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268回目 遅れて来た少年

 やっと手に入れた『解呪の秘宝』を、バルタに渡そうとした時。それを遮るように、女神『ヴァティー』は口を開いた。



『そうそう、ひとつ忠告しておこうかの。せっかく貴重な逆鱗を渡したのに、呪いを解くのに失敗しては、妾としても面白くないからの』


「忠告、ですか?」


『ウム。そこなバルタが、さっそく『解呪の秘宝』を使おうとしておるからの。バルタよ、この場で使うのは止めておけ、せめてダンジョンから出てからにするがよい』


「な、何故!?」


『ここは『呪いの残滓』に溢れ過ぎておるからよ。通常であれば、そこらに漂う『呪いの残滓』など、健全な肉体が跳ね除けるため害はないが、そこに全ての柵が解け、真っ白な状態の体があれば『呪いの残滓』はそこに殺到する。栓が抜けた風呂桶のように、空いた穴に殺到するのよ。そうなれば、いくら弱々しい残滓と言えど、数が集まり強力な『呪い』となる。つまりは元の木阿弥となる訳よな。それでは、流石に妾も少し残念に思うからのぅ』


「うっ…………!」



 女神『ヴァティー』の言葉には、真実の重みがあった。おそらくバルタにもそれが良く解ったのだろう。悔しそうにしながらも、俺から受け取った『解呪の秘宝』を、マジックバッグへと仕舞い込んだ。


 取り敢えずはこれでバルタの悲願は叶うし、俺もバルタの『フレンドクエスト』をクリアした事になるだろう。


 このダンジョンに来た当初の目的は果たした。だが、当然ながらここで帰る訳にはいかない。


 だって目の前に『神様』が居るんだぞ? それもここではない別の世界から来た神様が。それに、気になるのはあの下半身だ。


 女神『ヴァティー』の蛇の下半身。人間で言うならば、その膝から下の部分。


 その部分は、石化している。全ての呪いを解く『解呪の秘宝』を持つにも関わらず石化している。これはとてもおかしい。


 まぁ、自分には使えないとかの制限が掛かっているだけかも知れないが。俺にはどうも紫色の石になっているあの部分が、『郷愁の禍津像』とダブって仕方がないのだ。



「…………あの、女神様。少し質問させて貰ってもいいですか?」


『ふふ、妾に何かを聞きたそうにしておったのには気づいておった。だが、『タダ』という訳にはいかないのぅ。それは、解っておるであろ?』


「対価が必要って事ですか? …………『金』じゃないですよね?」


『無論、金などではない。あっても使い道も無いしのぅ。…………妾が欲しいのは、お主のスキルから出るアイテムの数々よ』



 なるほど、目当てはガチャアイテムだったか。いや、ガチャアイテムを対価にするのは別にいいけども。逆にそんなんでいいのか? とすら思う。



「…………流石に☆5は譲れませんが、☆4までのアイテムなら、いいですよ?」


『ウム。それでよい。ではさっそく…………』


「待って下さいヴァティー!! それ、僕も混ぜて下さいよ!!」


『…………ようやっと来おったか。遅いぞ、アルジャーノン。と言うか、美味しい所だけ姿を現しおって! 変わらぬのお主は!』


「……………………え、誰?」



 いきなり部屋に入って来た金髪の美少年。女神『ヴァティー』が『アルジャーノン』と呼んだその少年は、俺とバルタの間を走り抜けて、女神のすぐ側まで行った。


 大きな体躯を持つ女神の側にいくと、その小ささが際立つ。長い金髪に透き通るような白い肌を持つ、美少年。ずいぶんと美しい少年だと思ったら、彼の耳は長く尖っていた。


 もしかして『エルフ』か? と、俺達が首を傾げていると、女神に促されたエルフの美少年がこちらを向いて、ペコリと頭を下げた。



「初めまして! 『勇者』ガモンくんに『影纏い』のバルタくんですよね? 僕の名前はアルジャーノン=メルディロッタ=パスフィミア=エルミウィットと言います。長いので、アルジャーノンと呼んで下さい!」


「あ、はい。よろしくお願いします」



 自分より遥かに年下に見える少年に、君づけで名前を呼ばれるのはいっそ新鮮だが、耳も尖っているし、この美少年が『エルフ』だとすれば、この見た目で俺達より遥かに長く生きている可能性もある。


 …………しかし『アルジャーノン』か。何と言うか、花束をあげたくなる名前だな。



「えっと、もしかしてアルジャーノンは…………エルフですか?」


『まあ、そう見えるであろうな。だが少しだけ違う。この者は妾の盟友よ。種族としてはエルフとドワーフの間に生まれたハーフであるな。こう見えて、このダンジョンが出来る前からの友人よの。ここでは研究者として働いておるぞ? ホレ、お前達も集めておったあのメダルを作ったのもアルジャーノンよ』



 ……………………え? エルフとドワーフのハーフ!? いやその前に、このダンジョンが出来る前からって!? いやいやいや、女神『ヴァティー』がここに居るのなんて、誰も知らなかった訳だから、それって何百年、ヘタしたら何千年も前の話じゃないの?


 あり得ないだろ!? この見た目で幾つだよコイツ!?



「あはは。僕は一応、これで大人なんですよ? ドワーフの血があるから背が小さくて、エルフの血があるから精神が見た目に引っ張られているだけで、ちゃんと大人です。年齢はまぁ、秘密ってことで…………」



 ええーー、じゃあなにか? このアルジャーノンは、もうずっとこの見た目で生きてきてるのか。


 なんか、凄いな…………。



「そ、そんなにじっと見られると、なんだか照れますね。ともかく、ガモンくんのスキルには僕も興味津々なので! 僕にもアイテムを見せて下さい!!」



 俺に駆け寄り、ズイッと顔を寄せて来るアルジャーノン。いや、近い近い。ここまでの美少年に近づかれると緊張するから、止めてもらいたいよ、ホント。


 俺は両手を握りしめて、眼をキラキラさせて顔を寄せて来るアルジャーノンを、腕を突っ張って引き離しながら、ガチャアイテムを見せる事を了承した。

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