286回目 ヴァティーの鱗
俺とバルタがアルジャーノンを連れて、タミナルの屋敷まで『転移』して戻って来た時、アレス達やノーバスナイトの四人はタミナルに居なかった。『郷愁の禍津像』を求めて、それぞれが目的としたダンジョンへと挑んでいたからである。
一応、俺達が帰って来た事は、『フレンド・チャット』で伝えてあるし、皆からの返信も受け取っている。
それによると、どちらのパーティーも帰って来るのは数日後になるらしい。良いペースでダンジョンを攻略できてはいるものの、まだ『郷愁の禍津像』の入手には至っていないようなのだ。
本当なら、俺の…………と言うよりも、世界の敵と言える『方舟』についての事を仲間達と話し合いたい。もちろん、『フレンド・チャット』で全員と話す事も考えたのだが、ドゥルクはそれに間接的にしか加われないし、何より現在進行形でダンジョンに挑んでいるアレス達に、余計な事を背負わせる訳にはいかない。
ダンジョンの探索中に、『方舟』の事が気になって集中できなくなったりすると最悪だからな。ダンジョンの中で油断するなんて、命の危険に繋がる。そんな危険はおかせない。
なのでしばらくは黙っている事にした。少なくとも、仲間達がこの拠点に帰って来るまでは。
と言う訳で、暇になってしまった俺は、今日も『技巧神の大工房』にいる、アルジャーノンの所へと来ていた。
「…………なるほど。そんなことがあったんですか。『トゥルー・フレンド』とは、面白いですね。僕にもその『フレンドクエスト』が発現すれば、同じようになるんですかね?」
「そうなるだろうな。狙って出せる物じゃないだろうけど。それよりどうだ? 『絆の証』は作れるか?」
「それはもちろん大丈夫ですけど…………。ちょっと材料の中に買えない物がありますね。まあ、持っているので問題はないのですが」
「へぇ。ちなみに何が買えなかったんだ? 割と何でも揃ってるだろ」
「『オリハルコン』と『アンオブタニウム』ですね。希少金属は売ってないの多いですよ? 『ダマスカス』や『ミスリル』までは買えますけど、『オリハルコン』『アダマンタイト』『アンオブタニウム』は無いですね。あと無いのは希少な『モンスター素材』ですかね。まあそれでも、大抵の素材は揃いますけどね」
…………なるほどなぁ。しかも、アルジャーノンの話に付け加えるなら、『ダマスカス』や『ミスリル』も買うと高いので、持ち出しでやっているそうだ。
俺が持ち出しの分はしっかり金を払う、と言うと。もの凄くいっぱいあるし、アルジャーノンとしては簡単に手に入る素材だから要らない、と言われた。
「いやいや、希少金属だろ? なんでそんなに持ってんの? それにあの『アンオブタニウム』とかって、バルタですら聞いた事のない金属だって言ってたんだけど、なにあれ?」
聞くのを忘れていたが、『邪眼族の螺旋迷宮』で邪眼族が持っていた、様々な金属で出来た『レリーフメダル』。あれを用意したのはアルジャーノンのはずなのだ。
ちなみに俺の予想だと、最下層にあった田舎風景。その中に点在する山が、それぞれの金属の鉱床になっているのだと予想している。
あの場所を造ったのは異界の女神である『ヴァティー』だ。希少金属が採れる山を創造する事だってやってのけるだろう。
「ああ、材料は全部ヴァティーの『鱗』ですよ? ヴァティーは定期的に脱皮するので、いっぱい手に入るんですよね。それで、折角なのであのメダルにしてみたんですよ」
……………………違った。
「え、『鱗』!? だって金属だぞ!?」
「ヴァティーですからね。ヴァティーの鱗は一枚がかなり大きいんですけど、その鱗一枚で数種類の希少金属が採れるんですよね。例えば鱗の一番外側が『ダマスカス』で、その内側に『ミスリル』がある。みたいな感じですね。ちなみに核の部分は『アダマンタイト』です。全体で一枚しかない『逆鱗』はまた少し違うんですけどね。中心の核は『解呪の秘宝』ですしね」
「へぇーー。…………あれ? じゃあ『アンオブタニウム』は?」
「あれはヴァティーの石化し始めている部分ですね。だいたいは石化しているんで使えないんですけど、中心にある『核』の部分だけが『アンオブタニウム』になってたんですよね。いや僕も、そこで出会うまでは『アンオブタニウム』なんて知らなかったから、鑑定で『アンオブタニウム』なんて出た時は驚きましたよ。しばらく研究に打ち込んだのは懐かしい思い出ですね」
「アルジャーノンで初見だったのか! じゃあ俺達が知る訳がないよな」
俺達よりも遥かに長く生きていて、研究者でもあるアルジャーノンが知らなかった物なら、俺達が知るよしもない。そりゃ当然ってもんだな。
「でも凄いんですよコレ。どんな金属とも反発せずに混ざるし、モンスター素材とも相性が良いし。加工次第で柔らかくも硬くもなって、魔法を吸収も弾きもするって言う、何でも有りの金属です」
へぇーー。まぁ、異界の女神の持つ、あらゆる金属を兼ね備えた鱗が、『郷愁の禍津像』なんていう別の力と掛け合わされて出来た物なんだろうしな。そう考えると、多少は納得も出来そうだ。
まぁぶっちゃけ? 門外漢の俺ができる事なんか何も無いし、全部アルジャーノンに丸投げな所は変わんない訳だけどな。ど素人の俺は、黙っているのが一番なのだ。
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