274回目 始まりは『死』
俺のスキルでフレンドになれる条件は、俺が相手を人間と認識しているかどうかという、ガバガバ裁定だった。
いやまぁね、確かにドゥルクの事は幽霊だから人間とは認識していなかったし、獣人については俺の中では人間だ。
邪眼族は頭が蛇でダンジョンにいるからダンジョンモンスターと言う認識だし、ヴァティーの本体を人間とはとても認識出来ない。
そして、ホムンクルスに憑依したヴァティーは、どう見ても人間の少女である。
「…………マジか。俺がフレンドになれるかどうかを決めていた? いや確かにフレンドって、そういうもんかも知れないけど…………!」
ちょっとショックですよ? なんか、俺のエゴが見透かされるみたいで。
しかも、ヴァティーを人間と認識したまま部屋から出て、俺の知らない所でヴァティーが本体に戻ってみると、フレンド機能はそのまま使えたのだ。マジでガバガバ、いや都合がいいと言えば都合いいんだけどね?
「こいつぁもしかすると、アルジャーノンにドゥルク翁のホムンクルスでも作って貰えば、フレンド登録できるかも知れやせんぜ」
「うん、たぶん出来るよね。俺だもん、決めるの」
こうなったら、本気でドゥルク用のホムンクルスをお願いしよう。エルフとドワーフのハイブリッドであるアルジャーノンは、調合も錬金術も鍛冶も工作も何でも出来るとんでもない奴なのだ。
まあそれも、上位種族であるハイエルフやハイドワーフと同じくらいに、長過ぎる寿命を持つアルジャーノンの、長年に渡るたゆまぬ努力の結果なのだが。
『フゥム。しかしこうなると欲が出て来るのぅ。妾もお主らと一緒に転移できたら良いのだが…………』
「ダメですよ? それが出来ないのはよく知っているでしょう」
『ムゥゥ…………。そうなのだが、悔しいのぅ…………』
俺のフレンドとなった事で、更なる欲が出て来たものの、それを実現できないヴァティーが悔しがっている。
「そう言えば、なんでここから移動できないんですか? なんか、あの石みたいな物のせいとは聞いてますけど、呪いなら解く事が出来るし、病気とかならアルジャーノンが治せるんじゃ?」
『そうもいかんのよ。あれは妾の望郷の念が起こした不具合じゃからな。なんとかこのダンジョン内に故郷を再現して抑えてはいるが、アルジャーノンがおらねば、妾はとうにホームシックに駆られて『郷愁の禍津像』へと堕ちておるだろう』
「へぇ、神様がホームシック? ……………………『郷愁の禍津像』!!?? 今、『郷愁の禍津像』って言いましたか!?」
『…………言うたが? だって妾は、『神獣』としてここにやって来たしのぅ』
神獣!? え!? ちょっと待って、ヴァティーって異世界から来た女神じゃないの!? え? あのヴァティーの下半身の先が紫色に石化しているのって、『郷愁の禍津像』になりかけているからなの!?
「ちょっとその話、詳しく聞かせてもらっても良いですか!?」
『おぉぅ? か、構わんぞ…………?』
俺はヴァティーに掴み掛かる勢いで詰め寄り、ヴァティーから、それはもうとんでもない話を聞く事になった。
◇
その昔。それは、この世界がまだ無い程の昔。数々の世界が溢れる中で、一つの『死』が訪れた。
それが存在する以上、何においても『死』が存在する。どんなに大きく、何十億年と存在する星にですら『死』があるように、存在する物は、存在すると言う時点で『死』と結びついている。
そう、それは『神』であっても。
不老不死の存在であろうが、決して不滅ではない。この世に『有る』事は、必ず『消滅』を含むのだ。本当に不滅の存在は、不滅だからこそ存在出来ない。
コインには表の他に必ず裏が存在する。両面が表だと言い張っても、見えているコインの反対側は、必ず裏だと観測されるのだ。両面が裏だと言うのなら、必然的に反対側が表になるように。
だから、創造神に『死』が訪れたのは必然である。
世界の大部分を形成し、そのバランスを管理していた、あらゆる世界の神の頂点にも、滅びの時が訪れた。
それは世界の要を外すような、世界の栓を抜くような、世界の柱を壊すような、まさしく崩壊の波を世界に広げた。
もちろん『死』があれば『生』があるのも自明であり、新たな創造神もまた誕生したのだが、それでも世界の崩壊は止まらなかった。そして誕生したばかりの創造神に、それを止める力も無いのだ。
『妾はその時にはまだ存在しておらなんだが、とても大変だったと聞いておる。創造神様などは、神々すらも創造した正しく『原初』。そのような御方でも消滅するのだと、故にどのような事態が起きたとしても対処できる備えが必要だと、顕現したばかりの神は学ぶのよ』
創造神の消滅により、様々な世界が滅びを迎えた。無数に存在する世界から、一気に命が消えたのだ。このままでは、その世界が存在する次元ごと崩壊する可能性が高かった。
そうなれば今度は、低次元の世界が消えた余波で、高次元の世界が壊れ始める。
だからこそ、神々は無事な世界から、生物を移住させる計画を練った。
世界を渡る事の出来る、そしてそれに乗せた生物を管理できる『方舟』を何十隻、何百隻と造り上げ、それに多種多様な生物を乗せて、滅びかけている世界に向けて放ったのだ。
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