309回目 潜入と獲得
「…………けっこう派手に動くじゃねぇですか」
☆5『ヒュプノスの大鎌』による『眠りの波動』に加えて、漆黒の姿でチョコチョコと動き回る三頭身の聖従士が、弓と魔法で牽制している。
その姿は中々に可愛いが、それらはアレスの半分程度の力をもった従士達だ。バルタをもってして『コイツは天才って奴だな』と確信させるアレスの力だ、半分とは言え厄介な敵となる。
実際、我聞がバルタと行動を共にしている時、ダンジョンアタックに勤しんでいたアレス達をもっとも助けてくれたのが、この従士隊だったりするのだ。
空を縦横無尽に飛び回るアレスが、集まる兵士や騎士に冒険者達を眠らせていく。テルゲン王国の騎士達は、すでに倒れた者達がただ寝ているだけとも突き止めていて、あの手この手で起こそうとする。
が、『ヒュプノスの大鎌』は☆5装備であり、ヒュプノスとは眠りの神の名前だ。ちょっと叩いたくらいで起きるほど、この眠りは浅くない。
だが、倒れたままにしておいては移動範囲が限定されて戦い辛い。倒れた者を気にしていては巻き込まない様にと気も使う。
結果として倒れた者は回収せざるを得ないので、更に人手を割かれるのだ。
「…………いや、実に良い仕事ですぜ」
おかげで、ずいぶんとやり易くなった。そう呟くとバルタは街の屋根から飛び降り、王城まで素早く近づくと、その壁を蹴って垂直に登り始めた。
そして王城の内部にして二階にあたる高さで壁に張り付き、中の様子を気配で探った。
(うーーん。やはり見張りの数を減らしたりはしねぇか。まぁしょうがねぇな)
王城の二階、その奥には魔力を一切出せない部屋、と言うか区画がある。なんでも、大昔に現れた魔力を喰うワイバーンの群れをその時代の『勇者』が倒し、それで得た素材を使って作られたと言われる部屋だ。
その部屋のある区画は、確かにバルタが探っても魔力の気配を感じない。バルタが使う索敵のスキルすら、その区画に達すると霧散している感覚があった。
(本格的に探ったのは初めてでやすが、思った以上に厄介なもんだな。まあ、なんとか突破するしかねぇな)
バルタは内部の様子を慎重に探ると、見張りとして巡回する兵士の視線が外れた瞬間を見計らって、ここに来るまでの道程で熟練度を上げて解放した☆5『亜空間のマント』の二つ目のスキル《亜空間潜行》を使用した。
するとバルタの装備する『亜空間のマント』の中にバルタの姿が沈み、マント自体も溶けるように消えていった。
(何度か試したりはしやしたが、やはりスゲェですね)
今、バルタは黒い空間と白い光で出来た世界にいる。真っ黒な空間に、白い光の集合で柱や壁、それに人が形作られた世界だ。
バルタはその空間における壁を難なくすり抜けると、亜空間から現実へと戻った。そして素早く『スリングショット』を構えて廊下の前後を歩く兵士に向かって弾を射ち出した。
キラリと光るその弾の正体は、我聞のガチャから出て来た『ビー玉』である。殺傷能力など無く、当たれば痛い程度のビー玉ではあるが、当然それにはバルタがサブウェポンとして装備する『ひのきの棒』のスキル《気絶》が乗っている。
全くバルタの事を知覚していなかった二人の兵士の首筋に命中したビー玉は、容易く二人の意識を刈り取り、二人の兵士は崩れ落ちる様に床に倒れた。
城の中を見張る兵士だ、簡素な物とは言え鎧を身に付けている。それを身に付けて倒れる以上、鎧が崩れ落ちる音が廊下に響く。
なら、それを聞きつけて近くを巡回する兵士が駆けつけるのは当然の流れだが、バルタが見つかる事は無い。何故ならバルタには、☆5『亜空間のマント』と言う反則級の装備があるからだ。
駆けつけた兵士がどんなに気配を読む事に優れていても、亜空間に沈むバルタを知覚は出来ない。そして知覚出来ない以上、バルタの放つ『スリングショット』のビー玉に当たれば、為す術なく『気絶』するしかないのだ。
そうやって集まる兵士や、気づかず巡回する兵士を次々と襲っては、その意識を刈り取っていくバルタに、ふとある感覚が芽生えた。
それはこの世界特有の感覚であり、我聞は決して知る事のない感覚だ。
(…………スキルが生えやしたか、えらい久しぶりでやすね…………)
そう、それはスキルが生えると言う、スキルがある世界特有の感覚だ。
そして、バルタが精神を集中して自分の中を探り、見つけ出した新たなスキルの名前は、『暗殺』だった。
(いや、殺してはいねぇでしょうが!?)
声にならない声を上げてスキルに抗議するバルタだったが、闇に沈んで決して見つかる事なく、警戒する敵の意識だけを刈り取るその姿は、まさに暗殺者のそれであった。
このスキルをバルタに与えた世界は間違ってはいないし、頭ではそれを理解しているバルタも、音を出さずに盛大な溜め息をつく、と言う器用な事をして現実を受け入れた。
そしてバルタは、倒れた兵士達を跨いで避けながら、ティム達が囚われている区画へと足を向けたのだった。
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