281回目 バルタの悲願が叶う時
「お帰りなさいませ、旦那様」
「「お帰りなさいませ」」
「た、ただいま…………?」
転移の為の『拠点のポータル』を置いている部屋を出ると、メイド服を着こなした老婆と、その後ろに並ぶ若いメイド達や若い執事達にお出迎えされた。
なんかちょっと見ない間に、クランの拠点にいる使用人達の動きがメッチャ洗練されているな。ちょっとビビるんだけど?
一糸乱れぬ礼をして見せた若者達を率いるのは、カラーズカ侯爵家でメイド長をしている老婆、確か名前は『メラルダ女史』だ。
メラルダ女史は背筋をしっかりと伸ばしたまま俺達に近づくと、もう一度優雅に一礼をした。
「お久しぶりでございますガモン様。覚えておいでですか? カラーズカ侯爵家にお仕えしておりますメイドの、『メラルダ』でございます」
「え? あ、はい。覚えていますが…………。えっと、この屋敷で何を?」
「実は『フレンド・チャット』にて、ティアナお嬢様よりガモン様のクランにて使用人を育てる、と言う仕事を頂いたのです。ですので先日より、こちらでお世話になっております」
…………使用人を? …………そう言えば、出ている間にそんな内容のチャットに目を通した気がする。…………適当にスルーしてたな。
ちなみに使用人の事については、アレスの母であるアレマーが、たまたまクランハウスに遊びに来たターミナルス辺境伯の娘であるリメイアに相談した事で、あっという間に動き出したらしい。
元々使用人は雇っていたし、カラーズカ侯爵家からも応援は来ていたのだが、やはり他家の事とあって、使用人の采配や教育はアレマーが担当していた。
アレマーとて元は貴族なので、それなりに自信があったらしいのだが、やはり今は平民となっている身の上もあり、どこか遠慮が出て上手くいかなかったようなのだ。
そこで相談を受けたリメイアが『フレンド・チャット』を使ってティムに相談した結果、しばらくの間メラルダ女史を貸し出して貰える事になった訳だ。
まあ、それについてはアレマーに一任していたので俺に文句はない。いきなりメイドと執事が綺麗に並んでお出迎えされたので、少しビックリしただけだ。
「な、なるほど。…………よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願い致します。精一杯、務めさせて頂きます」
そしてメラルダ女史は戻って来た俺達の、と言うよりもバルタの為に部屋を一つ用意してくれていた。
メラルダ女史に促されてその部屋まで行くと、その部屋ではアレマーが、自分の子供であるアリアとアラムの姉弟と、白狐族の子供であるニッカとダッカの姉弟と共に、俺達を待っていた。
「お帰りなさい、ガモンさん。…………あら? 知らない子がいますね。エルフの子供…………かしら?」
「「おかえりなさい!!」」
「ただいま、アレマーさん。こちらはアルジャーノンと言って、新しく俺のフレンドになってくれた一人です」
「はじめまして、アルジャーノンです。エルフの子供ではなく、エルフとドワーフのハーフです。よろしくお願いしますね!」
「「エルフとドワーフ!!」」
やはりと言うか、子供達がアルジャーノンに食いついた。まぁ、見た目が自分達と同じくらいの子供で、しかもエルフとドワーフのハーフだなんて、食いつかない訳がないのだ。
あっと言う間に子供達に囲まれて、何処かへと連れて行かれるアルジャーノンを見送って、俺はバルタへと視線を移した。
メラルダ女史がいた事には驚いたが、メラルダ女史がこの部屋を用意してくれた事も、ここにアレマーがいた事も、俺が事前に頼んでいた事だ。バルタに、長年の悲願を叶えて貰う為に。
「バルタ。食事の準備も、風呂の準備も、体を休める準備も整っている。女の子の事だから、手助けにアレマーさんにも待機して貰っているし準備は万端だ。妹達の呪いを解いてやれよ」
「…………ありがとうごぜぇやす。お言葉に甘えますぜ!」
そう言うと、バルタは首に下げたネックレスを取り外し、その中から小さな石像を取り外した。そしてそれをカーペットの真ん中に寝かせると、ネックレスを破壊した。
バルタの妹達の石像が小さい状態だったのは、あのネックレスの効果だ。どんなアイテムでも小さくして運べる魔道具。ただし、大きさを変えられるのは一度だけで、元の大きさに戻すにはネックレスを破壊しなくてはいけない欠陥魔道具。
しかし、中に物が入っている状態では決して壊れないと言う性能もあったので、バルタにとっては一番必要な魔道具でもあった。
実に三十年ぶりに、元の大きさに戻った石像を見て、既にバルタの眼からは涙が溢れ出している。
溢れる涙を手で拭いながら、バルタは女神ヴァティーから貰った『解呪の秘宝』を石像の上に置いた。
すると、透明な鱗の形をした『解呪の秘宝』が揺らいで光の泡となり、石像全体を包み込んだ。
そして幾度かの明滅を繰り返すと、泡の中にある石像にビシリッ! とヒビが入り、それが石像全体へと広がって、ついに弾け飛んだ!!
「ああ…………! トレマ…………、イオス…………!!」
「…………う、うん? …………あれ?」
「えぇ? …………ここ、ダンジョンじゃない?」
弾け飛んだのは石像の表面部分であり、その後にはバルタの妹達であろう二人の少女が現れていた。
…………服が全部、石像の表面と共に弾け飛んでしまっていたので、俺は少し眼を逸らしたが、バルタは構わずに二人に抱きついた!!
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