264回目 ケトとの語らい
邪眼族は『大蛇八首』の忍者兄弟、『ザイ』と『バウ』。
バウが得意とする影魔法によって、身体能力を大幅に強化をされたザイの動きは、バルタの本気の動きにも引けを取らない物だった。
影の中に潜ったままのバウが攻撃に参加する事は無いようだが、ザイはバウに強化された身体能力だけでなく、自身の持つスキルも扱う事ができる。
ザイの能力は『焔魔法』。それを常時発動しているザイの身体は、常に焔がまとわりついており、ザイの意思によって蠢くそれは、バルタのナイフを逸らしたり視界を遮ったりと、中々の厄介さを見せつけていた。
この戦いは長くなる。二人の攻防を見て、俺はそう感じていた。
…………そんな中で、俺の隣にいる『ケト』だけは、おそらくは普段からそうなのか、聞いてもいない事を喋り続けていた。
『ザイの『焔魔法』は厄介だぞ? あれは実は本物の炎ではなく幻影の炎でな? 実は熱など持っていないのに、見る者には『熱源』だと思われるから触ってみると熱いのだ。まぁ催眠と一緒だな。バウの方は『影魔法』でザイの奴を強化している状態なのだが、身体能力を体が耐えられるギリギリまで上げる代わりに、自分は影から出られないという制限があるのだよ』
「…………へぇーー」
バルタとザイが戦闘中にも関わらず、大きな声で部下の能力をバラす『ケト』。俺も聞きながら、思わず「いや喋るなよ!?」とツッコミを入れそうになったが、なんとかガマンした。
喋らせておいた方が、バルタが有利になりそうだしな。だが、当然ながらそれを聞いたザイはキレた。
『おい! このアホ上司!! 何を部下の能力をペラペラ喋ってんだ!! 今、目の前で戦っているだろ! アホなのか!?』
『仕方あるまい。ワシらは一方的にバルタの力を知っとる上に、実質的二対一ではな。我らに有利過ぎるだろう? それに、ワシがここにいる事も足枷になってしまっている様子だしな』
そこまで言うと、ケトはおもむろに装備を外し、背中に背負っていた大きな槍と盾、そして腰に下げていた剣を地面に投げ落とした。
『バルタよ、この通りワシにはお主と戦う気もないし、この者に危害も加えぬ。ワシの目的はこの者がどういう『勇者』なのか見極める事よ』
「…………俺?」
『ウム。我らが主より、お主ら二人はすでに奥に通して良いと命じられておる。だがワシも側近として、何も見定めておらん者を奥に通す訳にもいかんのでな、こうして見極めに来たのよ。…………バルタ、そういう訳だから、こちらを気にする必要は無いぞ』
「…………バレてやしたか」
俺には分からなかったが、どうやらバルタは、ケトが俺の隣にいるという事が気になり、本気を出せずにいたらしい。
それは俺の安全…………という事だけではなく、このケトに奥の手を見せるのを嫌がったと言う事らしい。
だが今、バルタは腹を括った。
「…………決めやすぜ!!」
敵ながら最大の譲歩をして見せたケトを信用し、目の前にいる『ザイ』にだけ集中する事にしたのだ。
そして、そこからの勝負は、ほとんど一瞬で終わった。
バルタの存在感が急激に上がったかと思うと、バルタがいる場所とは全く違う所をザイが攻撃し、その隙をついて放たれたバルタの回し蹴りがザイの頭を打ち抜いたのだ。
「…………えっ!? 何だ今の?」
『ウゥム。自らの気配を最大限に高めた上で脱皮するかのように脱ぎ捨てて飛ばしたのだな。同時に、自身の気配は極力薄くする事で、飛んで来た強い気配にザイが騙された隙を突いたのだ。ザイは自らの焔を死角として利用された形だな。…………しかし、あんな事も出来るとは、流石だな』
今の一撃で気を失ったザイを、影から抜け出て来たバウが抱え上げた。
「お前さんはやらねぇんですかい?」
『…………(フルフル)』
どうやらザイが敗れた時点でバウに戦う気は無いらしく、首を横にふってバルタに二人分のレリーフメダルを投げてから、ザイを何処かへと連れて行った。
『ウム、見事だ。では、ワシも自分の役割を果たすとしようか』
「役割? …………うおっ!?」
役割を果たす、と口にしたケトが俺と向き合う。そして次の瞬間、俺は何もしてないのに、そして恐怖を感じている訳でも無いのに、自分の足が震えている事に気がついた。
その原因は圧力だ。目の前に立つケトから、協力な圧力が襲って来たのだ。しかし、敵意は感じない。例えるなら、自分の目の前に巨大だが敵意の無い象でもいる感じだろうか。
何もされないと解ってはいるのに、その圧力に屈しそうになる感覚だ。
「何をしてんですかい…………?」
『そう気を張るな。言っただろう、『見極める』だけだ』
ケトが放つ強い気配に、バルタの声には殺気が混じったが、ケトはそれを何でもない事のように受け流した。
…………いやぁ解る。このケトと言うおっさん、『大蛇八首』の中でも別格の強さだ。それこそ、ともすればバルタですら負けそうな、そんな気配だ。
『『勇者』よ、ワシがするのは一つの質問だ。簡単な質問ではあるが、我が主より託された質問である。覚悟をもって答えよ。よいな?』
「……………………はい」
返事に迷い、返事をした後で後悔もした。正直に言うなら『答えたくない』。なぜそう感じたのかは解らないが、多分これ、引き返せなくなるヤツだと、俺は理解していた。
『お主に、この世界を救う気はあるか?』
…………それは本当に、シンプルで重い質問だった。
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