を丸ごと拐い。
更には王都にあった隣国の貴族屋敷までが、そこで働いていた使用人もろとも姿を消した、…………と。
そして、その全ての犯人が『勇者』。
「……………………冷静に考えると、ちょっとやり過ぎたかも知れない。でも、俺がやったと知られなければ大丈夫だよな」
「そうね、私も知られたら大問題になるのは間違いないと思う。その全てがガモンのスキルありきで起きた事ですし、これが知られたなら、ガモンを巡って戦争が起きてもおかしくないかもね」
「……………………」
「どうかした?」
「…………いや、もうずっと『ティアナ』でいくんだよな?」
「うん! だってもう隠す必要も無いでしょ? 私が『ティム』でいたのは、テルゲン王国の王族や貴族から自分の身を護る為だったのだもの。ガモンがテルゲン王国を変えてくれるなら、もう『ティム』はおしまい。いいでしょ? ガモン」
「…………お、おう」
ソファーに座る俺の隣には、ドレスを着て微笑む『ティアナ』がいる。
俺はティアナから依頼された『フレンドクエスト』を受け、ティアナをテルゲン王国の王都から救い出した。
そして、その『フレンドクエスト』の行き着く先は、テルゲン王国の現国王から王位を剥奪し、カラーズカ侯爵を新王に据える。という、要はクーデターだ。
これは俺やティアナの意思ではない。俺のスキル『ガチャ・マイスター』が、そこまでしなければティアナを救えない、と判断した結果だ。
そしておそらく、その判断は間違いでは無いとドゥルクは言っていた。テルゲン王国の北西で、王国の隙を虎視眈々と狙っているサザンモルト辺境伯。この男も中々に屑だと、いやな太鼓判を押されたのだ。
現在の王を引きずり下ろしても、次の王がサザンモルトでは、ティアナの身に迫る危険は、結局は同じことにしかならない。だからこそ、やるなら徹底的に。そう言う判断であるらしい。
女一人の為に一国の首をすげ替える。
まるで映画か何かのようだが、テルゲン王国がマトモになるのは、『方舟』と戦う為に各国との連携を取りたい俺としても悪くない話なのだ。
だが、それにしても…………。
「ん? どうかしたの? ガモン」
「い、いや。なんでもない…………」
抑圧から解放されたティアナは、どこからどうみても女の子だ。まぁ女の子なのは元からそうなんだけど、今までの反動からか、もの凄く楽しそうに笑顔を振り撒いている。
…………正直、すごく可愛い。俺の隣に座っていて距離が近いから、余計そう見えるのかも知れないが。いや、掛け値なしにティアナは可愛い。
そして、ティアナを可愛いと思うと同時に、俺は少しだけ申し訳ない気持ちにも襲われた。
ティアナが『ティム』の仮面を付けている間、俺はティムを普通の少年のように扱っていた。男友達と接するようにしていた。
それは、ティアナが『ティム』である為には必要な事だったのは間違いないのだが、同時にそれは、ティアナにとってはとても残酷な事だったのでは無いだろうか? 俺は今更そんな事に気がついた。
「…………ティアナ、もう『ティム』の仮面は必要ないからな。ティアナのフレンドクエストは、俺が必ず達成するからさ」
「うん。期待してるよ、ガモン」
俺の『誓い』を聞いたティアナは、ニッコリと笑って頷いた。
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