26回目 緊急クエストの理由
「オークキングにフォレストウルフか…………。オークキングが進化した直後なら、倒す分には問題ない。むしろ、今すぐ倒さないと大変な事になる」
「そうですぜ。オークキングってやつは、自らが生み出した眷族を増やせば増やす程に強くなりやすからね。特殊進化して間もないと分かっているってのは、千載一遇ですぜ」
「二人で話してないで、どういう事か説明して貰えるか?」
ティムとバルタが訳知り顔で頷き合っているが、俺はモンスターの事についてはサッパリなので、説明を求めた。
「わかりやした。あっしが説明しやしょう」
オークの最終進化先『オークキング』。名前の通りオークの最上位に位置しているコイツは、本来は突然変異で誕生する、生まれながらの『王』なのだと言う。
その力は個人の物ではなく全体の物であり、オークキングが生まれた瞬間にその両親は『オークマジシャン』と『オークプリースト』に、同時に生まれた兄弟達も『オークジェネラル』となり、親族にあたる者達は『オークナイト』に進化する。
そしてオークキング自体は、その配下の強さに比例して強くなるという特徴があるそうだ。
つまり、本来であれば生まれた瞬間に強力な『王国』が出来るのだ。これはとても危険であり、冒険者ギルドではオークキングが率いる群れの討伐は複数の冒険者パーティーを集めて行うレイドクエストとして取り扱われる程だ。
決して倒せない訳ではない。レイドクエストに上位の冒険者パーティーが二つも参加してくれれば、それなりに余裕をもって倒せる相手である。
ただでさえ数が少なく、力を持ち名前が売れていて忙しい上位の冒険者パーティーが参加してくれれば、だが。
「って事は今回はどうなるんだ? あの緊急クエストのテキストを信じるなら、今回のオークキングは突然変異じゃなく、ダンジョンコアを破壊するとかいう偶発的なもので進化したやつなんだろ?」
「まあ発見が早ければ倒すのは楽ですぜ。ダンジョンコアの破壊による進化は極稀にあることですが、その場合はオークキングの配下はすぐには誕生せず、次の世代に受け継がれやす。なので端的に言やぁ弱いですぜ」
「でも今回の場合は『フォレストウルフ』までいる。フォレストウルフは、危険度で言えばオークよりも上なんだ。本来であれば、オークを補食する側の立場なのさ」
「なんで捕食者のフォレストウルフが被捕食者のオークに従っているんだよ、おかしいだろそれ」
「それはオークとフォレストウルフの間に特殊な契約が結ばれているからですぜ。上位になったオークが率いる群れでは、稀にある事でさぁ」
この『特殊な契約』とは、胸くそ悪い事に、仲間の死体や力の弱い子供の一部をフォレストウルフに餌として献上する契約を指すそうだ。
フォレストウルフとしては、一番喰いたいのは上位のオークであり、その死を虎視眈々と狙いつつ、近くで仕事をして餌を貰う。
オークは上位種の命を担保に、弱い仲間を差し出してフォレストウルフに狩りを手伝って貰い、その中でフォレストウルフにも負けない力をつけていく訳だ。
「オークキングは進化したてでまだ弱い。それでもフォレストウルフからすればオークの最上位種な訳だから餌としては最高だ。きっとフォレストウルフ側にも上位種がいるだろうね」
「そうなると難易度は跳ね上がりますぜ。何も情報が無い中で端から見れば、最上位種のオークキングとフォレストウルフの群れの組み合わせだ。この辺りの冒険者ギルドでは、対処不可能って結論になるのは目に見えてやすね」
「おい何だよ。冒険者ギルドに言えば終わるって話じゃなかったか?」
「ええ、レイドクエストを開けるほどの冒険者パーティーが揃うならば、可能ですぜ。しかし、そう簡単には揃いやせん。上位の冒険者パーティーなんて、小さな冒険者ギルドには居ませんぜ」
「じゃあどうなるんだよ?」
「そういう時の為の軍隊さ。ことがオークキングとフォレストウルフの群れなら、間違いなく軍隊の出番になる。僕達の危惧している事が、まさにそこだよ」
「……………………?」
「簡単に説明しやすとね、この辺りはジョルダン王国でも端の方なんでさぁ」
まあそりゃそうか。テルゲン王国とジョルダン王国との国境を越えたのはつい先日の事だからな。
「国境沿いだけあって、この辺りにも軍隊はいやすが、それでも準備に時間も掛かれば、移動にも時間は掛かりやすからね。となれば、魔物による被害を最小限に留めたい冒険者ギルドが頼る先は、ここから一番近い『砦』でさぁ」
「それって…………!?」
「そう、国境にある砦さ。もしそうなればテルゲン王国側にも話が伝わり、民を救うという大義名分を持って『疾風』の『ルフォマール将軍』が出てくる。しかもその背後にいるのは、『コゼンコゼ辺境伯』だ。まず間違いなく、侵略する為の軍も合わせて送って来るだろうね」
「そうなればオークキングどもを殲滅しても、すぐに戦争ですぜ。政敵であるカラーズカ侯爵と繋がりの深いジョルダン王国から領地をぶん取れば、コゼンコゼ辺境伯の評価は上がり、カラーズカ侯爵の評価は下がった上に力を削げる。全力で戦争を吹っ掛けに来ますぜ」
「そうなったら、この場にいる僕もただではすまない。当然、ガモンにとってもね。それにガモンを逃がした事がバレて、カラーズカ侯爵家自体が取り潰される可能性もある」
「……………………マジかよ。洒落にならねぇ」
なんでこれが『緊急クエスト』なのか、その理由が解った気がする。これは滅びそうな村を救うクエストじゃない。それに巻き込まれて破滅に向かう俺自身を救うクエストなのだ。
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