270回目 ホムンクルス
アルジャーノンをフレンドにして、ヴァティーの部屋に設置した☆4『大画面薄型テレビ』で動画配信サービスを使えるようにした。
☆4『大画面薄型テレビ』は、最初から電気屋で見るクソ高いテレビほどに大画面であるのだが、その仕様として画面の大きさを更にデカく出来るようになっていたので、最大までデカくしてある。
たぶんこれ、日本でこのデカさを買おうとしたら一千万とか普通に越えるんじゃなかろうか。だって縦の大きさがもう、俺よりデカイもの。
呆れるようなデカさのテレビを設置した後は、生活ガチャから出てくる別のアイテムや、書籍ガチャの本なんかを見せて説明する。
そして食品ガチャから出てくる酒やスイーツ、そしてラーメン屋なんかに行けるチケットの話をしたのだが…………。これらの物は、ヴァティーには合わない物ばかりな気がしてきた。
問題はやはり、ヴァティーの持つその体躯だ。アイテムにしても食品にしても、ヴァティーとのサイズ差がかネックになる。
ガチャアイテムは、ある程度までなら使用者に合わせて大きさが変化する、先ほど設置した☆4『大画面薄型テレビ』のような物もあるのだが、基本的には、ヴァティーの大きさには対応できていない。
まあそもそも、下半身が蛇でその先端側は石化していて動かない時点で、☆4『マッサージチェア』なんかは使えないのだが、それを抜きにしても、やはりその大きさはネックになる。
『ううむ、どれもこれも気になるが…………。この体ではやはり不便かの。アルジャーノン、妾の『ホムンクルス』を出してたもれ』
「はーい」
「…………ホムンクルス?」
「うおっ!? あれは…………!」
ヴァティーに言われて、アルジャーノンは自身の目の前に何やら白い空間を開いた。
そして、それを見たバルタが思わず声を上げてしまったそれは、『インフィニティ・ルーム』と言う、伝説にしか無いはずの古代魔法だと言う。
なぜそれをバルタが知っているのかと言うと、魔道具の『アイテムボックス』、あれを魔道具ではなく魔法として扱う空間魔法があり、その最上位である『インフィニティ・ルーム』は、出現する空間が『アイテムボックス』の黒ではなく、白いという伝説が残っているからだと言う。
「一度でも『アイテムボックス』の習得に挑んだ事のある者なら、必ず憧れる伝説の魔法ですぜ。まさか本当に使い手か存在するとは思いやせんでしたがね」
「おおーー、伝説の魔法か。ドゥルクは自分で霊獣を匿う異世界を作ったらしいけど、それとは違うのか?」
「どっちもバケモノでやすね。あっしらには到達出来ない境地ってヤツですぜ」
そんな会話をする俺達の視線の先では、アルジャーノンが白い空間に上半身を突っ込んで、なんと赤いドレスを着た少女を引っ張り出した。
そして、まるで死んでいるかの様にピクリとも動かない少女をヴァティーの前に横たえると、ヴァティーがゆっくりと体を伏せて眼を閉じ、それに呼応するかのように赤いドレスの少女が立ち上がった。
『憑依完了だの! この体ならば存分に楽しめるのう!』
体を軽く動かしながら口を開いた赤いドレスの少女は、完全にヴァティーだった。喋り方も性格もそのままである。
「…………えっと、アルジャーノン? 説明をお願い出来る?」
「はい! いいですよ!」
俺の問い掛けに、元気よく返事をしたアルジャーノンの説明によると、あの体は錬金術とかでよく聞く魔導生命体『ホムンクルス』であるらしく、アルジャーノンがデカイ上に自由に動く事も儘ならないヴァティーの為に作った物らしい。
あのホムンクルスの元は、ヴァティーの体の一部や体液らしく、出来上がったホムンクルスはヴァティー専用にカスタマイズされた、言わばヴァティーの分身とも言える物だ。
あとはその体に、ヴァティーが自分の精神を憑依させる事で、ヴァティーはホムンクルスの体で行動出来るようになる。
ただし、それでもこの部屋から出る事はできないらしい。本来ならばホムンクルスにそんな制限はないのだが、ヴァティーの尻尾の先を石化させているアレが、ヴァティーがここから離れるのを許さないそうだ。
…………いいかげん気になってきた。何なんだ、アレ?
『ガモンよ! これらは食してよいな! ほれアルジャーノンもこっちに来い! 食べるぞ!!』
「はいはい。じゃあ一緒に食べましょうか」
本当はヴァティーに色々と聞きたい所だが、大量のスイーツを前にしたヴァティーを止めるのは不可能だろう。
だってもう、アルジャーノンの手を引いて走っていったしな。
ヴァティーは、テーブルの上に並ぶ沢山のスイーツから、まずはシュークリームを手に取ってかぶりつき、顔をクリームまみれにしながら眼を輝かせている。
そしてアルジャーノンも、そんなヴァティーの顔を拭いてあげたりしながら、ミルクレープを一口食べて顔を綻ばせた。
なんか、一気に女子会みたいなフワフワした空間が出来上がったな。片方男だけど。
あまりにも華やかで、とても俺やバルタが混じれるような雰囲気ではない。片方男だけど。
取り敢えずヴァティーが満足するまでは放っておくしかないな。話を聞くのは後にしよう。
俺は自分達用にもテーブルと椅子を取り出し、甘々空間に対抗するように煎餅を取り出し、バルタと共に渋めの緑茶をすすった。
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