238回目 ランブルでドライブ
タミナルの街から南東に車を走らせる。かろうじて『道』と呼べなくもない、と言う程度の獣道も、俺の『ランブルクルーザー』はものともしない。
それに『ランブルクルーザー』に付いているカーナビは道なき道ですらもナビゲートしてくれるし、スキル倉庫に入れている状態だと車体の色を変えられるのだが、ガチャから出るパーツを所持しているならば、なんとリフトアップすら出来る事がわかっている。
頼れる相棒、それが『ランブルクルーザー』。コイツとなら、どんな所にも行けそうだ。
「そろそろ、元・ガンガルド王国に入りやすぜ。今は…………確か『ラグラフ王国』とか名乗っている国が領土を主張していた筈でやすね。まあ、山賊だかが混乱に乗じてクーデターを起こして、領主を殺して乗っ取ったと言うろくでもねぇ国だった筈です」
「関わりたく無い国だな。早く抜けちゃおう」
そんな事を言いながら『ランブルクルーザー』を走らせると、獣道が終り一面の草原となった。
膝丈以上に伸びた草が地面を覆っていて、何かが潜んでいても分からないような感じだ。
「いきなり道が途切れたな。それにこれはちょっと危ないかな。地面が見えないし、何よりこのナビを見ると、ここいら一帯はモンスターだらけだ。…………何だよこの量は? 画面が真っ赤で何も見えないんだけど…………」
「ああ、これが先に言っといた『小石ですらゴーレムに』ってヤツでさぁ。ちょいと追い払いやすぜ」
そう言いながら車を降りたバルタは草原の前に立ち、物凄い威圧感と共に殺気を振り撒いた。
それは仲間である俺ですらも身をすくませる程の物で、その殺気にあてられた『草原』はズザザッ! と音をさせて左右に大きく割れた。
…………よく見ると、背丈の高い草が根っこを蜘蛛の足の様に動かして歩いている。そして自分達を隠す草原が無くなった事で姿が丸見えになった小型モンスター達も、慌てて逃げた草原の中へと駆け込んでいった。
「終りやしたぜ。これでしばらくは大丈夫でさぁ」
何事も無かったかのように助手席に乗り込んで来るバルタ。
いやいやいやいや、あれが全部モンスターだったの? そりゃナビの画面が真っ赤で見えなくなる筈だよ。草が全部モンスターだったんだもの。
「どうしやした旦那? 出さねぇんですかい?」
「お、おう。行くか」
まぁ何にしても道は開かれたので、俺は先に進む事にした。そしてこの手順はそれからも何度か行われ、バルタの殺気にモンスターが遠巻きにする中で、俺は車を走らせた。…………何だこの状況?
だが、モンスターすらも遠巻きに見る俺達の前に、わざわざ出てくる奴等もいる。
「おう! 止まれやぁっ!!」
「ずいぶん変わった馬車? に乗ってんなぁ! 食いもん持ってんだろ! 置いてけやぁ!!」
「食いもんと薬だけ置いていきゃいいからよぉっ! えっと…………通行税ってやつだ! どっちも半分、いや薬は全部置いてけやぁっ!!」
わらわらと集まって来る、何か顔を変にしかめた男達。武器を普通に持ってる奴もいるが少数派で、大体はクワとかスコップとかを持っている。
「…………なんだこれ?」
「…………一応は山賊ですかね。やけに悲壮感がただよってやすが…………」
運転する俺が言うのも何だが、『ランブルクルーザー』は見た目ゴツいのでかなり威圧感がある。それが結構なスピードで走っていたのに、コイツらよく出て来たなと感心する一方、出て来た奴らがなんだかゲッソリしているので、本当に悲壮感がある。
しかもコイツらが出て来た林の中には、数人だが子供達の姿もあるのが気になる。子供達の数人は手に獲物や籠を持っているので、食料を探していた事がうかがえるな。
…………食料探しをしていた所に俺達が来たから、襲いに出て来たのか? 大人しく食料を探していればいいのに、なんでわざわざそんな事を?
「…………明らかに慣れていやせんね。あの顔も、無理して怖く見せようとしている様ですぜ?」
「…………ちょっと聞いてみるか。なんか、山賊として出て来たみたいだけど、悪い人達に見えないんだよな…………」
「ならあっしが行きやすぜ。ちょいと待ってて下せぇ」
ランブルクルーザーのドアを開けてバルタが外に出る。それだけで俺達を囲んでいる男達に動揺が走った。
ああ、これ本当に山賊じゃないな。その真似事だわ。
バルタが自然体で男達に近づいて行く。まあバルタなら、例え男達が一斉に襲い掛かって来たとしても瞬時に倒せるだろう。
そして男達の中から、冒険者に見える若い男が出て来た。妙に恐縮している姿から察するに、バルタを知っている冒険者のようだ。
山賊行為をしようとした相手が『影纏い』のバルタだと知ったあの冒険者の心中はえらい事になっているだろう。めっちゃ冷や汗かいてるし。
しばらくの間、二人の会話が続く。何を話しているのかは聞こえないが、バルタに対して、既に武器を下におろしている山賊もどき達が何かを訴え続け、バルタが困った様子で戻って来てドアを開けた。
「それで、何だって?」
「あーーっとですね。…………旦那、アイツらに食料と薬を出してやってくれねぇですかね? どうも、国ごと死にかけてるみたいなんでさぁ…………」
どうやら俺達は、とんでもなく厄介な事に巻き込まれたらしい。
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