306回目 テルゲン王国の王都への道
テルゲン王国の王都の東を、『◇キャンピングカー』が疾走していた。
乗っているのはもちろん我聞達であり、タミナルの街にある拠点から『拠点ポータル』を使っての移動を駆使して、『邪眼族の螺旋迷宮』内の拠点に入り、そこからテルゲン王国の王都を目指しているのだ。
疾走する『◇キャンピングカー』の周囲には、『遠距離攻撃用ドローン』『攻撃用ドローン』『広範囲防衛用ドローン』『防衛用ドローン』『遠距離偵察用ドローン』『偵察用ドローン』が数多く飛び回っている。
この異様な光景に、山賊の類いは襲って来ない。ただそれは、時折『遠距離攻撃用ドローン』が遥か前方にある邪魔な岩を攻撃して砕くのを目撃しているのも、その要因かも知れない。
もしくは、これだけ異様な集団に襲い掛かる、勇気あるモンスターが、ドローンからの一撃で骸となっているのが原因か。いずれにしても、考える頭を持った者は、この一団を見なかった事にした。
実に賢明な判断である。
◇
「あーーーー、疲れた…………」
ジョルダン王国の重鎮や、冒険者ギルドのギルドマスターから届いたチャットの全てを捌き切った俺は、グッタリとソファーに身を投げた。
結果的にだが、今回『フレンド・チャット』を送った面々は、困惑とこれから始まる忙しさに対しての恨み言はあったが、別に怒ってはいなかった。少なくともチャットの文章から見る表面上は、だけどな。
『テルゲン王国を潰すという報告と共に、持っておる『郷愁の禍津像』を全て破壊するという報告を一気に上げたんじゃろ? そりゃ恨み言の一つも言いたくなるわい。むしろ、恨み言だけで済ましたジョルダン王達の心の広さに感謝するべきじゃな』
「……………わかってる。感謝はしてるよ」
体となるホムンクルスがまだ完成していないドゥルクが、いつも通りの幽体で苦言を呈した。ドゥルクは今回、お目付け役として同行している。新たな☆5アイテムを一気に十個も手にした俺が、やらかさないかを心配しているのだ。
『まぁしかし、『魔神のサイコロ』じゃったか? アレの使用を我慢したガモンならば、あまり心配はしておらんがな。『魔神のサイコロ』の存在を知った時は、流石に肝を冷やしたわい。よう使わず我慢したのぅ』
☆5『魔神のサイコロ』。そのあまりの危険性に俺が即座に封印を決めた☆5アイテムだ。
様々な変化を世界に強いるそのサイコロは、しかしそれ自体を破壊する事で一度だけ任意に世界を変える事ができる。正に『神器』だ。
極端な話、太陽を二個に増やしたり星の大きさを倍にしたりも出来るとんでもアイテムだ。
そりゃ誰でも考える。これを使えば、『方舟』を消せるんじゃ? くらいはな。
「…………俺は日本人だからな。日本人なら大抵の奴は知っている言葉がある。『風が吹けば桶屋が儲かる』、カッコいい言い方なら『バタフライエフェクト』だな。その意味まで知ってる奴なら、こんなの軽々には使わないさ」
『おう、それは読んだラノベに出てきたの。小さな事柄が、予期せぬ所での大きな事柄に影響を与えている、みたいな話じゃったかの、確か』
「それだな。例をあげればキリが無いから止めとくけど、何にしても世界に与える影響がデカ過ぎる。そこに思い至れば、もう使えないだろこんなの。責任取れないもの」
そもそも使い方が不明瞭なのも『罠』な感じがするんだよなこれ。怖くて使えないって、こんなの。
一応、ドゥルクとアルジャーノンには相談した訳だけど、これを使わないと言う点で、俺達の考えは一致しているのだ。
と、そこにキャンパーがフヨフヨと飛んで来て報告を入れた。
『マスター、そろそろカラーズカ侯爵の領都です』
「わかった。俺が呼んで来るから、適当な所で停まってくれ」
俺が呼びに行ったのは、今回俺達に同行したアルグレゴ小隊の副官イージドである。イージドはこの『◇キャンピングカー』内にある訓練所でバルタと共に、☆5『亜空間のマント』の熟練度上げに付き合ってくれていた。
残念というか、当然ながらこの短時間では熟練度を上げきる事など出来ない。しかし流石は熟練度を上げる事に定評のある副官イージドだ。俺達が欲しかった『亜空間のマント』の二つ目のスキル『亜空間潜行』はしっかりと解放してくれていた。
これから、このイージドには少し単独行動をしてもらう。カラーズカ侯爵の領都に向かい、ターミナルス辺境伯と俺からの使者として状況の説明と、これから救出するカラーズカ侯爵の受け入れ準備をして貰うのだ。
「頼んだぞ、イージド」
「お任せを。現状ならばカラーズカ侯爵家の方々もある程度知っているとは思いますので、心配はいりません。ガモン殿は自分の為すべき事に集中してください」
そう、頼もしい事を言ってくれるイージドが走らせるバイクを見送り、俺達は再びテルゲン王国の王都に向かって『◇キャンピングカー』を走らせた。
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