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287回目 双子と買い物

 アルジャーノンのいる『技巧神の大工房』から屋敷へと戻った俺は、トレマとイオスの双子の姉妹を連れたバルタに誘われて、タミナルの街へと繰り出した。


 トレマとイオスの双子は、ずっと強力な呪いによって石化していた。その間、じつに三十年余り。完全なる浦島太郎状態だ。


 彼女達もバルタと一緒に冒険者をやっていたので、世界の事はよく見ている。それに冒険者の中には仲の良い者達もいたし、パーティーを組んだ事がある者達もいる。


 だが、三十年の時は長い。


 当然世界は変わるし、冒険者なら引退したり、死んでいたりする者達もいるのだ。


 彼女達は、完全に時代に取り残されていた。実の兄であるバルタとも親子以上の歳の差があり、その開きによるぎこちなさも、彼女達を時代から切り離していた。


 だが、彼女達は今を生きなければいけない。その為には、何より慣れが必要なのだ。


 そこでまずは、タミナルの街にあるゲンゴウの商会までやって来た。バルタがタミナルのどこを案内するかで迷っていたので、女性と言えば買い物じゃないか? と、適当な事を言った結果である。


 実際、石化の呪いから解放されたばかりの彼女達は、自分の持ち物を持っていない。だから買い物は必須だった。


 彼女達の事はフレンドにしてクランにも入れるつもりなので装備はガチャ装備で揃えるが、やはり普段使う物は自分達で選んで買い揃えたいだろうからな。


 ゲンゴウの『タカーゲ商会』はかなりデカイデパートだし、かなり楽しめると思うのだ。



「『タカーゲ商会』! へぇ、あそこはまだあるんだね、バルタ兄!」


「タカーゲ商会なら、私達も何度か利用した事があるよね! バルタ兄はよく来るの?」


「お、おう。…………やっぱ慣れねぇな、その『バルタ兄』ってのは…………」



 トレマとイオスは、元々バルタの事を『お兄ちゃん』と呼んでいたのだが、石化している間にバルタがすっかりおじさんになっていた事で、呼び方を変えたらしい。


 一度など、バルタを『お父さん』って呼ぼうか、などと話していたのだが、それはバルタが拒否していた。『流石にそれは勘弁してくだせぇ』って言っていたな。



「と言うか、タカーゲ商会は知っているんだな」


「そりゃ知ってるよ! タミナルの街に来たら必ず寄っていたもの。あそこって、ひとつの店で何でも揃うからいいんだよね! アタシのお気に入りの場所だよ!」


「色んな物がありすぎて目移りするから、余計な物まで買っちゃうし、必要な物だけ買う時にはむしろ行かなかったけどね。アタシもよく利用してたなぁ」


「へぇーー」



 トレマとイオスは、双子なだけあってソックリだ。それは見た目だけでなく、性格も話し方も似ているので見分けがつかない。


 本人達もそれを自覚しているからか、髪留めや、イヤリングとかブレスレットとかのアクセサリーを、トレマは左にイオスは右にと分けて身に付けている。


 当然だがバルタは見分けがついており、バルタによると性格も若干だが違うらしい。


 例えば二人が歩いていると、トレマが若干前にいるとか、話す時もトレマから口を開く事が多いとか誤差みたいな事を言っていた。


 バルタは、「双子ですが姉妹としてはトレマの方が姉でやすからね。多少背伸びしてるんでさぁ」と微笑ましそうに言っていた。



 ◇



「えっ!? 何これ! なんか見た事の無い物がいっぱいある!?」


「トレマちゃん! これ凄いよ! 今そこで実演してたんだけど…………!!」



 双子の姉妹は、最初こそ三十年前とのギャップに驚き、キョロキョロと周りを見ているだけだったのだが、次第に周囲の雰囲気にも慣れて、店内で売られていたガチャアイテムの『ジュースミキサー』で作ったスムージーを飲むと、一気にテンションが爆上がりしたのだ。


 …………なんかのバフが付いた訳じゃないよな? 一応、俺達も飲んでいるし違うはずだ。



「見てイオスちゃん! お風呂グッズがこんなに!! 何これ! マイクロバブルって何!? 何に使うの!?」


「ふわぁーー、これ全部シャンプーとかだよ! 種類が多い! ちょっと何が書いてあるのか分からない物がいっぱいあるね!!」


「色々買っていこう! バルタ兄からお金はいっぱい貰ったし!!」


「うん! あっ! あそこに女性服のコーナーがあるよ! 行ってみよう!!」



 …………凄いパワーだ。これ気をつけて見てないと、すぐに見失うぞ?



「…………うぅ、…………すんっ!」


「おい止めてくれよ、何を泣いてんだよバルタ」


「……………すいやせん。…………いけやせんね、年食うと、ちょっとの事で眼から水が溢れてきやしてね」


「いやまぁ、気持ちは解るけど…………」



 俺が、妹達を見て男泣きしているバルタをベンチに座らせていると、トレマとイオスが走って来た。マジックバッグがある筈なのに、両手にも荷物を抱えている所を見るに、もうバッグの容量を越えたらしい。


 容量の小さいマジックバッグらしいが、それでもいっぱいになるって、どんだけ買ってんだ。



「ガモン! この荷物見てて! あとバルタ兄! もっとお金ちょうだい!」


「無くなったの!? 確か大金貨(百万円)貰ってたよな!?」


「うん! でもまだ欲しい物がいっぱいあるの! …………あれ? バルタ兄、なんで泣いてるの?」



 俺は双子の姉妹を見て溜め息をひとつ吐くと、二人に大金貨を一枚ずつ渡してやった。


 まぁ本人達にとっては一瞬でも、三十年ぶりになる買い物だからな。存分に楽しませてやろう。

面白い。応援したい。など思われましたら、下の☆☆☆☆☆から評価をお願い致します。


モチベーションが上がれば、続ける力になります! よろしくお願いします。

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