291回目 奇跡みたいな絶望
その日の夜。アルジャーノンから『方舟』の情報を聞いて、位置とその動きを割り出したドゥルクの指示で俺達は☆4『高性能天体望遠鏡』を設置し、方舟を全員で観測した。
まず望遠鏡を覗いたのはアレス・シエラ・カーネリアの三人だ。この三人は俺とパーティーを組んでいる関係上、あの『方舟』と真っ向から戦う事になるのだ。
「こ、こんな物がずっと空にあったのか!?」
「何と言う禍々しさ、そして瘴気…………。あんな物が落ちて来たら大地は…………」
「これで見ると小さいけど、実物はとんでもなく大きいのよね?」
「ああ、数多くの動物を乗せて世界を渡って来た方舟だからな、そりゃあデカイさ。具体的には、この街よりもデカイらしいぞ? アルジャーノンの見立てだから、たぶん間違ってない」
あの方舟が落ちたなら、☆5『◇天空城レナスティア』でそれを受け止めて戦う。そんな風に決めてはいるが、これだって問題は多い。
まず第一に、正確に方舟が落ちてくる時間と場所が解らない。方舟が落ちて来た時に、実際に受け止められなかったら何の意味もないのだ。
そもそも、俺はまだ『◇天空城レナスティア』をちゃんと見てもいないからな。本当にレナスティアに方舟を受け止めて、その上で戦えるだけの場所があるかは解らない。
いやまぁ、レナスティアには北海道と同じだけのデカさがあるから、大丈夫だとは思っているけど。
第二に、方舟の持つ戦力とその戦闘方法が解らない。
方舟に乗っている『幻獣』やら『魔王』やらを全て倒して、最後に方舟を破壊する。…………と、簡単に言うけども、実際にそんな事が出来るのか? それが問題である。
例えば、方舟に乗っている『幻獣』や『魔王』が一斉に飛び出してきたら俺達は対処出来ない。それでなくとも、『方舟』自体に防衛装置がついている筈なのだ。
例えば、方舟から砲撃があったら対応できるのか? いや砲撃ならまだいいが、『波動砲』とか『メガ粒子砲』とか搭載してたらどうするのか? 方舟の戦闘が解らないと言うのは、不安でしかない。
第三に、果たして『◇天空城レナスティア』から他に漏らさずに戦えるのか。
方舟から『幻獣』や『魔王』が一斉に飛び出したら、と言うのにも繋がるのだが、それよりもアルジャーノンが危惧していた物がある。
それは『瘴気』だ。
アルジャーノンによると『瘴気』は重い。つまり『瘴気』は空気より重いので、レナスティアから下に広がる大地や海に溢れる可能性が高いのだ。まるでドライアイスの冷気のように止めどなく広がると言う『瘴気』を、果たして止める術はあるのか?
実はこれが一番の問題だったりする。
アルジャーノンによれば、方舟は大量の『瘴気』を纏っている。それは方舟の『瘴気』が、通常の物に比べて濃度が高いという意味でもある。方舟の『瘴気』をまともに浴びれば、死体が一瞬でゾンビやグールになるくらいには、濃度が高いのだ。
そんな物が陸地や海に溢れだしてみろ、大惨事になるのは火を見るより明らかだ。『瘴気』が海に溶け込んだとすれば、海の汚染だけでなく、海で死んだモンスターも甦る地獄絵図になるからな。それが大きく広がったなら、方舟を倒したとしても世界が詰む。
「…………私達に不利な情報しか出てこないんだけど?」
「…………ま、まだ作戦を練ってる所だから…………」
カーネリアに痛い所を突かれて、俺はしどろもどろにしか答えられなかった。いやもう、実際に穴しかないからね、この作戦。でも今の所、ほかに良い作戦も思い付かないのだ。
三年とはいえ時間があって本当に良かったよ。今すぐ戦ったら、なすすべなく滅びるしかなかっただろうからな。
「うわ、マジであれと戦うのか? なんかドラゴンの影も見えるんだけど!?」
「戦え…………るのか? とてもそうは見えないんだけど」
俺達の後に『高性能天体望遠鏡』を覗いたノーバスナイトの面々は顔を青くし、アレマーなどは覗いた瞬間に小さく悲鳴をあげて後ろに下がった。
次いで方舟を見たのは、アルグレゴとその小隊の数名だ。
妻であるアレマーを気遣うアルグレゴが一番最後に見たのだが、その表情は険しいものだった。
「率直に言えば、勝てる絵が見えませんな。作戦以前に、相手がデカ過ぎる。今の戦力では到底足りない。戦闘経験が豊富な十万の兵がいても、負ける以外の未来は無いでしょう」
『アルグレゴの言う通りじゃな。だが、それを覆す事が出来るかも知れぬ物を、我々は持っておる』
「…………ガモン殿のガチャですな。…………確かにドゥルク翁の言う通りですが、十万の兵が全員ガチャ装備を身に付けていたとして、総力戦となればやはり負けるでしょうな」
『☆3や☆4だけならばそうじゃろうな。…………ガモンよ、これを覆すにはもっと上が必要じゃぞ?』
ドゥルクの言いたい事はわかる。って言うか、俺だってそれしかないとは思っている。
俺達があの『方舟』に勝つためには、決戦までにガチャを引きまくって☆5や、クラッシュレアを集めてこの状況を覆すしかない。
何とも運に頼った話だが、元々が奇跡みたいな絶望なんだ。ならコチラだって、奇跡を起こすしか道はないだろ。
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