249回目 研究所
逃げ出した『代官の動く甲冑』を追い掛ける。
代官の逃げる先に、俺達を近づけたくない何かがあるのか、俺達の行く手を遮るようにモンスターも出て来るが、武器を☆4『竜爪の短剣(+4)』に持ち変えて本気モードになったバルタを止められる者はいない。
俺達はすでに『郷愁の禍津像』は手に入れたからな。もうこのダンジョンにも街にも用は無いのだ。後はダンジョンマスターを倒すだけだとなれば、バルタも出し惜しみする理由がない。
スキルの検証も俺との連携の訓練も、すでに形になっているからな。
『ヒィッ!? な、何故あんな化物がこの街に来るのだ!?』
…………いや、流石にモンスターに化物呼ばわりされるのはバルタが可哀想だ。そんな事を思いながら俺の前を走るバルタに眼を向ける。
「邪魔ですぜ!! 道を開けなせぇ!!」
『ゲギャッ!?』
『!!??』
出て来るモンスターに、バルタが竜爪の短剣を振るうと、光で出来た四本の爪がモンスターを細切れにしていく。それが何のモンスターであれ、バルタの前に出て来た瞬間に屠られていくので、もう戦いにもなっていない。
うん。化物ってのも否定出来ないな、コレじゃ。
『ヒイィィ………!? ついて来るなぁっ!』
バルタの一撃が、逃げ惑う『代官の動く甲冑』の横を掠めて通り過ぎる。
当てないのは当然ながら、わざとだ。バルタは代官の動く甲冑を追い込んでいる。最初はもちろん倒してしまうつもりだったと思うが、今は違う。
どうも、ダンジョンマスターであるこの屋敷自体が、俺達を何処からか離れさせようとしている節があるので、その『隠したい何か』に案内させるために追い込んでいるのだ。
…………そして、バルタに追い詰められた『代官の動く甲冑』は、とうとう隠し部屋の扉を開いた。
それは、一番大きな部屋からつながる地下にあった。
まず大きな部屋の壁が開き、その奥にある階段を降りる。そしてその先にある一本道を進むと、その先にはかなり広大で、この世界には似つかわしくない、近未来的な部屋が存在していた。
「…………おいおい、何だよコレ」
「…………いや、あっしも初めて見ましたぜ…………。こりゃどっちかって言うと、旦那の領分じゃねぇですかい?」
バルタが言う事はもっともだった。
俺達の前に広がっているのは、一言で表すならば『研究所』。それも、現実ではありえない様な、映画や漫画で見るようなマッドな研究所だ。
薄暗い部屋に、この世界には似つかわしくない機械が溢れ、部屋の左右にはぼんやりと光るガラスの水槽が並ぶ。
その水槽の、左側にならぶヤツにはミイラ化した人間が入っており、右側に並ぶ水槽には様々なモンスターが、やはり干からびたような様子で入っている。
そして、その全ての水槽から伸びる管は正面の奥に向かっており、そこには、まるで爆発でも起きたかの様な残骸があって、その上には虹色の光が蠢いていた。
…………何となく興味を引かれ、俺がその虹色の光に近づこうとすると、バルタが大声を出して俺を引き止めた。
「旦那! それ以上はダメでさぁ!!」
「!? な、何だよ、バルタ…………!」
「…………まだ完成してねぇ様ですが、ありゃあ『ダンジョン・コア』ですぜ…………!」
「は? …………あれが、このダンジョンの『ダンジョン・コア』だって事か?」
なら、アレを破壊すれば終わりだなと、俺は思ったのだが、バルタの言葉はそういう意味では無かったらしい。
あれはこのダンジョンのコアとは別の、このダンジョンの中で新たに造られている、未完成の『ダンジョン・コア』…………に見える。そういう事らしい。
「未完成のダンジョン・コアに見える、ってのはどういう意味だよ、バルタ。ここはもうダンジョンだろ、ダンジョンの中に新しいダンジョン・コアがあるって事か?」
「ええ、だから異常なんですぜ。あっしもこんなのは聞いた事がねぇ。そもそも、この場所が意味わからねぇ…………」
『ヒィッ!? な、なんだ貴様!? ワ、ワシに逆ら…………!? ヒイィィィーーーーッ!!??』
突然声が聞こえたかと思うと、隠れていたのか『代官の動く甲冑』が未完成のダンジョン・コアの奥に転がり出て来た。そして、その後ろには眼を紅く輝かせるオーガが立っていた。
地面に倒れ、後ずさる『代官の動く甲冑』をそのオーガは太い腕で捕まえると、もう片方の手で未完成のダンジョン・コアを握り潰した!
その瞬間、未完成のダンジョン・コアはオーガと『代官の動く甲冑』を飲み込み、空間ごと歪ませて渦巻き始めた。
そして一瞬の閃光を放つと、そこには代官の鎧を纏い、四本腕になったオーガが立っていた。
「そんなバカな!? すでにダンジョンマスターのいるダンジョンの中で、新たなダンジョンマスターが生まれやしたぜ!? 意味がわからねぇ!?」
叫ぶバルタと、ダンジョンマスターである代官の屋敷の中で、新たに生まれたダンジョンマスター。そして俺は、新たに生まれたダンジョンマスターの奥の壁に、とんでもない存在感を出す『ダンジョン・コア』が埋め込めれているのを見つけた。
「…………おいバルタ、あの奥の壁に埋まってるヤツって…………」
「…………ダンジョン・コアですぜ。アレが、このダンジョンの本来のコアでしょうね。…………チッ! 訳分かんねぇが丁度良い! とっとと破壊しやすぜ! 旦那!!」
「おう!!」
俺達が戦闘態勢を取るとほぼ同時に、部屋の壁や床からは機械のコードやホースを束ねた様な触手が出現した!
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