225回目 バルタの希望
最難関ダンジョン『邪眼族の螺旋迷宮』は、隣国であり俺が召喚された国でもある『テルゲン王国』の東にあるダンジョンである。
最難関と言われるだけあって、もちろん未踏破。バルタも何度か挑んだが、全て十階層を少し越えた所で引き返す事になった。
理由は、他に類をみない厄介さにある。俺のスキルによる説明文にも、『邪眼族に見つかってはいけない、石に変えられてしまうから。邪眼族を殺してはいけない、邪鼠が集まって来るから。その場に長く留まってはいけない、迷宮の悪意に呑まれてしまうから』とある。
これの意味する所を聞いてみると、まず『邪眼族の螺旋迷宮』は、一階層が四分割されており、そのワンフロアに敵は一体のみである。つまり一階層につき四体しか敵は居ないのだ。
その代わり、その敵である『邪眼族』が、まず厄介だ。邪眼族は蛇の頭を持つ人型モンスターで、その『邪眼』と目を合わせると『石化』させられてしまう。
なら倒せばいいと倒してしまうと、そのワンルームの壁に空いた無数の穴から『邪鼠』と言うネズミ型モンスターが床や壁を埋め尽くす程に出て来る。しかもそのネズミは『疫病』という名のスキルを持っている。
この『疫病』とは、要するにデバフも含めた状態異常の事だ。『疫病』は数あるデバフや状態異常の中からランダムで一つを無理やり付与する。
しかもそのデバフは一度発現するとダンジョン全体に広まり、ダンジョンから出ない限りは解除出来ない。
そして次の階でも『邪鼠』が出ると、『疫病』はまた一つ増えて…………と、ドンドン積み重なっていくのだ。…………ガチヤベェ。
「…………つまり全ての邪眼族から逃げながら、ダンジョンを進むしか無いのか」
「それが難しいんでさぁ。前に一度、姿を消せる魔法使いと組んで行った事がありやすが、姿は見えず、気配も消していたにも関わらず発見されて、魔法使いがアッサリと石にされやした。何とか担ぎ上げて逃げられやしたが、危うく死ぬ所でしたぜ」
「ああ、蛇って熱を感知するんじゃなかったか? 何だっけ、確か…………何とか器官」
…………後で調べたら『ピット器官』って言う器官でした。何でも軍用機並みの性能を誇るとか。そりゃ姿を消した位じゃ発見されますわ。
「…………熱を感知…………ですかい。なるほど、そりゃあり得る話だ。…………まぁ何にせよ、その邪眼族の察知能力がこの上なく厄介でしてね。眠らせたり麻痺らせたりしても、全てを無傷で突破するのは難しいんでさぁ。なもんで、あっしも先に進めていなかった」
ですが…………。と、ここでバルタは言葉を切り、テーブルの上に一つのアイテムを乗せた。そのアイテムは俺がこの世界に来て初めて手に入れたアイテムの一つ。初めて回したガチャから出て来た武器。
そう、『ひのきの棒』である。
「…………コイツは、あっしの希望です。この『ひのきの棒』が持つ『気絶』と言うスキルは、まさにあっしが探し求めていたスキルでやした!」
ひのきの棒が持つスキル『気絶』。その能力は『意識外の一撃により相手の意識を刈り取る。もしくは死角からの一撃により、6割の確率で気絶させる』と言うものだ。
「意識の外から攻撃を当てる事で、相手を確実に『気絶』させるスキル。これがあれば、あのダンジョンの邪眼族を確実に無効化できる。これこそ、あっしが長年求めていたスキルでさぁ!」
確かに、いま聞いた『邪眼族の螺旋迷宮』の情報からすると、『ひのきの棒』は必須アイテムだ。なにせ『ひのきの棒』の『気絶』は、条件はあるが相手を殺す事なく気絶させ、しかもその効果は、装備さえしていれば他の武器にも適用される。サブウェポンにしておけば、メインウェポンにも『気絶』が乗るチート仕様なのだ。設定をミスったとしか思えない。
「でも、それなら何で一人で行かなかったんだ? バルタなら、『ひのきの棒』さえあれば一人でも攻略できるだろ?」
「あっしも最初はそのつもりでした。ただ、カラーズカ侯爵には恩もあり、お嬢に情も湧いてやしてね。お嬢を侯爵様にキチンとお返しするまでは離れられなかったんでさぁ。そんで、いよいよとなったら『フレンド・クエスト』でしょう? こりゃ、ガモンの旦那の力が必要になるのかも知れねぇと思ったんでやすよ」
「…………なるほど。まあ、俺のと言うよりも『ガチャ・マイスター』の力だとは思うけど、確かにクエストになった以上は、俺と行った方が確実だとは思う」
俺のスキルなら、金さえ入れておけばガチャを回し巻くって状況を変える事も出来そうだからな。…………ただ問題は、その『邪眼族の螺旋迷宮』に行くのがメッチャ怖い事だろうか。
いやだって怖いだろ。ガッツリ呪いのダンジョンだぞ? しかも最難関の。蛇の頭を持つ人型モンスターってだけで怖いのに人を石化させる邪眼持ちで、しかも倒すと『疫病』を持ったネズミがわんさか出て来るんだろ? そんな所に突っ込んで行くなんて正気じゃない。
バルタの為だから行くけども、準備はしっかりしよう。他の仲間は残していく訳だし、そっちの事も考えないといけないしな。
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