23回目 フレンド・チャット
「旦那、さっそくお願いしやす!」
「ああ、わかったよ」
俺はバルタに催促されて、ひのきの棒(+1)に三本のひのきの棒を合成し、『ひのきの棒(+4)』を作った。そしてその能力値をスキルで見てみると、予想通り熟練度の上限は100になっており、その攻撃力は15にもなっていた。当初の三倍である。
ちなみに俺がいま装備している『銅の剣』の攻撃力は8なので、倍近い性能だ。木の棒なのにな。
ついでに付け加えるとティムに持ってかれた☆4武器『氷魔弾の弓』の攻撃力は23ですよドチクショウ。俺のスキルから出てきた武器なのに、俺が持ってるのが一番下とは。…………この世は理不尽である。
さて、ひのきの棒の話に戻るが、熟練度をまだ上げていないので、スキルがどう変化するのかは分からない。しかし、バルタがひのきの棒を握りしめてやる気になっているから、熟練度はすぐに溜まるに違いない。
「若様! まことに勝手ながら、しばらく時間を頂きやす!!」
「うん、解ってるよ。あの森に行って来るんでしょ? 一人で大丈夫かい?」
「この辺りの魔物なら、何百体いたとしても問題ありやせん。サクッと百体ほど狩って来まさぁ!」
「じゃあ、僕達はここで待ってるよ」
「あっ! ちょっと待った!」
意気込むバルタを見送る展開だったのだが、俺は離れていても連絡を取る手段を思い出して、ついでに試す事にした。
そう、せっかくバルタともフレンドになり、俺達から見えない所に行くと言うのでフレンドに付いているチャット機能を試してみようと考えたのだ。
「何かありやしたか? 旦那」
「バルタ、『フレンド・チャット』を開いてみてくれよ」
「はい? なんですかい、その『ふれんどちゃっと』っての…………うおっ!?」
俺の言った事を繰り返したバルタが、一瞬ビクリと震えた。バルタが何に驚いたのかは見えないが、おそらくは俺の目の前に現れたウインドウと同じ物が出て来たのだろう。
「な、なんですかい、こりゃあ…………」
「え? 何かあるのかい?」
「ティムも出してみれば解るよ。『フレンド・チャット』だ」
「『フレンド・チャット』…………うわっ!?」
どうやらティムの前にも同じ画面が現れたらしい。俺はササッと画面を見ながら操作して二人と繋がり、簡単な挨拶文を送ってみた。
◇ガモン
《フレンド・チャットにようこそ! 下のタッチパネルを使えば、こうして文章が送れるぞ!》
「文字が流れた? もしかしてコイツぁ、手紙みてぇなもんですか?」
「手紙…………? 文章のやりとりがコレで出来るって事か? ガモン。タッチパネルって、この下のヤツ?」
「普通に聞くなよティム。せっかくチャットを開いているんだから、質問はチャットでな」
「そ、そうか。えっと…………」
◇ティム
《こうかな?》
◇ガモン
《そうそう。そういう事だ》
◇バルタ
《なるほど。コイツは便利ですね》
◇ガモン
《たぶん距離も関係ない筈だし、離れている時はこれで連絡をとろう》
◇バルタ
《それはいいんですが、戦闘中にこの画面が出るのは流石に危ないですぜ。半透明とはいえ、視界を持ってかれますから》
なるほど、そりゃ確かにバルタの言う通りだった。
俺達は一度フレンド・チャットを解除し、色々と試してみた。その結果、フレンド・チャットを開いていない状態でメッセージが届いた場合、視界の左下に人を型どった小さなマークが出現する事が判明した。これなら戦闘中でも邪魔にはならないと言う事で、一安心である。
「まあそれでも戦闘中は危ないから、俺達からチャットするのは控えるよ。バルタのいいタイミングでチャットしてくれ。そうすれば、今の熟練度を教えたり出来るだろうし、効率的だろ?」
「なるほど、そいつはありがてぇ。そん時は頼みますぜ! では、ちょっくら行ってきまさぁ!!」
そう言ってバルタは馬車から飛び出し、その瞬間にフッと消えた。
「えっ!?」
「ガモン、あそこ見てごらん」
突然に姿を消したバルタに驚愕していると、ティムが俺の後ろから手を伸ばし、その指し示された場所を見ると、膝ほどまで伸びた草原が割れては閉じるのを確認できた。
「前にも言ったけど、バルタはかなり優秀な冒険者だったんだよ。『影纏い』の二つ名がつく程のね。ああして自分の存在感を消し去る位は、やってのけるよ。ちなみに本当に消えたんじゃなく、そう見せただけだからね?」
「うおお…………、マジかよ…………」
冒険者…………って言うか、バルタ凄ぇ。ひのきの棒一本で魔物ひしめく森の中に入るなんて無茶だろと思ったが、あれなら全く問題なさそうだ。
…………その後、バルタはモンスターを二十体狩る度に、チャットを入れて熟練度を聞いて来たのだが、その間隔は精々が五分程だった。
五分でモンスターを二十体も見つけて狩るとか。ちょっと意味が分からない。バルタは確かに優秀な、いや優秀過ぎる元・冒険者であるようだった。
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