241回目 人の良い山賊
「あの、食料の対価に首とかはいらないんで、欲しい物があるんですけど…………」
「「「あぁんっ!?」」」
首を渡す渡さないで掴み合いの喧嘩をしているラグラフ達に話し掛けると、三人は掴み合ったままでコチラを睨み付けた。
いやもう王様に見えないんだけど。元々見えなかったけど。
「ほら、親分の首なんていらないって言ってますよ」
「チッ! …………で? 何が欲しいんだ。言っとくが宝物はほとんど残ってねぇぞ。来る商人、来る商人、どいつも足元を見やがって吹っ掛けやがったからな」
「俺達が欲しいのは、『郷愁の禍津像』ってアイテムです。残ってませんかね?」
…………まあ、三つあるのはもう解っているんだけどな。ここは交渉の席だ、切り札はここぞと言う時まで取っておこう。
「…………『郷愁の禍津像』? あったか、そんなの?」
「…………うーーん。あ、あれじゃねぇですか? なんかホラ、やたらと気持ち悪い像があったじゃねぇですか。呪われそうだとか言ってたヤツ」
「…………おーー、あったな。何個かあるよな、確か」
「三つでしたかね」
「じゃあ全部持って来い。…………おい、これだけでいいのか? 俺達としちゃあ冬が越せるだけの食料が欲しいし、出来れば薬も分けてほしいんだ。…………やっぱ首を持ってくか?」
「それは要りません」
…………全然、躊躇う様子も勿体ぶる様子もない。そもそも交渉する気が無いみたいなんだけど。見た目に反してバカ正直過ぎないか、この王様。って言うか、何でそんなに自分の首を渡そうとしてくるんだよ。
そして実際に、俺達の前には三つの『郷愁の禍津像』が並んだ。鑑定してみると、『ヘビトカゲ』『ブルーギル』『ヤク』と名前が判明した。
いや、ヒョロ長い『ヘビトカゲ』と牛っぽい『ヤク』は良いとして、『ブルーギル』ってこれ、魚じゃん。魚もアリなの?
しかし、魚の苦悶の表情ってのは初めて見たな。無表情にも見えるが何だか苦し気にも見える。魚に表情があるなんて知らなかったな。
「それで、これらを対価として受け取っていいんですか?」
「そりゃ勿論いいが、本当にそれだけでいいのか? 俺達が欲しいのは冬を越せるだけの食料だぞ。今持ってねぇなら、また持って来てもらう事になるんだぞ?」
「それは大丈夫ですよ」
俺はそう答えると、取り敢えずこの場に麦や米の詰まった袋を積んで見せた。
実は☆5のクラッシュレアが出た後、今ならもっと出そうな気がする!! とか言って白金板一枚分もガチャを回しているのだ。
結局☆5は出なかったが、様々なアイテムが手に入った。食料も、もはや溢れんばかりにスキル倉庫に入っているのだ。食品ガチャは一回銀貨一枚だからな。調子に乗って多く回し過ぎた。
「この通り、必要なだけ置いていきますよ。この国の人達の状況も見ちゃったし、何より『郷愁の禍津像』が三つも手に入るなら悪くない取り引きですよ」
「お、おお…………、そうか。何にしろ感謝するぜ。取り敢えずはこれで、冬を越える事が出来そうだ。足りねぇモンだらけだがな!」
俺は出した食糧を一度スキル倉庫に仕舞い、食料を溜めている倉庫へとやって来た。
「…………カラッポじゃねぇか」
案内された倉庫の中には何も無かった。いや、誇張とかではなく本当に何も無かった。食料を積む棚すら無いのは本当にどういう事なのかと聞くと、燃料も尽きそうだったので木炭にしてしまったらしい。これも冬に向けての備えと言う事なのだろう。
「一応、誤解の無いように言っておきますが、ここは第一倉庫で、ここ以外にも倉庫は二つあります。第三倉庫の方は、まだ少しは残ってますよ」
「それって三つある内の二つはカラッポって事でやすよね? …………ダメじゃねぇですか」
ラグラフの部下が言った事にバルタが感想を述べた。俺も同感だ。ダメじゃん。
この様子だと、おそらくまだ食料が残っている第三倉庫からも、ちょいちょい食料を持ち出しているのだろう。尽きるのも時間の問題。そりゃラグラフも国民も必死になる訳である。
「取り敢えず、ここは食料で埋めるか。棚も出すんで、人手を集めて貰えますか?」
「た、棚も? は、はい! わかりました!」
ラグラフの部下が声をかけて多くの人が集まった。兵士に限らず、この要塞で暮らす人達だ。むしろ兵士達はこの要塞を護る役目があるから住民が多く、その中には子供達の姿もあった。
さて、まずは棚の設置と思ったが、こんな食糧庫に置く用の棚なんて流石に生活ガチャにも無い。だが、それを作れる材料はいっぱいあったので、人手もある事だし自分達で作ってもらう事にした。
木の板やら角材に釘やネジを出し、電動ドリルの使い方を説明する。俺が電動ドリルや電動ノコギリを使う度に沸き上がる歓声。現代道具無双、ちょっとこれ気分が良い。ダメな人になりそうだ。
ただまぁ、実際に使わせると大工仕事をしている人の方が手際が良い訳で。俺の伸びた鼻はすぐに元へと戻っていった。…………若干ヘコんだかも知れない。
そうして次々と完成する棚を設置して、俺が出していく食糧を積んでいくと、大体半日くらいで第一倉庫はいっぱいになった。
俺が与えた駄菓子を振り上げて歓声を上げる子供達が微笑ましかったよ。
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