267回目 女神『ヴァティー』
『まずはよくぞ妾の元へ来たな。人は妾や我が眷族どもの姿を怖れるでな、こうして人の姿も取ってみたが、何かおかしかったかの、二人とも怯えておったようだが?』
「い、いえ。…………『神様』という存在に会うのが初めてだったので、ちょっと驚いただけです。失礼しました」
『フム、なるほどのぅ。…………そう言えば遥か昔に共にいた人間共も、最初は妾に怯えておったのぅ。別に取って食いやせんかったのだがの』
首を傾げる女神『ヴァティー』だったが、俺からすれば「そりゃそうだろう」って話だ。姿もそうだし存在感もそうだが、全体的に圧が凄いのだ。
ちなみに女神『ヴァティー』の大きさは、俺の何十倍にもなる。かなりデカイ重機の前にでもいる気分だ。
と、その時。バルタが大きな声を上げながら女神の前に飛び出した。
「女神様! あっしはバルタといいやす!」
『…………知っておる。『影纏い』よな。貴様は幾度となくこのダンジョンに潜り、妾の眷族どもを殺したからのぅ。貴様が来る度に監視しておったわ』
監視! ひょっとして、安全地帯で度々感じていたあの視線か? そう言えば見ていたのは小さな蛇だったな…………。
『お主の望みも知っておるぞ。『解呪の秘宝』であろ? 決して解けない呪いによって石化させられておる妹達を助けたい…………だったかの』
「その通りでさぁ!! ぜひそれを! あっしに譲ってくだせぇ!!」
そう言ってバルタは、女神『ヴァティー』の前に這いつくばって土下座した。
だが、バルタの魂からの嘆願を聞いた女神の答えは、無情なものだった。
『ダメよな。貴様は妾の課した試練を解っておらん。貴様は何度目かの挑戦で、すでに妾の試練を失敗しておるのだ。今さら条件を満たした所で、貴様の望みは叶わぬ』
「なっ…………!?」
まさかの拒否。この最難関ダンジョンを攻略させておいての拒否。しかも『試練』とか『条件』とか、完全に初耳な事を女神は言い出した。
なんだよソレ? そんなのがあるなら先に言っとけよ!!
そんな風には思ったものの、まずは確認だ。その『試練』と『条件』。それを聞き出さない事には始まらない。
「え? …………あの、条件って何ですか? そんなのがあるんですか?」
『当然であろう。本来ダンジョンとは、そのダンジョンを管理維持するダンジョン・マスターを倒す事が目的となる。…………だが、妾を見てみよ。そんなことが可能だと思うか?』
「いや無理です」
俺は即答した。そりゃそうだろう、こんな見ただけで無理だと分かる相手と戦える訳がない。
『フフ、素直だの。だが正しい。人の身で神と戦うなぞ、絶対に無理よの。だからこそ、このような力を持ったダンジョンには『試練』が設定されておるのじゃ。ダンジョン・マスターに挑む代わりにのぅ』
「…………それって、もしかして邪眼族との戦いのことですか?」
『当然であろう。このダンジョンの階層を全て攻略する事が『試練』の前提よな。そして攻略の条件は『八体以上の邪眼族を殺さない』と言うものよ。まあ、八体も殺したなら、『邪鼠』どもの『呪い』を受けて生きては帰れぬのだがな。そして、この『八体以上』という条件は、二度目以降の挑戦にも引き継がれる。バルタ、貴様いったい妾の眷族を何体殺したか覚えておるか?』
「……………………!!」
『貴様は幾度となく妾のダンジョンに挑んだ。その愚直さと執念は称賛にも値するが、…………殺し過ぎじゃ。貴様が殺した眷族の数は全部で七十六体。これでは、とても我が試練をクリアしたとは認められぬわ!!』
女神に叱責され、バルタは悔しそうに床を掻き毟る。そしてバルタから、徐々に沸き上がるのは殺気。
「やめろバルタ!! それは絶対に無理なのは解るだろ!!」
「ぐうぅ…………!!」
『…………無様な殺気よの。だが、それが自分の悲願と仲間であるガモンを思う気持ちとの、せめぎ合いによる物と考えれば、むしろ好感が持てるものよ』
「ふぅぅ…………! ぐうぅぅ…………!!」
自分の中に沸き上がる殺意と必死に戦うバルタ。もしこれがバルタ一人であるなら、とっくに女神『ヴァティー』に飛び掛かって殺されているだろう。
『まぁ落ち着くが良い。確かに貴様は条件を満たさず、妾の試練に失敗したが。…………いるであろう? 妾の試練を潜り抜けた者が。一度も我が眷族と戦う事もなく、ここまで辿り着いた運の良い者が』
「……………………あ、俺?」
え? アリなの? いや、確か試練は『このダンジョンのクリア』だし、その条件は『邪眼族を累計八体以上、殺さない』って物らしいけど。
…………俺、本当に何もしてないよ?
『フフ、呆けておるのぅ。だが良いのじゃよそれで。ここまで条件を満たした上で辿りつけるのであれば、その方法は問うておらん。『勇者』ガモンよ。お主は間違いなく、妾の試練に打ち勝った。褒美として、これを授けよう』
そう言って女神『ヴァティー』は光の玉を飛ばし、俺はフヨフヨとこちらに来る光の玉を両手で受け止めた。
すると、その光の玉が俺の手の上で弾け飛び、中から矢尻のような形をした、透明感があり、しかし虹色にも輝く小さな鱗が一枚現れた。
「えっと、これは…………?」
『妾の逆鱗、その芯の部分。それが『解呪の秘宝』と呼ばれる物よ。それを使えば、バルタの妹どもに掛けられた呪いも全て解けるであろう。妾の試練を乗り越えた証として、持ち帰るがよい』
「……………………!!!!」
俺の手にある逆鱗を見て、女神の言葉を聞いて、バルタが声にならない声を上げて泣き崩れた。
バルタの悲願が、ついに叶う時が来たのだ。
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