308回目 陽動と移動
テルゲン王国の王都上空に正体不明の敵、出現す!!
この情報を受けて、王都は騒然とした。
街の主要部を護る為にある、騎士団の駐留所からは当番の騎士や兵士が出撃し、王都の人々は自分の家へと逃げ帰って鍵を閉めた。
王都のメインストリートにある各商店も軒並み閉店し、数分前までは賑わっていたメインストリートから人が姿を消した。
しかし、更にその数分後には、今度は王国の兵士や騎士団と、戦闘準備を終えた冒険者達でメインストリートは溢れ返るのだ。
「…………上は腐りきっているらしいが、さすがは戦争によって成り立って来た国か。統率がとれているな」
そんな風に独り言を呟いたアレスに向けて、矢と魔法が射ち出された。魔法はともかく、矢を上空に向けて射つのはどうかとアレスは思う。
空に飛んだ矢は下に落ちるものだ。味方に当たったらどうするのか。
しかし、アレスに向けて射ち出された矢には、射程距離を上げる以外に、落ちながら燃え尽きる様に火魔法も組み込まれていたらしく、まるで流れ星の様に燃え尽きるそれを見て、アレスは小さく息をついた。
そうこうしている間にも、王都上空の敵を討つ為の兵力は続々と集まっている。だが、まだ被害も無いからか、王城には何の動きもない。
「…………フム。ガモン殿の作戦を遂行するには、少しは戦う必要もあるか…………?」
そう一言呟いて、アレスは様相が変わってしまった自らの鎧に眼を落とした。
☆5『聖騎士の神装(魔族化中)』
・《永続スキル・素早さ+100、器用さ+100》
・《飛翔》空を飛ぶスキル。自らの意思で自由に空を飛べる。微量だが、飛んでいる間は常に魔力を消費する。
・《魔力変換(光)》全身に浴びる光を魔力に変換し、吸収出来る。
・《聖従士召喚》飛翔能力を持った従士隊を召喚する。従士隊の職能は『剣士』『戦士』『弓士』『魔道士』『治癒士』の五つであり、最大五名であれば、組み合わせは自由である。
熟練度が上がりきってから発現した二つのスキル。《魔力変換(光)》によって単独飛行の場合の魔力消費は気にしなくて良くなり、《聖従士召喚》によって、どんな場面にでも対応できる上に回復までこなせる様になった。
ただし、この聖従士の強さは装備者の半分程度であり、大きなダメージを受けたり体力か魔力が尽きれば消えてしまう。
ちなみに、アレスが装備している☆4『魔族の装具』の効果はスキルにまで及んでいる為、聖従士達も魔族化している状態で出て来る。
アレスは、その聖従士達を召喚して少し戦わせる事も考えたが、まだ早いと思い直して☆5『ヒュプノスの大鎌』を横に構えた。
「まぁでも、まずは眠らせる所から始めようか」
アレスが横笛のように構えた『ヒュプノスの大鎌』に魔力を流すと、大鎌から『眠りの波動』が流れた。
その波動に触れた兵士や冒険者は、バタバタとその場に倒れて眠りに落ちる。
そして、多少の耐性を持つ者なども、圧倒的で暴力的な眠りの波動に膝を付き、やがては抗いきれずに眠りへと落ちた。
その有り様は、眠りの効果範囲にいなかった者達の眼には『即死』したかの様に見えた。
これによって王都は大混乱に落ちいる。
実は、その倒れている者達は寝ているだけだと言うのは、すぐに判明もするのだが、だとしても、あまりに強力な力を持つ敵の出現に、王城に詰めていた主力の騎士団にもとうとう出撃の命令が下った。
◇
そしてそんな混乱の最中にある王都で、騒ぎに隠れる様にコソコソと移動する者達もいた。
主人が王城にて囚われの身となり、屋敷内に監禁されていたカラーズカ侯爵家の使用人達である。
彼らは屋敷の周囲にまで兵士を配置され、身動きが取れずにいた。だがそんな彼らを、逃がしに来た者によって、兵士達はあっという間に無力化された。
彼らを逃がし、その前を行くのはカーネリアだ。使用人達はカーネリアが我聞から預かった、カラーズカ侯爵家の紋章が小さく刻まれた『貴族の短剣』を見せられて、その言葉を主人からの指示として、迎えに来たカーネリアに付き従って屋敷を離れたのだ。
もちろん普通なら、小さな紋章が入っただけの短剣を見せられてもそこまで信用は得られないのだが、彼らの中には、この短剣を侯爵から受け取った我聞の事を覚えている者もいた。
我聞の話は、テルゲン王国に帰って来たティムやバルタから、よく聞かされていた。様々な不思議アイテムを持つ我聞がこの王都に来ていて、自分達を逃がすと言うので、優秀な者がそろったカラーズカ侯爵家の使用人達は悟ったのだ。
きっとあの我聞が、主人やお嬢様を助け出しに来たのだと。ならば自分達がその足枷になる訳にいかないと、彼らは迎えに来たカーネリアの指示に従って、最低限の物を持ち出して移動しているのだ。
彼らが目指しているのは、隣国であるジョルダン王国の貴族にして、ティムの婚約者の家でもあるターミナルス辺境伯家の屋敷だ。
そしてそのターミナルス辺境伯家の屋敷では、我聞が屋敷の隅に『◇キャンピングカー』を設置して、事態が更に動くのを待っていた。
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