251回目 研究施設
廃墟となった街は、もうそれ自体がダンジョンと化していた。ダンジョンマスターとなっていたのは廃墟の街の『代官屋敷』であり、その体内に入ってダンジョン・コアを破壊した俺達は、ダンジョン化していた廃墟の街そのものから弾き出された。
人が居なくなり、モンスターによって荒らされて最後はダンジョンにまでなっていた街は、今や瓦礫が広がるだけの場所となっていた。
「結局、ダンジョン・コアのあった所に出て来た、もう一つのダンジョン・コアは何だったんだろうな? ダンジョン・コアを取り込んだのにあの鎧オーガは弱かったし、最終的にコアを破壊しても、何も出て来なかったぞ。普通のヤツとは全然違うだろ」
「ええ、あっしも色々考えてんですけど、サッパリでさぁ。ただ、もしかしたらこれの中に答えがあるかも知れませんぜ」
そう言ってバルタが出したのは一冊の本だ。厚いハードカバーの緑色の本で、タイトルは無い。しかし、その装飾は銀で豪華にされている本だ。
「…………屋敷のダンジョン・コアから出て来た本か」
「ええ。コイツは魔力が無いんで魔道書でも魔道具でもありやせん。たまに出て来るんですがね、こういうのには大抵、ダンジョンやその場に関係する情報が載ってるもんでさぁ。それも、あっしらの知りたい情報がね」
「…………そんな都合のいい物が出て来るのっておかしくないか?」
「そうでも無いですぜ、ダンジョン・コアを破壊して出て来るアイテムってのは、ダンジョンマスターやそれと戦っている者の影響を受けやすいんで。ダンジョンマスターに関係する事で、それについて強く知りたい、と考えている時にしか出て来やせんけどね。今回はまぁ、あの部屋とあのダンジョン・コアがありやしたからね、出て来ると思ってやしたぜ」
ダンジョン・コアとは、元から周囲に影響されやすい。それはダンジョン・コアがマスターとなった者の特性でもって周囲に影響を与えてダンジョンを作り出す物だからだ。
周囲に影響を与えるものは自身も影響されやすい。そういう事らしい。
俺達は瓦礫と化した街だった物のそばに『コンテナハウス』を出して一泊する事にした。まだ日が暮れるには時間があるが、バルタも本を読み解くと言ったためだ。
◇
そして本に書かれていた情報を整理して、俺達は深い溜め息を吐いた。
「…………これ、本当だと思うか?」
「…………こうして『本』として現れた以上、少なくともあの『代官の屋敷』にとっては真実ですぜ。まあ少なくとも、あの『ダンジョン・コアらしき物』が、本物ではなくて屋敷の記憶が作り出した『幻影』だったと解ったのは良かったですぜ。あっしの中の常識ってやつが揺らいでたんでね…………」
「記憶の中にあった、偽物のダンジョン・コアか。本物じゃなかったなら、あれを取り込んだ上に合体していた鎧オーガが、あんなに弱かったのも納得だな。見た目だけで中身がスカスカなら、そりゃ弱いだろうさ」
ダンジョン・コアが出した本を読み解くと、あの屋敷にあった地下施設は、『ダンジョン・コア』を人工的に造り出すための施設だったようだ。
その施設の本物はすでに消失しており、あれはダンジョンマスターと化した『代官の屋敷』の記憶に過ぎない場所だったようだが、確かに存在した研究施設だったらしい。
ダンジョン・コアを人工的に造り出すなどと言う、頭のイカレた研究を元々始めたのは昔にいた『勇者』の一人だ。
影の存在でしかない、決して倒せない『魔王』を封印ではなく、討伐しようとしたその時代の勇者が、人工的に造り出したダンジョン・コアと魔王を融合させて、ダンジョンマスターとして討伐しようと考えて組み上げたのが、あの研究施設だった訳だ。
言わずもがなだが、その目論見は失敗している。勇者は研究を止め、施設は封印された。
だが、その勇者の子孫である者が研究を再開させる。
その子孫と言うのが、現在のテルゲン王国の国王である『バウワウニー=ヌヌメルメ三世』。俺がこの世界に召喚された時に玉座でふんぞり反っていたブルドックである。
国王からの命令を受けた研究者達は、かつての勇者の遺物に試行錯誤をしながら手を加えていく。
その手段は凄惨を極め、人や魔物の命を吸い上げて『ダンジョン・コア』を精製すると言う、悪魔の手段を用いて形となった。
だが、そうして何とか形にはなった研究だったが、それは彼らの想定を越えて暴走した。自分達の手に余る物を造ったのだから、当然と言えば当然の結果だ。
それが果たして、かつての勇者が危惧した事態だったのか、あるいはそれすらも越えた事態だったのかは解らないが、事もあろうに暴走した研究所は、近くに封印されていた『魔王』の意識と繋がった。
…………結果として、魔王は自らの力と瘴気を合わせて『ダンジョン・コア』を作り出して力を吸収し、封印をその力で打ち破って復活。だがこれは、すぐに再封印に成功し、事なきを得た。
問題は、どういう繋がりがあるのか解らないが、封印されている全ての魔王が、『ダンジョン・コア』の作り方を学んでしまった事である。
「……………………これ有り得るのか? 封印されている全ての魔王が、この一件でダンジョン・コアを作れるようになったとか」
「…………詳しくはあっしにも解りやせんが、…………ドゥルク翁なら解るかも知れやせんね。ただ、旦那と旅している時にダンジョン・コアで暴走したモンスターと戦ったじゃねぇですか。あれから調べてみたら、ここ数年でダンジョン・コアを元とする被害が爆発的に増えてるのは、確かでしたぜ」
…………世界を救う難易度が、更に上がった。
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